2012年12月31日月曜日

読んだ本まとめ2012


記録のために、Twitterから抽出してまとめておきます。単行本は94冊(上下巻などはまとめて1冊としてカウント)。内訳は、小説が60冊、科学関連書が32冊、その他が2冊。去年よりは冊数増えたけれど、年間100冊はまだ達成できず。

小説と科学関連書でそれぞれ個人的Best 5を選ぶと(2012年に出版された本ではなく、山口が2012年に読んだ本の中で)

[小説]
1, 『最後にして最初の人類』(オラフ・ステープルドン 著)
2, 『かめくん』(北野勇作 著)
3, 『ブラッド・ミュージック』(グレッグ・ベア 著)
4, 『竜の卵』(ロバート・L・フォワード 著)
5, 『海を見る人』(小林泰三 著)

[科学書]
1, 『科学革命とは何か』(都城秋穂 著)
2, 『科学と仮説』(ポアンカレ 著)
3, 『数学をつくった人びと』(ET・ベル 著:I-III巻)
4, 『「知」の欺瞞 ポストモダン思想における科学の濫用』(アラン・ソーカル、ジャン・ブリクモン 著)
5, 『恐竜はなぜ鳥に進化したのか 絶滅も進化も酸素濃度が決めた』(ピーター・D・ウォード 著)

あたり。一言感想やリンクはそれぞれ下記に。


個人的「この論文がすごい!」2012 Personal “Breakthrough of the Year” 2012


主に有機物や微生物な生物地球化学分野で、「Breakthrough of the Year」だと個人的に思った2012年の新着論文1-10位を、記録も兼ねて紹介します。自分の研究に直結した論文というよりは、もうちょっと広い分野から選んでいます。

重要な論文、すごい論文はたくさん出ていたけれど、特に初見時に「おいおい、まじすか!?」と個人的に驚いたかどうかを重視して選出しました。

まずは10位から。

Großkopf, T., Mohr, W., Baustian, T., Schunck, H., Gill, D., Kuypers, M. M. M., Lavik, G., et al.
Nature, 488 (7411), 361–364. doi:10.1038/nature11338. Published online 08 August 2012.
→海洋N2固定速度の見直し。7月のALSOでも講演があって話題になっていた話。15Nで安定同位体ラベルしたN2ガスを気泡として海水に加える従来手法では、N2ガスが溶けきらず、N2固定速度を過小評価してしまうらしい。15N2で飽和した海水を添加する新手法では、従来の1.7倍の速度が得られた。今年はこの論文以外にも、グローバルな海洋窒素収支を扱う論文はけっこう見かけて、「バランスしている」という論調が多かった印象。N2固定に関しては、UCYN-Aの共生相手が見つかったというニュースもあった。それにつけてもグローバルな生物地球化学プロセスのフラックスを見積もることの難しさよ。

Philippe Lesot and Olivier Lafon
Anal. Chem., DOI: 10.1021/ac300667n, Publication Date (Web): April 16, 2012
1本くらいはマニアックな同位体分析化学の論文も入れたいので、今年はこれで。有機分子の2H-13C同位体置換立体異性体を、多核NMRを用いて天然存在度分析に初めて成功。いやもう単純に「すごいな!」と思いました。まだ現状では100mgスケールと大量の物質が分析に必要なものの、技術が進歩して感度が上がれば、将来的には天然の物質にも適用可能になるかも? どんな情報を持っているかは現時点ではよく分からないけど、有機分子同位体組成な地球化学・生理学の未来を感じさせる。

Mickael Vaïtilingom, Laurent Deguillaume, Virginie Vinatier, Martine Sancelme, Pierre Amato, Nadine Chaumerliac, and Anne-Marie Delort
PNAS 2012 ; published ahead of print December 21, 2012, doi:10.1073/pnas.1205743110
→雲中の微生物活動が大気化学に影響? 「活動的な大気生命圏」という、地球惑星科学の中での新しいコンセプトで、今後の展開が大いに期待される。実際の雲試料を採取してきて、紫外線の有無×微生物の有無によって、化学成分がどう変化するかをインキュベーション実験でモニタリング。微生物の活動が、H2O2や有機化合物(酢酸、ギ酸など)を減らすらしい。実際の環境中での役割の評価はこれからだろうけど、純粋に面白い。

