2011年12月31日土曜日

読んだ本まとめ2011


記録のために、Twitterから抽出してまとめておきます。単行本は79冊(上下巻などはまとめて1冊としてカウント)。内訳は、小説が44冊、科学関連書が33冊、その他が2冊(写真本とSF評論)。年間100冊が目標なのですが、週2冊のペースとなると、なかなか難しいところ。最近は、買うスピードが完全に読むスピードを上回って、積ん読が部屋に積み上がっていく一方です。。。

小説と科学関連書でそれぞれ個人的Best 5を選ぶと(2011年に出版された本ではなく、山口が2011年に読んだ本の中で)

[小説]
1. 『ディアスポラ』(グレッグ・イーガン 著)
2. 『結晶世界』(J・G・バラード 著)
3. 『ハーモニー』(伊藤計劃 著)
4. 『未來のイヴ』(ヴェリエ・ド・リラダン 著)
5. 『とうに夜半を過ぎて』(レイ・ブラッドベリ 著)

[科学関連書]
1. 『破壊する創造者 ウイルスがヒトを進化させた』(フランク・ライアン 著)
2. 『恐竜再生 ニワトリの卵に眠る、進化を巻き戻す「スイッチ」』(ジャック・ホーナー&ジェームズ・ゴーマン 著)
3. 『大陸と海洋の起源』(ヴェーゲナー 著)
4. 『素粒子物理学をつくった人びと 上・下』(ロバート・P・クリース、チャールズ・C・マン 著)
5. 『科学哲学の冒険 サイエンスの目的と方法を探る』(戸田山和久 著)

あたり。一言感想やリンクはそれぞれ下記に。

2011年12月28日水曜日

個人的「この論文がすごい!」2011


主に有機物や微生物な生物地球化学分野(海洋メイン)で「Breakthrough of the Year」だと個人的に思った2011年出版の論文1-10位を、記録も兼ねて紹介します。われながらけっこうマニアックなチョイス。。。 他の人はどういうチョイスになるのかも興味があるところ。

TwitterやGoogleリーダーを使うようになってからBlogを放置していましたが、今後はこうした「特定のテーマで論文を選んで並べる」媒体として、ちょくちょく使っていこうと思います。

まずは10位から。

10, Dinosaur body temperatures determined from isotopic (13C-18O) ordering in fossil biominerals.
Eagle RA, Tütken T, Martin TS, Tripati AK, Fricke HC, Connely M, Cifelli RL, Eiler JM.
Science 22 July 2011: Vol. 333 no. 6041 pp. 443-445, DOI: 10.1126/science.1206196
→自分の研究とはあまり関係ないけど、前々から気になっていた「13C-18O古温度計」を恐竜体温復元に応用した研究。ついにきたか!という意味で入れました。36-38℃ぐらいで現世哺乳類と同じくらいだったらしい。

9, Ultrahigh Efficiency Moving Wire Combustion Interface for Online Coupling of High-Performance Liquid Chromatography (HPLC)
Avi T. Thomas, Ted Ognibene, Paul Daley, Ken Turteltaub, Harry Radousky, and Graham Bench
Anal. Chem., 2011, 83 (24), pp 9413–9417
→有機分子レベル同位体組成分析のための基盤技術開発の論文で、地味だけど将来の展開を考えると重要。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分離した有機分子について、同位体比質量分析計(IRMS)や加速器質量分析計(AMS)で炭素同位体組成を測定する場合、燃焼もしくは化学処理でCO2に変換する必要がある。この論文では、moving wire combustionの効率をほぼ100%と大幅に改善し、HPLCとMSをオンラインでつなぐinterfaceとして使えるようにした。

8, Low stable carbon isotope fractionation by coccolithophore RubisCO
Amanda J. Boller, Phaedra J. Thomas, Colleen M. Cavanaugh, Kathleen M. Scott
Geochimica et Cosmochimica Acta, Volume 75, Issue 22, 15 November 2011, Pages 7200-7207
→主要な海洋藻類である円石藻(Emiliania huxleyi)の二酸化炭素固定酵素RubisCOの炭素同位体分別係数を調べたら、従来参照されてきたシアノバクテリア等の値(18-29‰)よりもかなり小さな値(11.1‰)だった。地味だけど重要。海洋の有機物d13Cを用いたこれまでの議論は、前提がいろいろと変わって再評価が必要になるかもしれない。今後はもっと他の生物の値を調べることが必要。

7, The case against climate regulation via oceanic phytoplankton sulphur emissions
P. K. Quinn & T. S. Bates
Nature 480, 7375 (2011). doi:10.1038/nature10580
→1987年に提唱されて大きく着目されたCLAW仮説を棄却しようというレビュー論文。海洋生物による硫化ジメチル(DMS)放出→大気中エアロゾル量変動→雲形成量変動→日射量変動という、生物による負のフィードバックによって気候が安定化しているという仮説だったが、最近20年以上の研究の蓄積によると、どうも成り立っていないらしい。まだこれから議論が続くのだろうけど、個人的に「DMS面白そうだからちょっと論文集めてみるか」と思っていた矢先に出た論文だったので、なかなか衝撃的だった。

