11月も9本。海洋沈降粒子バラスト仮説への疑問、ANMEの意外な代謝×2、ウイルス計数への疑問×2、植物有機物dD、堆積物微生物C:N:P比、シアノバクテリア中のケイ素、南極氷床湖の微生物生態系。日付順です。
Wilson, J. D., S. Barker, and A. Ridgwell
Global
Biogeochem. Cycles, 26, GB4011, doi:10.1029/2012GB004398. published 2 November
2012.
→海洋の沈降粒子の有機物と炭酸塩などの生物源鉱物の関係を、全球まとめてではなく海域ごとに分けて解析(Geographically Weighted Regression)。海域ごとに両者の関係は異なっていて、生物源鉱物が粒子沈降速度を加速させて有機物フラックスを増やすという「バラスト仮説」のメカニズムは単純ではなく、海洋表層生態系に大きく影響を受ける? 海洋炭素循環を考える上で重要。
Matthias Y. Kellermann, Gunter Wegener,
Marcus Elvert, Marcos Yukio Yoshinaga, Yu-Shih Lin, Thomas Holler, Xavier
Prieto Mollar, Katrin Knittel, and Kai-Uwe Hinrichs
PNAS
2012 ; published ahead of print November 5, 2012, doi:10.1073/pnas.1208795109
→Guaymas Basinの熱水域堆積物の嫌気的メタン酸化微生物群集(ANME-1/SRB)で、炭素&水素の安定同位体ラベル脂質取込実験。ANME-1アーキアは、メタンを酸化しているけれど、メタンを炭素源としているわけではなく、無機炭素を取り込んで炭素固定しているらしい。従来、やたらと13Cに乏しいANMEアーキア脂質(-100‰とか)は「13Cに乏しいメタンを同化していたから」と考えられてきたけど、見直しが必要かもしれない。ふーむ。でも、脂質リサイクル的な話を考えると、どうなるんだろう?? BremenにいたKさん。
Jana Milucka, Timothy G. Ferdelman, Lubos
Polerecky, Daniela Franzke, Gunter Wegener, Markus Schmid, Ingo Lieberwirth,
Michael Wagner, Friedrich Widdel & Marcel M. M. Kuypers
Nature
(2012) doi:10.1038/nature11656, Published online 07 November 2012
→嫌気的メタン酸化に、続けて驚きのニュース。ANME/SRB共生系ではなく、アーキアが単独でも嫌気的メタン酸化を行うことを発見。硫酸を還元してゼロ価の硫黄を生成する代謝。そのゼロ価硫黄はデルタプロテオバクテリアによって不均化されるらしい。話がさらにややこしくなってきて、海洋堆積物の炭素・硫黄循環の描像をまた考え直す必要があるかもしれない。
Patrick Forterre, Nicolas Soler, Mart
Krupovic, Evelyne Marguet, Hans-W. Ackermann
Trends
in Microbiology, Available online 7 November 2012
→環境中のウイルスの研究として、SYBR
Greenなどの蛍光試薬で染めて蛍光顕微鏡で数を数える手法がよく用いられてきたけど、過大評価している危険性があるのでは?という指摘。微生物が放出した小胞(membrane-derived vesicles: MVs)やgene transfer agents (GTAs) 、細胞の破片などをウイルス粒子と誤認してしまっているかもしれない。
Nicole DeBond, Marilyn L. Fogel, Penny L.
Morrill, Ronald Benner, Roxane Bowden, Susan Ziegler
Geochimica
et Cosmochimica Acta, Available online 7 November 2012, ISSN 0016-7037,
10.1016/j.gca.2012.10.043.
→6種類の植物のセルロース、ヘミセルロース、リグニンの水素同位体組成(dD)を分析。リグニンはバルクより50‰ほど軽く、セルロースより100‰ほど軽い。土壌や堆積物のバルク有機物の水素同位体組成を、有機物の選択的分解の指標にできるかも?
A.K. Steenbergh, P.L.E. Bodelier, M.
Heldal, C.P. Slomp, H.J. Laanbroek
Environmental
Microbiology, Accepted manuscript online: 12 NOV 2012
→貧酸素な堆積物でリン無機化が促進されるのに、微生物のC/P比が高いことが効いている? バルト海堆積物中から微生物細胞を分離して、そのC:N:P比を蛍光X線微小分析。C/N比はRedfield比に近い値(6.4)だったけど、C/P比は400と高い値だった。核酸量が変わっているのか、脂質の組成を変えているのか。白亜紀などの海洋無酸素事変(OAE)とか考える上でも面白い。海底下深部堆積物の微生物のC:N:P比とかも測れるのだろうか。
Grieg F Steward, Alexander I Culley, Jaclyn
A Mueller, Elisha M Wood-Charlson, Mahdi Belcaid & Guylaine Poisson
The
ISME Journal, advance online publication 15 November 2012; doi: 10.1038/ismej.2012.121
→4番の論文では「ウイルス数を過大評価」という話だったけど、こちらは「ウイルス数を過小評価しているのでは?」という話。ハワイ沿岸の海水で、RNAウイルスとDNAウイルスの数を比較したら、RNAウイルスが多い場合もあった。現在の蛍光顕微鏡によるカウントでは二本鎖DNAウイルスしか計数していないので、もし今回の結果が一般的だとすると、ウイルスの量や生産量の見積もりがやはり要見直し。
Stephen B. Baines, Benjamin S. Twining,
Mark A. Brzezinski, Jeffrey W. Krause, Stefan Vogt, Dylan Assael & Hannah
McDaniel
Nature
Geoscience (2012) doi:10.1038/ngeo1641, Published online 18 November 2012
→海洋のケイ素の生物地球化学には、珪藻がもっとも重要な生物と考えられてきたけど、実はピコシアノバクテリアも(特に貧栄養海域で)かなり重要かも? Synechococcusの細胞をシンクロトロンX線蛍光顕微鏡で化学組成分析したら、Si:S比やSi:P比が珪藻と近い値だった。ケイ素循環は海洋炭素循環とも関わりが深いけど(特に第四紀の氷期間氷期サイクルでは注目されている)、色々と見直しが必要かもしれない。なぜシアノがケイ素を貯めこむのかも気になる。
Alison E. Murray, Fabien Kenig, Christian
H. Fritsen, Christopher P. McKay, Kaelin M. Cawley, et al.
PNAS
2012 ; published ahead of print November 26, 2012, doi:10.1073/pnas.1208607109
→南極の氷に閉ざされた、水温マイナス13度(!)の塩湖Lake Vidaに微生物が見つかった。1mLに10の5乗ぐらいと、けっこうたくさんいる。H2、N2O、Fe、Mnなどの濃度が高く、溶存有機物濃度もかなり高いなど(~50 mM)、地球化学的にも色々と気になる。同位体分析からソースの議論も色々としている。湖が隔離されて3000年近く経っているのに、硝酸や硫酸がまだ存在するのは、非生物的な塩水-岩石反応が電子受容体を供給しているから?