2013年3月2日土曜日

特に気になった新着論文 2013年1月 New Papers (Jan. 2013)


1月は9本。土壌酵素活性2次元マッピング、微生物有機分子交換3次元マッピング、H2-N2温室効果、堆積物d15Nコンパイル、圧力と海洋微生物、生命起源の新仮説、火星の地下生命圏、土壌有機炭素無機化の制御要因、対流圏上層の微生物。日付順。

Marie Spohn, Andrea Carminati, Yakov Kuzyakova
Soil Biology and Biochemistry, Volume 58, March 2013, Pages 275–280, Available online 2 January 2013
→土壌中の酵素活性の分布を、土壌構造を破壊せずにin situに二次元マッピングする手法。基質を含ませた薄層ゲルを土壌に当ててインキュベーションして、基質濃度の変化から酵素活性分布を求める。これまで医学生理学などで使われてきた技術の応用。うまくすれば海洋堆積物にも使えそうだ。

Jeramie D Watrous, Vanessa V Phelan, Cheng-Chih Hsu, Wilna J Moree, Brendan M Duggan, Theodore Alexandrov and Pieter C Dorrestein
The ISME Journal, (3 January 2013) | doi:10.1038/ismej.2012.155
→微生物コロニーを何枚もの薄片に分けて、MALDI-TOF-IMS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型イメージング質量分析計)による有機分子の二次元マッピングを積み重ねて、微生物種間での有機分子のやり取りを三次元でマッピング。有機分子の空間分布をマッピングするこうした技術は、今後どんどん発展していきそう。そのうち、堆積物や土壌中の有機分子をまとめて三次元マッピングするようになった時に、どんな現象が見えてくるか。

Robin Wordsworth, Raymond Pierrehumbert
Science 4 January 2013: Vol. 339 no. 6115 pp. 64-67, DOI: 10.1126/science.1225759
→「暗い太陽のパラドックス」を解決するメカニズムとして、大気中の高濃度のH2分子とN2分子の衝突による温室効果を提唱。例えば、大気N2量が現在の2-3倍あってH2がその1/10くらいあると、CO2量が現在の2-25倍程度しかなくても、太陽光量が現在の75%の時に気温が0℃を上回るらしい。水素資化メタン生成微生物が増えてくると、この温室効果が失われて寒冷化する? 系外惑星や初期火星でも重要な温室効果メカニズムかもしれない。なるほどなぁ。H2の起源としては、地球内部からの脱ガスを想定している模様。

J.-E. Tesdal, E. D. Galbraith, and M. Kienast
Biogeosciences, 10, 101-118, 2013. Published: 9 January 2013.
→海洋堆積物のバルク窒素同位体組成(d15N)のコンパイルとデータベース構築。表層堆積物は2300地点、海底下堆積物は173地点。役立つ。d15N記録に堆積物中変質が与える影響も考察している。先日出たRobionson et al. (2012, PA) が沈降粒子と表層堆積物の間の変化に着目しているのに対して、この論文では表層堆積物から深部堆積物にかけての変化を主に議論している。深部(=古い)ほど徐々にd15N値が低くなっていく傾向が認められるとして、「d15N値が高い有機分子が徐々に分解されていくためだろう」と推察している。ふむ。

Christian Tamburini, Mehdi Boutrif, Marc Garel, Rita R. Colwell, Jody W. Deming
Environmental Microbiology, Accepted manuscript online: 14 JAN 2013, DOI: 10.1111/1462-2920.12084
→海洋の静水圧に対する原核生物の応答のレビュー。これまでに蓄積されてきた、高圧での微生物純粋培養実験の知見まとめ。成層化した海洋では、深海微生物が高圧に適応しており、低圧・大気圧条件のインキュベーションでは、有機物分解などの微生物活性を過小評価してしまう。一方で、混合や粒子沈降が活発な海域では、表層微生物が深海に輸送されるので、低圧・大気圧条件では、活性を過大評価してしまう。なるほど。

E. E. Stüeken, R. E. Anderson, J. S. Bowman, W. J. Brazelton, J. Colangelo-Lillis, A. D. Goldman, S. M. Som, J. A. Baross
Geobiology, Article first published online: 18 JAN 2013, DOI: 10.1111/gbi.12025
→初期地球における生命の起源は、単一の場所ではなく、複数の環境(大気、沿岸、海氷、海面、堆積物、熱水、地殻など)とそれらのつながりを考慮する必要があるというレビュー&仮説論文。それぞれの環境の非生物化学反応によって生成された有機分子が輸送されて集まることで生命システムが成立した?(“グローバルな化学反応炉”)という考え。鉱物を触媒にした前生命的代謝ネットワークに着目している。読めば勉強になりそう。

Joseph R. Michalski, Javier Cuadros, Paul B. Niles, John Parnell, A. Deanne Rogers & Shawn P. Wright
Nature Geoscience, Published online 20 January 2013, doi:10.1038/ngeo1706
→火星のMcLaughlinクレーターには、地殻深部の岩石が表面に露出しており、アルカリ性地下水の影響を受けて形成された鉱物が見られ、地下深部での水循環が過去にあったことを示唆する。そうした環境では、水素などをエネルギー源にした地下生命圏が存在していた可能性があり、将来の火星探査で岩石を調べれば痕跡が見つかるかもしれない?

Léo S. Ruamps, Naoise Nunan, Valérie Pouteau, Julie Leloup, Xavier Raynaud, Virginie Roy, Claire Chenu
FEMS Microbiology Ecology, Accepted manuscript online: 24 JAN 2013, DOI: 10.1111/1574-6941.12078
→土壌有機炭素の無機化を制御しているのは、生物的要因(微生物群集組成など)と非生物的要因(微生物の生息環境など)のどちらが重要か?という問題に対して、「ガンマ線で土壌殺菌→単一種バクテリアを再導入→土壌の微小な場所による無機化速度の違いをみる」というアプローチで評価。微生物の種類や代謝ではなく、土壌間隙スケールでの環境の違い(特に基質の可給性)が重要らしい?

Deleon-Rodriguez, N., Lathem, T.L., Rodriguez-R, L.M., Barazesh, J.M., Anderson, B.E., Beyersdorf, A.J., Ziemba, L.D., Bergin, M., Nenes, A., Konstantinidis, K.T.
Proceedings of the National Academy of Sciences of USA 110, 2575–2580. Published online January 28, 2013
→対流圏上層(高度10km)の微生物群集組成。バクテリアが1立方メートルあたり104乗くらいとけっこういて、0.25-1umサイズの粒子の20%を占める。真菌はバクテリアよりも桁で少ない。ハリケーンの後の試料では、平常時と群集組成が異なっていて、海洋バクテリアが多くなっている。強風で海洋表層から飛ばされてきた? 氷核や雲凝結核として、バクテリア細胞が従来想定よりもずっと重要かもしれない。微生物の種類によって核になる能力が異なる? 2012年の年末にも「雲中の微生物活動が大気化学に影響?」という論文(Vaïtilingomet al. 2013, PNAS)も出ていたので、合わせて気になる。