2013年6月に読んだ本の一言感想とリンク、印象的な一節の記録(Twitter+追記)。渡米前後でドタバタしていたので、5冊だけ。今月では特に『逆転世界』がすごかった。プリーストの最高傑作という宣伝文句もうなずける。
『どんがらがん』(アヴラム・デイヴィッドスン 著)
『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』(ウンベルト・エーコ/ジャン=クロード・カリエール 著)
『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』(ウンベルト・エーコ/ジャン=クロード・カリエール 著)
『幸福の遺伝子』(リチャード・パワーズ 著)
『逆転世界』(クリストファー・プリースト 著)
『都市と都市』(チャイナ・ミエヴィル 著)
2. 『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』(ウンベルト・エーコ/ジャン=クロード・カリエール 著)を読了。やっぱ紙の本だよねという話。紙の方が時間に対する耐久性があるのはたぶん実際そうで、なので僕もまだ電子書籍に手を出せないでいる。
3.
『幸福の遺伝子』(リチャード・パワーズ
著)を読了。生命科学の発見に翻弄される人たちと社会。まさに科学が物語の主題の一つだけど、現在進行形の世界や科学を描いていて、いわゆるSFとはまた違う読後感。カートンの科学者っぷりも好き。
“彼は“一番”の快楽を求めて必死に前進した。一番乗り、第一発見者、論文審査者の評価で一番。しかし彼が求めたのは単に最初ということにとどまらなかった。“一番”は単なる軽いおまけにすぎなかった。天地創造以来ずっとそこにあったにもかかわらず、自分がつかむまで誰も知らなかった真実を見つける。人間の脳に可能な幸福感でこれに勝るものはあり得ない。ドラッグよりもクリーンで、セックスよりも広大で強力。ハクスリーの言う“神聖なる渇酒癖”。一度それを味わった者は残りの生涯、同じものをさらに求め続ける。”
4.
『逆転世界』(クリストファー・プリースト
著)を読了。最初は何が逆転しているのか不明だったけど、後半で徐々に明らかになる世界の構造。何度も襲うコペルニクス的転回が脳を揺さぶる。これぞSF。うーんすごい。
“これまで特に天文学と天体物理学の授業では、つねに惑星は球体であると教えられてきた。地球――われわれの都市ではなく、惑星のほう――は偏球であると述べられていたし、その陸地の一部を地図で見せられたこともある。ただ、どうもこうした自然科学面を考えても仕方ないようだ。私はこれまで地球市の存在している世界は、惑星地球のように球体であるとばかり思い込み、その推測を打ち消すようなものは何も教えてもらわなかった。そもそも、世界の性質がおおっぴらに言及されることはまずなかったのである。
惑星地球が、ある恒星系の一部であり、球体の太陽をまわっていることは知っていた。惑星地球自体も一個の球体衛星を従えている。もちろん、この知識もいつものように理論だけのように思えた……そして、都市を出たとき、これらが現実に適用できなくても別に気にかからなかった。環境が異なっているという意識が、いつも先に立っていたからである。月と太陽が球体ではない? だけど、どちらも我々の住んでいる世界じゃないだろう?
だが疑問は残った。では、われわれはどこにいるのか?”
5.
『都市と都市』(チャイナ・ミエヴィル
著)を読了。モザイク状に同じ場所に重なりあう二つの都市国家。隣国の人・物は、視界に入っても見てはいけない。読み進める中でその奇妙な世界に自分もいつの間にか迷い込んでしまう眩暈感がすごい。
“私たちは子供のころから、たえずウル・コーマを<見ない>ようにしていられるよう、両親や教師に厳しく訓練されてきた(私たちべジェル人、そしてウル・コーマの同時代人が、常にお互いを意識せず総体局所的に近くにいるのは、すごいことだと誇示されながら)。私たちはよく、<異質>地区のむこうまで石を投げ、べジェルをぐるっと遠回りをしてそれを拾い、なにか悪いことをしなかったかと話し合ったりしたものだ。もちろん<ブリーチ>は決して出てこなかった。”