ドタバタしていて更新が遅れていた新着論文紹介を復活させました。これまで月ごとの「特に気になった新着論文」は10本未満に抑えようとしていましたが、今後は、本数はあまり気にせず「これはちゃんと読んだ方がいいな」と個人的に思った論文を載せておくことにしました。
あと各論文の一言コメントも全部付けていると終わらなくて、いつまでも紹介を載せらなくなってしまうので、付けない場合も多くなります。各論文をちゃんと読んだら、随時追記するかも。
Daniel P. Schrag, John. A. Higgins, Francis
A. Macdonald, David T. Johnston
Science
1 February 2013: Vol. 339 no. 6119 pp. 540-543, DOI: 10.1126/science.1229578
→地球史における海洋溶存無機炭素(DIC)のd13Cの変動は、これまで海洋堆積物での有機炭素(低いd13C値を持つ)の埋没フラックスの変動が原因として考えられてきたけど、実は堆積物中自生炭酸塩の埋没フラックスも重要だという提案。特に嫌気的な海洋では、有機物が分解されて生成されたDIC(低いd13C値を持つ)が、堆積物中で自生炭酸塩を作りやすく、海洋DICの同位体マスバランスに有意に影響しうる。つまり、これまでの有機炭素埋没フラックスの復元は間違っている可能性がある。特に後期原生代や古生代、三畳紀などでは、極端に高いDICのd13C値が報告されており、その値は自生炭酸塩形成で説明できる? 有機炭素埋没フラックスの復元は、特に大気酸素濃度の復元に重要なので、この話が本当だとすると、地球史の描像が変わってくる可能性もあり、非常に重要。
(参考:東大TさんもBlogに解説記事を書いています)
Pohlman, J.W., Riedel, M., Bauer, J.E.,
Canuel, E. a., Paull, C.K., Lapham, L., Grabowski, K.S., Coffin, R.B., Spence,
G.D.
Geochimica
et Cosmochimica Acta. Available online 4 February 2013
Wehrmann, L.M., Arndt, S., März, C.,
Ferdelman, T.G., Brunner, B.
Geochimica
et Cosmochimica Acta 109, 175–196. available online 8 February 2013
Dong, H.-P., Wang, D.-Z., Xie, Z.-X., Dai,
M.-H., Hong, H.-S.
Geochimica
et Cosmochimica Acta 109, 51–61. available online 8 February 2013
Zhao, Y., Temperton, B., Thrash, J.C., Schwalbach,
M.S., Vergin, K.L., Landry, Z.C., Ellisman, M., Deerinck, T., Sullivan, M.B.,
Giovannoni, S.J.
Nature
494, 357–360. Published online 13 February 2013
→海洋に非常に優占するバクテリアであるSAR11グループ(Pelagibacter
ubiqueなど)に感染するウイルスを単離。その遺伝子が海洋メタゲノムデータに多く存在することもわかった。SAR11が海洋中で非常に繁栄している理由として、これまで「ウイルス感染死を免れているから」という仮説があったが、今回の研究で棄却される。その代わりに、溶存態有機物の分解など、限られた資源を有効活用する能力に長けていることが、繁栄の理由と考えられる。
Bhatia, M.P., Das, S.B., Xu, L., Charette,
M.A., Wadham, J.L., Kujawinski, E.B.
Geochimica
et Cosmochimica Acta. Available online 14 February 2013
→グリーンランド氷床の融氷水の溶存態有機炭素(DOC)と懸濁態有機炭素(POC)。2010年にDOM組成の同定(by
ESI-FT-ICR-MS)は報告していて(Bhatia
et al., 2010, GCA)、今回はバルクで同位体組成分析。フラックスは大きな河川に匹敵するらしい。POCの方が多い。POCは濃度や放射性炭素濃度はあまり変わらないけれど、DOCはけっこう変わる。放射性炭素同位体的に“古い”けれど易分解性な有機炭素は、氷床の下の微生物が古い炭素を使って代謝しているのか、昔の有機物が氷床の下にそのまま残っているのか。
Subramaniam, A., Mahaffey, C., Johns, W.,
Mahowald, N.
Geophysical
Research Letters. DOI: 10.1002/grl.50250, Accepted manuscript online: 15 FEB
2013
Thomas, A.T., Stewart, B.J., Ognibene,
T.J., Turteltaub, K.W., Bench, G.
Analytical
Chemistry 85, 3644–3650. February 17, 2013
M. C. Bridoux, A. E. Ingalls
Geobiology,
published online: 19 FEB 2013, DOI: 10.1111/gbi.12028
→珪藻のバイオマーカーである長鎖ポリアミン(LCPAs)を、白亜紀や始新世の地層から検出。LCPAsは、珪藻がシリカの殻を作るときに使う有機分子。しかも白亜紀の地層では、堆積物の全有機炭素や全窒素の大半を占めるらしく、海洋堆積物中での有機物の保存・埋没メカニズムとしても重要そう。殻に保護されて分解をまぬがれる? 古環境復元の新たなツールとして有望。Bさんはここ数年、分析法開発、現世珪藻群集の分析など、LCPAsに関する論文を立て続けに出している。1年前の学会ではさらに、LCPAsを単離して炭素・窒素同位体組成分析をやりたいようなことを言っていた。
Koho, K. A., Nierop, K. G. J., Moodley, L.,
Middelburg, J. J., Pozzato, L., Soetaert, K., van der Plicht, J., and Reichart,
G-J.
Biogeosciences,
10, 1131-1141, doi:10.5194/bg-10-1131-2013, 2013. Published: 20 February 2013
Kalvelage, T., Lavik, G., Lam, P.,
Contreras, S., Arteaga, L., Löscher, C.R., Oschlies, A., Paulmier, A., Stramma,
L., Kuypers, M.M.M.
Nature
Geoscience 6, 228–234. Published online 24 February 2013
Bertram, S., Blumenberg, M., Michaelis, W.,
Siegert, M., Krüger, M., Seifert, R.
Environmental
Microbiology. DOI: 10.1111/1462-2920.12112, Accepted manuscript online: 25 FEB
2013
→嫌気的メタン酸化アーキア(ANME)がメタン生成代謝を行えることの証拠? 黒海のANME-1とANME-2が優占する微生物マットを使って、13C同位体ラベル実験。二酸化炭素やメタノールを使ったメタン生成が検出された。特にANME-1はメタン無しでも生存可能らしい。嫌気的メタン酸化代謝がメタン生成代謝と同じ酵素システムを使う逆反応であることは最近実証されたけど、やはり同じ微生物が両方できるんだなー。メタノール絡みの代謝も面白そう。あと、ANME-1のバイオマーカーになる新しいGDGTs脂質も見つかったらしい。
Hamme, R.C., Emerson, S.R.
Geophysical
Research Letters. Accepted manuscript online: 25 FEB 2013, DOI: 10.1002/grl.50275
Letscher, R.T., Hansell, D. A., Carlson, C.
A., Lumpkin, R., Knapp, A. N.
Global
Biogeochemical Cycles. DOI: 10.1029/2012GB004449, published online: 26 FEB 2013
Komada, T., Burdige, D.J., Crispo, S.M.,
Druffel, E.R.M., Griffin, S., Johnson, L., Le, D.
Geochimica
et Cosmochimica Acta 110, 253–273. available online 27 February 2013
Waterhouse, J.S., Cheng, S., Juchelka, D.,
Loader, N.J., Mccarroll, D., Roy Switsur, V., Gautam, L., 2013.
Geochimica
et Cosmochimica Acta 112, 178–191. 27 February 2013.