2013年1月19日土曜日

学術書の覚書 [Ocean Biogeochemical Dynamics]

Ocean Biogeochemical Dynamics
Jorge L. Sarmiento & Nicolas Gruber (2006)
Princeton University Press, 526 pp.


炭素循環を中心にした、海洋生物地球化学の教科書。M2の時に買ってD3になってようやく読みきったので、まとめておきます。研究が海洋生物地球化学に関連する人には、扱う時代を問わず、非常にオススメです。輪講に使っている研究室も多いのではないでしょうか。

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章立ては、以下の全10章。
1: Introduction
2: Tracer Conservation and Ocean Transport
3: Air-Sea Interface
4: Organic Matter Production
5: Organic Matter Export and Remineralization
6: Remineralization and Burial in the Sediments
7: Silicate Cycle
8: Carbon Cycle
9: Calcium Carbonate Cycle
10: Carbon Cycle, CO2, and Climate。

1章の序論に始まり、2-3章で基礎的な物理・化学プロセスを紹介して、4-9章が生物地球化学プロセスの各論で、最後の10章で気候変動と海洋生物地球化学の関係を総合的に論じる、という全体の構成。

個人的には、有機物の生産・分解・埋没を扱う4-6章と、第四紀の氷期間氷期サイクルと炭素循環の関係を論じた10章後半が、特に参考になった。他にも、海洋循環の様式や、シリカや炭酸塩の生物地球化学なども、目からウロコな項目が多かった。

本書が教科書として素晴らしい点は、「謎解きしていく構成」と「定量的な議論」の主に2点かなと思う。

1,謎解きしていく構成
各章は基本的に、海洋化学組成分布など観測事実をまず示して、「さて、ではなぜこのような分布になっているのだろうか?」と読者に問いかけた後、様々なプロセスを紹介して謎解きしていく構成になっている。

例えば4章(海洋表層での有機物生産)では、まず下記の海洋表層の硝酸塩濃度分布図が示される。


多くの海域では表層硝酸塩濃度がほぼゼロな一方で、南大洋や北太平洋、東部赤道太平洋など一部の海域では硝酸塩が高濃度に存在する状態(いわゆるHNLC)になっている。そこで「さて、ではなぜこのような分布になっているのだろうか?」と、筆者たちは問いかける。確かに不思議で、ちょっと考えただけでは統一的な説明は難しい。

4章の中では、海流、化学量論、光条件、藻類や動物の生態、微生物ループ、微量元素などなど、様々なプロセスや環境因子の詳細が紹介されていく。それらが海洋生態系モデルとしてまとめられ、その挙動が解析され、最終的には当初の疑問(ここではHNLCの原因)について、筆者たちが考えている仮説が示され、(一応の)統一的な説明が得られる。

読み終わると、「なるほどなぁ」と感心する一方で、まだ謎解きは決着していないことにも気付かされ(多くの場合で示されるのは仮説)、さらに好奇心をくすぐられることになる。


2,定量的な議論
本書では、生物地球化学プロセスの説明では、数式を用いた定量的な議論が、できる限り試みられている。ただし、あまり複雑な数式やモデルは登場せず、そのプロセスに本質的な因子だけを取り出したシンプルな式がほとんどで、文章を読んでいればその式の意味が自ずと分かるように書かれていて、分かりやすい。(自分も物理や数学は得意な部類ではないけど、数式の多くに付いていけた)

例えば、4章では海洋表層の生態系モデルが解説されており、例えばそのうちN-PモデルやN-P-Zモデルでは、無機窒素プールや藻類バイオマス、動物プランクトンバイオマスそれぞれのインプットとアウトプットのフラックスが、下記図のように定式化されており、わりと単純な式で表現されているのが分かる。


各モデルのパラメータを振った時の挙動が解析され、例えば4章では「どのような条件で海洋表層硝酸塩がゼロにならないか」が調べられていき、当初の疑問への答えへとつながっていく。


なお、全体的に地球化学的・地球物理学的な視点で書かれていて、生物学的な記述は比較的控えめになっている。

著者のJorge L. Sarmiento(プリンストン大学教授)は主に海洋炭素循環モデルの研究で有名で、海洋生物地球化学分野の大御所の一人。Nicolas Gruber(スイス連邦工科大学教授)も、まだ40代だけど、既に大御所級の業績を残している(海洋CO2の研究も有名だけど、個人的には海洋窒素循環のイメージが強い)。

なお、本書に掲載されている図は、著者のウェブサイトでPDFもしくはPPTファイルとしてダウンロードでき、授業などに使用可能になっている。また、1章と10章はPDFで試し読みが可能。
http://www.up.ethz.ch/people/ngruber/textbook/

2013年1月6日日曜日

集めた論文の覚書 [ペプチドグリカンの生化学] Literature Review [Biochemistry of peptidoglycan]


バクテリアのペプチドグリカンに関連して集めた論文たちのメモ。ペプチドグリカンについては、環境中の有機物としてけっこう寄与が大きいのでは?と言われて議論が続いている(例えば、McCarthy et al., 1998, Science とか)。今回は、主に微生物学・生化学的なレビュー。年代順。後で読む。

Schleifer, K.H., Kandler, O.
Bacteriological Reviews 36, 407–477. (1972)

Caparros, M., Pisabarro, A.G., de Pedro, M.A.
Journal of Bacteriology 174, 5549–5559. (1992)

Van Heijenoort, J.
Cellular and Molecular Life Sciences : CMLS 54, 300–304. (1998)

Sleytr, U.B., Beveridge, T.J.
Trends in Microbiology 7, 253–260. (1999)

Friedman, M.
Journal of Agricultural and Food Chemistry 47, 3457–3479. (1999)

Yoshimura, T., Esak, N.
Journal of Bioscience and Bioengineering 96, 103–109. (2003)

Cloud-Hansen, K.A., Peterson, S.B., Stabb, E. V, Goldman, W.E., McFall-Ngai, M.J., Handelsman, J.
Nature Reviews Microbiology 4, 710–716. (2006)

Meroueh, S.O., Bencze, K.Z., Hesek, D., Lee, M., Fisher, J.F., Stemmler, T.L., Mobashery, S.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 103, 4404–4409. (2006)

Vollmer, W., Bertsche, U.
Biochimica et Biophysica Acta 1778, 1714–1734. (2008)

Vollmer, W., Blanot, D., De Pedro, M. A.
FEMS Microbiology Reviews 32, 149–167. (2008)

Barreteau, H., Kovac, A., Boniface, A., Sova, M., Gobec, S., Blanot, D.
FEMS Microbiology Reviews 32, 168–207. (2008)

Vollmer, W., Joris, B., Charlier, P., Foster, S.
FEMS Microbiology Reviews 32, 259–286. (2008)

Vollmer, W.
FEMS Microbiology Reviews 32, 287–306. (2008)

Reith, J., Mayer, C.
Applied Microbiology and Biotechnology 92, 1–11. (2011)

Lovering, A.L., Safadi, S.S., Strynadka, N.C.J.,
Annual Review of Biochemistry 81, 451–478. (2012)

Johnson, J.W., Fisher, J.F., Mobashery, S.
Annals of the New York Academy of Sciences (2013)