Sanjoy M. Som, David C. Catling, Jelte P. Harnmeijer, Peter M. Polivka & Roger Buick
Nature (2012) doi:10.1038/nature10890, Published online 28 March 2012.
27億年前の雨の痕跡から大気圧を復元すると、現在の2倍よりは小さく、現在と同じくらい以下である可能性が高いらしい。そんな手があるのか!と驚いた研究。古環境復元研究で唯一ランクイン。大気窒素が2倍あれば、pressure broadeningによる温室効果増幅で「暗い太陽のパラドックス」も説明が可能と言われてきたけど、ちと厳しいか? 「海洋堆積物の窒素埋没によって大気窒素量は減ってきている」説が最近気になっていたので、ちょっと残念。

Souichiro Kato, Kazuhito Hashimoto, and Kazuya Watanabe
PNAS, Published online before print June 4, 2012, doi: 10.1073/pnas.1117592109
→導電性鉱物を介した微生物種間の電子伝達が起きて、酸化還元代謝を共役させているらしい。従来は、化学物質(水素、ギ酸など)の拡散と、微生物細胞同士の結合(導電性ナノワイヤータンパクなど)が、種間電子伝達のメカニズムとして知られていた。どのくらいの空間スケールまでつながりうるのかが気になる。自然環境中の微生物同士の細胞レベルでのやり取りは今後も面白くなっていきそう。

Scott N. Montross, Mark Skidmore, Martyn Tranter, Anna-Liisa Kivimäki, and R. John Parkes
Geology, G33572.1, first published on December 13, 2012, doi:10.1130/G33572.1
→底面が融解したタイプの氷床の下では、微生物活動が岩石の化学風化を最大8倍も促進させる? 「地球化学的に活動的な生命圏」のレンジを大きく広げるという意味で、かなり重要。氷床の底面が融解しているかどうかというのは、第四紀の氷期間氷期サイクルなどを考える上でも重要なトピックで(研究室の先輩も研究している)、微生物活動への効果もあるのは、言われてみれば当たり前な気もするけど、これまで気がつかなくて「あーなるほどー」と驚いて感心した。スノーボールアースなど地球史における気候変動との相互作用も気になってくる。

Lenhart, K., Bunge, M., Ratering, S., Neu, T. R., Schüttmann, I., Greule, M., Kammann, C., et al. (2012)
Nature Communications, 3, 1046. doi:10.1038/ncomms2049. Published 04 September 2012.
→好気条件で培養した真菌がメタン生成したらしい。メタン生成アーキアが混入していないことは、FISHPCRなどで確認しているようだ。13Cラベル実験によると、メチオニン(!)の硫黄に結合しているメチル基が前駆体になっている可能性がある。メタン生成代謝は専ら嫌気環境のアーキアだけが行うと昔から言われてきたので、もしこれが本当で、しかも環境中で量的にも重要だとしたら、生物地球化学の色んな話が変わってきそう。続報を待ちたい。今年はメタンに関しては、隕石や酸化的土壌の有機物にUV照射すると非生物的にメタン生成するという話も出ていたし、海洋メタン過飽和の謎も解けそうだし、嫌気的メタン酸化(ANME)にも想定外の代謝が見つかったし、色々と面白かった。ドイツの活躍が目立つ。

Kevin R. Arrigo et al.
Science 15 June 2012: Vol. 336 no. 6087 p. 1408, DOI: 10.1126/science.1215065, Published Online June 7 2012
→北極の海氷(厚さ1mぐらい)の下で、大量の珪藻ブルームが発生しているらしい。北極域の生物生産見積もりは、従来は10倍ほど過小評価だった? 極域海洋の古海洋記録の一部も、解釈が変わってくるかも? 自然にはまだまだ知らない現象があるんだなぁと、純粋に驚いた研究。これもある意味、「地球化学的に活動的な生命圏」のレンジを広げる研究か。

Karine Lalonde, Alfonso Mucci, Alexandre Ouellet & Yves Gélina
Nature 483, 198–200 (08 March 2012) doi:10.1038/nature10855, Published online 07 March 2012.
→海洋堆積物中の有機物は2割前後が鉄と結合しているらしい。結合している有機物は比較的13Cと窒素に富んでいて、タンパク質(!)などかも? 海洋堆積物中で有機物が保存・埋没していくメカニズムやその制御要因は、いくつも説があって昔から謎が多かったが、鉄の役割がかなり大きそうということで、有機地球化学的に(&自分自身の研究にとっても)かなり重要な論文。土壌有機物の研究で使われていた鉄還元法を海洋堆積物に適用したことで分かった知見なので、陸域の研究と海洋の研究とをつなぐことの重要性も示している。土壌の勉強もちゃんとしないとなーということも思いました。