6, Large inert carbon pool in the terrestrial biosphere during the Last Glacial Maximum
P. Ciais, A. Tagliabue, M. Cuntz, L. Bopp, M. Scholze, G. Hoffmann, A. Lourantou, S. P. Harrison, I. C. Prentice, D. I. Kelley, C. Koven & S. L. Piao
Nature Geoscience 5, 74–79 (2012) doi:10.1038/ngeo1324
→最終氷期最盛期(LGM)の陸地には、地球化学的に不活性な炭素(永久凍土など?)が現在よりも大量に蓄積されていたという推定。アイスコアのO2の酸素同位体組成と生物地球化学モデリングから。30年来の謎である「氷期間氷期サイクルの100ppm近い大気CO2濃度変動の原因」は、主に海洋のプロセスが着目されて膨大な研究がなされてきたが、振幅全体を説明するのが難しかった。陸の炭素の再評価により、謎は解決できるかもしれない?

5, Environmental evidence for net methane production and oxidation in putative ANaerobic MEthanotrophic (ANME) archaeae
Karen G. Lloyd, Marc J. Alperin and Andreas Teske
Environmental Microbiology (2011) 13(9), 2548–2564
→嫌気的メタン酸化アーキア(ANME)は、これまでメタン酸化が専門だと考えられてきたが、実はメタン生成もしている可能性を示した。むしろANMEのことは「メタン酸化ができるメタン生成菌」と捉えるのが妥当? まだ間接的な証拠だけど、もし本当なら大きな発想の転換になる。

4, Eocene global warming events driven by ventilation of oceanic dissolved organic carbon
Philip F. Sexton, Richard D. Norris, Paul A. Wilson, Heiko Pälike, Thomas Westerhold, Ursula Röhl, Clara T. Bolton & Samantha Gibbs
Nature 471, 349–352 (17 March 2011) doi:10.1038/nature09826
→温室地球だったEoceneで、海洋溶存有機物が大規模に酸化→大量のCO2(1600GtC以上)が放出→急激な温暖化という数万年スケールのイベントが、地球公転軌道の離心率変動に合わせて何度も起きていたという説の提唱。有孔虫d13Cからの推定。放出CO2の由来として「ガスハイドレート崩壊ではなさそう」ということで、消去法的に海洋溶存有機物と解釈している。なので本当かどうかは微妙なところだけど、地球史上の気候変動を海洋溶存有機物のダイナミクスと関連付けたことが新しい。

3, Nematoda from the terrestrial deep subsurface of South Africa.
Borgonie G, García-Moyano A, Litthauer D, Bert W, Bester A, van Heerden E, Möller C, Erasmus M, Onstott TC.
Nature 474, 79–82 (02 June 2011) doi:10.1038/nature09974
→南アフリカの鉱山深部(0.9-3.6km)に線虫を発見。深部地下生命圏で多細胞生物が発見されたのは初で、地下生命圏はけっこう複雑な生態系になっているのかもしれない。論文見たときは「まじかよ!?」という感じだった。海底下にもいるんだろうか…?

2, Possible influence of bacterial quorum sensing on the hydrolysis of sinking particulate organic carbon in marine environments
Laura R. Hmelo, Tracy J. Mincer, Benjamin A. S. Van Mooy
Environmental Microbiology Reports, Volume 3, Issue 6, pages 682–688, December 2011
→微生物間コミュニケーションが、海洋物質循環に影響している可能性を示した。具体的には、acylated homoserine lactones (AHLs) を介したクオラムセンシングによって、海洋沈降有機物の加水分解が制御されているかもしれない。このトピックは将来すごく発展しそうだし、自分も近い将来に参入したい。

1, Marine viruses and global climate change
Roberto Danovaro, Cinzia Corinaldesi, Antonio Dell'Anno, Jed A. Fuhrman, Jack J. Middelburg, Rachel T. Noble, Curtis A. Suttle
FEMS Microbiology Reviews, Volume 35, Issue 6, pages 993–1034, November 2011
→「海洋ウイルスと気候変動」のレビュー論文。最近10年くらいでだんだん注目されてきた、海洋ウイルスの生物地球化学的役割や、気候・海洋環境(水温、pH、O2濃度など)との関わりを、データはまだ限られるものの包括的に論じている。今後のこの分野の進展にとって、重要なランドマーク。個人的にはウイルスに本格的に興味を持ったきっかけとなって、今後の研究テーマを考える上で大きな影響を受けたという意味で第1位。


2011/12/31追記:
次点, Assimilation of upwelled nitrate by small eukaryotes in the Sargasso Sea
Sarah E. Fawcett, Michael W. Lomas, John R. Casey, Bess B. Ward & Daniel M. Sigman
Nature Geoscience 4, 717–722 (2011) doi:10.1038/ngeo1265
→KさんのBlogを読んで、Best10に入れるのをすっかり忘れていたのを気づいた一本。次点としてこっそり追加。サルガッソー海で植物プランクトンをフローサイトメトリーで原核と真核に分けてから窒素同位体組成を測定。小型真核藻類は、混合層以深の硝酸を窒素源としているかもしれない。また、深海に沈降粒子として落ちて行くのは主に真核。微生物細胞を種類で分けて同位体組成を測る技術、遠洋域の生物生産・窒素循環の描像、有機物窒素同位体組成の意味など、色々な意味で重要。