10月は9本。今月も豊作。尿素アンモニア酸化、河川有機物のD14C分布、アイスコア中シアノ細胞、糖分子内d13C分別、土壌有機窒素化合物、海洋堆積物d15N変質、堆積物の微生物電流、完新世気候変動とガスハイドレート、藻類アミノ酸d15N。
Laura Alonso-Sáez, Alison S. Waller, Daniel
R. Mende, Kevin Bakker, Hanna Farnelid, et al.
PNAS,
Published online before print October 1, 2012, doi: 10.1073/pnas.1201914109
→北極海の深海アーキアは、アンモニア酸化に尿素を使っているらしい。尿素を分解して生じたアンモニアを酸化して、そのエネルギーを使って、同じく尿素分解由来の二酸化炭素を固定しているらしい。メタゲノム解析と尿素取込実験。アミノ酸や重炭酸イオンの取込を使った従属栄養活性や独立栄養活性の見積もりが低くてこれまで謎だった。有機物を取り込んで、細胞内では独立栄養代謝を行うという、面白い代謝。
Rosenheim, B. E. and V. Galy (2012)
Geophys.
Res. Lett., 39, L19703, doi:10.1029/2012GL052883. published 3 October 2012.
→ガンジス川の懸濁態有機物について、段階熱分解で放射性炭素濃度の分布を測定。若い有機炭素と古い有機炭素がバイモーダルな分布を示した。ミシシッピ川の結果(GBCに投稿中らしい)はまた異なる分布を示し、河川システムによって異なる? 環境中有機物の放射性炭素濃度は通常はバルクで測定するので平均値が分かるだけだし、化合物レベル測定も未同定有機物は扱えなかったので、なるほどその手があったかと感心した研究。有機物動態を探る上で重要な情報になっていきそう。知らなかったけど、分析手法自体は2008年の論文で出ていた。
Price, P. B. and Bay, R. C.
Biogeosciences,
9, 3799-3815, doi:10.5194/bg-9-3799-2012, Published: 5 October 2012.
→北極や南極のアイスコア中に、10の0-3乗個/cm3のピコシアノバクテリア細胞が含まれているらしい。風で海洋から運ばれてきた? フローサイトメトリーで調べたり、クロロフィルやトリプトファンの蛍光成分で定量したり。散乱光を使えば、鉱物粒子などとは区別可能らしい。DNAも読めそうなので、70万年間分のアイスコアを使えば、3億世代分の進化を追うことが可能? 日本の国立極地研などと共同で、ドームふじアイスコアを使った研究が進行中らしい。
Alexis Gilbert, Richard J. Robins, Gérald
S. Remaud, and Guillaume G. B. Tcherkez
PNAS
2012 ; published ahead of print October 16, 2012, doi:10.1073/pnas.1211149109
→C3植物の六炭糖の炭素同位体組成の分子内分布を13C-NMRで測定。イソメラーゼ反応(グルコース←→フルクトースの変換)とインヴァターゼ反応(スクロース→グルコース+フルクトースの開裂)による、炭素部位ごとの炭素同位体分別係数。糖代謝モデルを用いた計算でもうまく再現できるらしい。糖を分解して生じる二酸化炭素や、他の有機化合物(脂質、アミノ酸など)の炭素同位体組成を理解するのに重要。現東工大のGさん。
Charles R. Warren
Soil
Biology and Biochemistry, Available online 18 October 2012
→土壌水中の低分子有機窒素化合物(<250Da)を、キャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)で分析、同定。いわゆる“メタメタボロミクス”。100個ぐらいのピークのうち、58個は同定できたらしい。タンパク性アミノ酸が濃度の半分ほどを占めるが、四級アンモニウム化合物や非タンパク性アミノ酸がけっこう入っていて、意外と多様。海洋堆積物ではどうなんだろうというのが当然気になる。CE-MSかー。
Robinson, R.S., Kienast, M., Luiza
Albuquerque, A., Altabet, M., Contreras, S., et al.
Paleoceanography,
27, PA4203, doi:10.1029/2012PA002321. published 23 October 2012.
→海洋堆積物におけるバルク窒素同位体組成の変質について、コンパイル&レビュー。特に、セディメントトラップと堆積物表層の窒素同位体組成の差のデータを100地点以上コンパイルしたのが重要。堆積物表層での変質は、水深とそこそこ相関があるので、酸素接触時間(OET)が重要? でも結局メカニズムはよく分からないようだ(だからこそアミノ酸分析!というのもあるけど)。URIのRさんをはじめ、業界関係者がたくさん名を連ねている。あと論文の主題とあまり関係ないけど、本文中に「アナモックス代謝の窒素同位体分別」(論文準備中)という記述があるのが気になる。
Christian Pfeffer, Steffen Larsen, Jie
Song, Mingdong Dong, Flemming Besenbacher, et al.
Nature
(2012) doi:10.1038/nature11586, Published online 24 October 2012
→海洋堆積物中のバクテリアのフィラメントを介して、cmスケールで電気が流れているという直接証拠が、ついに得られたらしい。間接的証拠から推察していたNielsen
et al. (2010, Nature) の続き。堆積物表層での酸素消費代謝と、酸素がない堆積物深層での硫化物酸化代謝とを、空間的につなぐ役割。2010年に論文出たときは、種間電子伝達でつながっているかなと思っていたけど、1種類の微生物でつなぐというのがけっこう驚き。海洋堆積物の生物地球化学を考える上で超重要。色々と妄想が広がる。
Benjamin J. Phrampus & Matthew J.
Hornbach
Nature
490, 527–530 (25 October 2012) doi:10.1038/nature11528
→完新世におけるメキシコ湾流の変化が、北米大陸縁辺部の海底温度を最大8℃上昇させ、2.5GtCのガスハイドレートを不安定化させ、大量のメタンを放出させている? 地震波構造探査とハイドレート安定域のモデリング。気候変動と海洋堆積物生物地球化学の関係という点で興味深い。海底の温度って、意外と短い時間スケールで大きく変わりうるんだな。今回は北大西洋西岸の話だけど、南海トラフとか黒潮とか北太平洋西岸はどうなんだろう?
Matthew D. McCarthy, Jennifer Lehman,
Raphael Kudela
Geochimica
et Cosmochimica Acta, Available online 31 October 2012
→海洋藻類(真核&原核)のアミノ酸窒素同位体組成。たくさんの種を培養して、複数のアミノ酸の分析結果を統計解析すると、真核藻類と原核藻類(シアノバクテリア)を区別可能らしい。学会等で1年以上前から内容は知っていたけど、一応入れておく。UCSCのMさんら。