Kallmeyer, J., Pockalny, R., Adhikari, R. R., Smith, D. C., & D’Hondt, S.
PNAS August 27, 2012, doi: 10.1073/pnas.1203849109
1位にはこれを入れざるを得ない。堆積物海底下生命圏の微生物数・バイオマスの再評価。菌数カウントを遠洋域含めて様々な海域で行い、堆積速度や陸からの距離との関係から、全球分布を推定。Whitman et al. (1998) などの従来推定(菌数:1030乗、バイオマス:60-300 PgC)に比べてだいぶ減ってしまった(菌数:1029乗、バイオマス:4 PgC)。IODP航海の際に話には聞いていたし、まぁ減るんだろうなとは思っていたけど、予想を超えてずいぶんと減ってしまった。業界的には衝撃的で、けっこう盛り下がる話ではあるのだけど、やはり今後は「たくさんいます!すごいだろ!」ではなく、「物質循環にこんなに重要!」というのを示していく必要があるんだろう。有機物サイクル的に重要なのは間違いないので、その点ではいいんだけど。


各月の「特に気になった新着論文」まとめ:
合計で92本。「気になった新着論文」全体は、まだPDF落としてデータベースに入れていないものも多いので、未計数。

海洋メタプロテオミクス、マントル生命圏の痕跡?、同位体ラベルによる代謝速度変化、窒素固定シアノのクオラムセンシング、葉の非酸素発生型光合成バクテリア。

熱水窒素循環、海洋メタゲノム、海洋溶存有機物、土壌アミノ酸、最終退氷期気候変動、微生物16S、後期原生代炭素循環。

地殻内溶存有機物、安定同位体プロービング手法、堆積物有機物と鉄、堆積物バクテリアとDアミノ酸、黒の女王仮説、太古代の大気圧、海洋N*とリン無機化。

鉱物光触媒栄養生物、同位体立体異性体分析、化学合成共生メタプロテオミクス、アミノ酸分子レベル放射性炭素年代測定、陸域花崗岩生命圏。

海洋DON窒素同位体組成、DMS硫黄同位体組成、スーパーフレア、北太平洋環流域の好気的海底下生命圏、ジュラ紀メラニン色素、火星隕石有機物、紫外線照射による火星メタン生成。

宇宙線増加イベント、微生物電気共生、海氷下珪藻ブルーム、アーキアのクオラムセンシング、降水同位体組成変動ルール、バッタの“恐怖”とC/N比、海洋堆積物の電流生物地球化学、メタン発酵共生とアミノ酸、古生代の真菌リグニン分解酵素。

生物ポンプ隔離効率、グローバル海洋脱窒速度見直し、“ヒ素微生物”の否定×2、海洋溶存有機物中の謎の色素シグナル、顕生代硫黄循環の見直し×2、鉄還元アンモニア酸化。

海底下深部ウイルス生態、海洋N2固定速度見直し、樹木中メタン生成、タイタン大気アミノ酸&核酸生成、海底下堆積物生命圏量見直し、北極海沿岸の古い有機物、新生代CCD変動、南極堆積物メタン、メチルホスホン酸生合成。

真菌メタン生成、太古代有機硫黄同位体、18S rDNAの限界、2段階のマンガン還元代謝、珪藻ブルームと鉄と微生物、GDGT脂質レビュー、海洋N:P比と藻類多様性、UCYN-Aの共生相手、大気酸素分子clumped isotope

尿素アンモニア酸化、河川有機物のD14C分布、アイスコア中シアノ細胞、糖分子内d13C分別、土壌有機窒素化合物、海洋堆積物d15N変質、堆積物の微生物電流、完新世気候変動とガスハイドレート、藻類アミノ酸d15N

海洋沈降粒子バラスト仮説への疑問、ANMEの意外な代謝×2、ウイルス計数への疑問×2、植物有機物dD、堆積物微生物C:N:P比、シアノバクテリア中のケイ素、南極氷床湖の微生物生態系。

アナモックスレビュー、海底下機能遺伝子レビュー、氷床下生命圏の化学風化、微生物生態系の直接操作、N無機化の同位体分別、酸化的土壌メタン生成、雲中微生物代謝、海洋Zn濃度変遷。

特に気になった新着論文 2012年12月 New Papers (Dec. 2012)


12月は8本。アナモックスレビュー、海底下機能遺伝子レビュー、氷床下生命圏の化学風化、微生物生態系の直接操作、N無機化の同位体分別、酸化的土壌メタン生成、雲中微生物代謝、海洋Zn濃度変遷。日付順です。

Boran Kartal, Naomi M. Almeida, Wouter J. Maalcke, Huub J.M. Op den Camp, Mike S.M. Jetten, Jan T. Keltjens
FEMS Microbiology Reviews, DOI: 10.1111/1574-6976.12014, Accepted manuscript online: 4 DEC 2012.
→アナモックスバクテリアの代謝(異化&同化)についてレビュー。アンモニアや亜硝酸だけでなく、様々な種類の有機・無機化合物(ギ酸、プロピオン酸、メチルアミン、メタノール、二価鉄など)を代謝に使えることが分かってきたらしい。しかも、NOやヒドロキシルアミン、亜硝酸を不均化する代謝でエネルギーを得ている可能性もあるとか?? まだまだ謎がかなり多くて面白そう。

Mark Alexander Lever
FEMS Microbiology Ecology, DOI: 10.1111/1574-6941.12051, Accepted manuscript online: 10 DEC 2012
→海底下深部生命圏の機能遺伝子研究のレビュー。これまでにメタン代謝(mcrA)、硫酸還元(dsrAB)、酢酸生成(fhs)、脱ハロゲン呼吸(rdhA)が調べられてきたらしい。ただ、メタン代謝・硫酸還元代謝遺伝子を定量すると、その代謝を行っているのは微生物バイオマスの1%未満のみ? 現在の手法では多様性を引っ掛けられていない可能性もあるけれど。

Scott N. Montross, Mark Skidmore, Martyn Tranter, Anna-Liisa Kivimäki, and R. John Parkes
Geology, G33572.1, first published on December 13, 2012, doi:10.1130/G33572.1
→底面が融解したタイプの氷床の下では、微生物活動が岩石の化学風化を最大8倍も促進させる? 氷河の水と堆積物を使った長期(最長300日間)のインキュベーション実験。氷床の底面が融解しているかどうかというのは、第四紀の氷期間氷期サイクルなどを考える上でも重要なトピックで(研究室の先輩も研究している)、微生物活動への効果もあるのは、言われてみれば当たり前な気もするけど、これまで気がつかなかったな。スノーボールアース的な話を考える際にも面白い。

Heather E Reed and Jennifer BH Martiny
The ISME Journal, advance online publication, 13 December 2012; doi:10.1038/ismej.2012.154
→微生物の移動を防ぐ“檻”を使って、環境中の微生物群集組成を直接操作してやって、生物地球化学プロセスへの影響を調べてやるというアプローチ。おお、そんなことができるのかと驚いた。エスチュアリー堆積物で、1週間or7週間の実験。影響するらしい。

Jürgen Möbius
Geochimica et Cosmochimica Acta, Available online 19 December 2012, doi:10.1016/j.gca.2012.11.048.
→東地中海の堆積物コアで、バルク窒素同位体組成とバルク窒素量の関係(けっこうきれいな逆相関)を使って、窒素無機化(アンモニア生成)における動的窒素同位体分別係数を推定。分別係数は-1.4~-2.3‰くらいで、残りの有機窒素が重くなる? バルクな話ではあるけど、いい仕事するなぁ。

A. Jugold, F. Althoff, M. Hurkuck, M. Greule, K. Lenhart, J. Lelieveld, and F. Keppler
Biogeosciences, 9, 5291-5301, 2012, Published: 20 December 2012
→酸化的な土壌での非微生物的なメタン生成? 温度変化、紫外線照射や乾湿サイクルなどで、有機物が分解されて出てくるらしい。安定炭素同位体組成(d13C)は、-35.5~-69‰とかなりバラつく。ふーむ。フラックスは、気候変動による影響も受けやすい?

Mickael Vaïtilingom, Laurent Deguillaume, Virginie Vinatier, Martine Sancelme, Pierre Amato, Nadine Chaumerliac, and Anne-Marie Delort
PNAS 2012 ; published ahead of print December 21, 2012, doi:10.1073/pnas.1205743110
→雲中の微生物活動が大気化学に影響? 実際の雲試料を採取してきて、紫外線の有無×微生物の有無によって、化学成分がどう変化するかをインキュベーション実験でモニタリング。微生物の活動が、H2O2や有機化合物(酢酸、ギ酸など)を減らすらしい。活動的な大気生命圏。実際の環境中での役割の評価はこれからだろうけど、面白いなー。

Clint Scott, Noah J. Planavsky, Chris L. Dupont, Brian Kendall, Benjamin C. Gill, Leslie J. Robbins, Kathryn F. Husband, Gail L. Arnold, Boswell A. Wing, Simon W. Poulton, Andrey Bekker, Ariel D. Anbar, Kurt O. Konhauser & Timothy W. Lyons
Nature Geoscience (2012) doi:10.1038/ngeo1679, Published online 23 December 2012
→過去27億年間の海洋中の亜鉛濃度を、黒色頁岩の亜鉛濃度データのコンパイルから復元。原生代の亜鉛濃度は、現在の海洋と同じくらいあって、やはり硫化物リッチというよりは嫌気的鉄リッチな深海が広がっていたらしい。熱水噴出孔からのフラックスが大きく効いていた? 「海洋亜鉛濃度の増大が真核生物の進化を促した」説は支持しない。

2012年12月30日日曜日

特に気になった新着論文 2012年11月 New Papers (Nov. 2012)


11月も9本。海洋沈降粒子バラスト仮説への疑問、ANMEの意外な代謝×2、ウイルス計数への疑問×2、植物有機物dD、堆積物微生物C:N:P比、シアノバクテリア中のケイ素、南極氷床湖の微生物生態系。日付順です。

Wilson, J. D., S. Barker, and A. Ridgwell
Global Biogeochem. Cycles, 26, GB4011, doi:10.1029/2012GB004398. published 2 November 2012.
→海洋の沈降粒子の有機物と炭酸塩などの生物源鉱物の関係を、全球まとめてではなく海域ごとに分けて解析(Geographically Weighted Regression)。海域ごとに両者の関係は異なっていて、生物源鉱物が粒子沈降速度を加速させて有機物フラックスを増やすという「バラスト仮説」のメカニズムは単純ではなく、海洋表層生態系に大きく影響を受ける? 海洋炭素循環を考える上で重要。

Matthias Y. Kellermann, Gunter Wegener, Marcus Elvert, Marcos Yukio Yoshinaga, Yu-Shih Lin, Thomas Holler, Xavier Prieto Mollar, Katrin Knittel, and Kai-Uwe Hinrichs
PNAS 2012 ; published ahead of print November 5, 2012, doi:10.1073/pnas.1208795109
Guaymas Basinの熱水域堆積物の嫌気的メタン酸化微生物群集(ANME-1/SRB)で、炭素&水素の安定同位体ラベル脂質取込実験。ANME-1アーキアは、メタンを酸化しているけれど、メタンを炭素源としているわけではなく、無機炭素を取り込んで炭素固定しているらしい。従来、やたらと13Cに乏しいANMEアーキア脂質(-100‰とか)は「13Cに乏しいメタンを同化していたから」と考えられてきたけど、見直しが必要かもしれない。ふーむ。でも、脂質リサイクル的な話を考えると、どうなるんだろう?? BremenにいたKさん。

Jana Milucka, Timothy G. Ferdelman, Lubos Polerecky, Daniela Franzke, Gunter Wegener, Markus Schmid, Ingo Lieberwirth, Michael Wagner, Friedrich Widdel & Marcel M. M. Kuypers
Nature (2012) doi:10.1038/nature11656, Published online 07 November 2012
→嫌気的メタン酸化に、続けて驚きのニュース。ANME/SRB共生系ではなく、アーキアが単独でも嫌気的メタン酸化を行うことを発見。硫酸を還元してゼロ価の硫黄を生成する代謝。そのゼロ価硫黄はデルタプロテオバクテリアによって不均化されるらしい。話がさらにややこしくなってきて、海洋堆積物の炭素・硫黄循環の描像をまた考え直す必要があるかもしれない。

Patrick Forterre, Nicolas Soler, Mart Krupovic, Evelyne Marguet, Hans-W. Ackermann
Trends in Microbiology, Available online 7 November 2012
→環境中のウイルスの研究として、SYBR Greenなどの蛍光試薬で染めて蛍光顕微鏡で数を数える手法がよく用いられてきたけど、過大評価している危険性があるのでは?という指摘。微生物が放出した小胞(membrane-derived vesicles: MVs)やgene transfer agents (GTAs) 、細胞の破片などをウイルス粒子と誤認してしまっているかもしれない。

Nicole DeBond, Marilyn L. Fogel, Penny L. Morrill, Ronald Benner, Roxane Bowden, Susan Ziegler
Geochimica et Cosmochimica Acta, Available online 7 November 2012, ISSN 0016-7037, 10.1016/j.gca.2012.10.043.
6種類の植物のセルロース、ヘミセルロース、リグニンの水素同位体組成(dD)を分析。リグニンはバルクより50‰ほど軽く、セルロースより100‰ほど軽い。土壌や堆積物のバルク有機物の水素同位体組成を、有機物の選択的分解の指標にできるかも?

A.K. Steenbergh, P.L.E. Bodelier, M. Heldal, C.P. Slomp, H.J. Laanbroek
Environmental Microbiology, Accepted manuscript online: 12 NOV 2012
→貧酸素な堆積物でリン無機化が促進されるのに、微生物のC/P比が高いことが効いている? バルト海堆積物中から微生物細胞を分離して、そのC:N:P比を蛍光X線微小分析。C/N比はRedfield比に近い値(6.4)だったけど、C/P比は400と高い値だった。核酸量が変わっているのか、脂質の組成を変えているのか。白亜紀などの海洋無酸素事変(OAE)とか考える上でも面白い。海底下深部堆積物の微生物のC:N:P比とかも測れるのだろうか。

Grieg F Steward, Alexander I Culley, Jaclyn A Mueller, Elisha M Wood-Charlson, Mahdi Belcaid & Guylaine Poisson
The ISME Journal, advance online publication 15 November 2012;          doi: 10.1038/ismej.2012.121
4番の論文では「ウイルス数を過大評価」という話だったけど、こちらは「ウイルス数を過小評価しているのでは?」という話。ハワイ沿岸の海水で、RNAウイルスとDNAウイルスの数を比較したら、RNAウイルスが多い場合もあった。現在の蛍光顕微鏡によるカウントでは二本鎖DNAウイルスしか計数していないので、もし今回の結果が一般的だとすると、ウイルスの量や生産量の見積もりがやはり要見直し。

Stephen B. Baines, Benjamin S. Twining, Mark A. Brzezinski, Jeffrey W. Krause, Stefan Vogt, Dylan Assael & Hannah McDaniel
Nature Geoscience (2012) doi:10.1038/ngeo1641, Published online 18 November 2012
→海洋のケイ素の生物地球化学には、珪藻がもっとも重要な生物と考えられてきたけど、実はピコシアノバクテリアも(特に貧栄養海域で)かなり重要かも? Synechococcusの細胞をシンクロトロンX線蛍光顕微鏡で化学組成分析したら、Si:S比やSi:P比が珪藻と近い値だった。ケイ素循環は海洋炭素循環とも関わりが深いけど(特に第四紀の氷期間氷期サイクルでは注目されている)、色々と見直しが必要かもしれない。なぜシアノがケイ素を貯めこむのかも気になる。

Alison E. Murray, Fabien Kenig, Christian H. Fritsen, Christopher P. McKay, Kaelin M. Cawley, et al.
PNAS 2012 ; published ahead of print November 26, 2012, doi:10.1073/pnas.1208607109
→南極の氷に閉ざされた、水温マイナス13度(!)の塩湖Lake Vidaに微生物が見つかった。1mL105乗ぐらいと、けっこうたくさんいる。H2N2OFeMnなどの濃度が高く、溶存有機物濃度もかなり高いなど(~50 mM)、地球化学的にも色々と気になる。同位体分析からソースの議論も色々としている。湖が隔離されて3000年近く経っているのに、硝酸や硫酸がまだ存在するのは、非生物的な塩水-岩石反応が電子受容体を供給しているから?