2012年12月31日月曜日

特に気になった新着論文 2012年12月 New Papers (Dec. 2012)


12月は8本。アナモックスレビュー、海底下機能遺伝子レビュー、氷床下生命圏の化学風化、微生物生態系の直接操作、N無機化の同位体分別、酸化的土壌メタン生成、雲中微生物代謝、海洋Zn濃度変遷。日付順です。

Boran Kartal, Naomi M. Almeida, Wouter J. Maalcke, Huub J.M. Op den Camp, Mike S.M. Jetten, Jan T. Keltjens
FEMS Microbiology Reviews, DOI: 10.1111/1574-6976.12014, Accepted manuscript online: 4 DEC 2012.
→アナモックスバクテリアの代謝(異化&同化)についてレビュー。アンモニアや亜硝酸だけでなく、様々な種類の有機・無機化合物(ギ酸、プロピオン酸、メチルアミン、メタノール、二価鉄など)を代謝に使えることが分かってきたらしい。しかも、NOやヒドロキシルアミン、亜硝酸を不均化する代謝でエネルギーを得ている可能性もあるとか?? まだまだ謎がかなり多くて面白そう。

Mark Alexander Lever
FEMS Microbiology Ecology, DOI: 10.1111/1574-6941.12051, Accepted manuscript online: 10 DEC 2012
→海底下深部生命圏の機能遺伝子研究のレビュー。これまでにメタン代謝(mcrA)、硫酸還元(dsrAB)、酢酸生成(fhs)、脱ハロゲン呼吸(rdhA)が調べられてきたらしい。ただ、メタン代謝・硫酸還元代謝遺伝子を定量すると、その代謝を行っているのは微生物バイオマスの1%未満のみ? 現在の手法では多様性を引っ掛けられていない可能性もあるけれど。

Scott N. Montross, Mark Skidmore, Martyn Tranter, Anna-Liisa Kivimäki, and R. John Parkes
Geology, G33572.1, first published on December 13, 2012, doi:10.1130/G33572.1
→底面が融解したタイプの氷床の下では、微生物活動が岩石の化学風化を最大8倍も促進させる? 氷河の水と堆積物を使った長期(最長300日間)のインキュベーション実験。氷床の底面が融解しているかどうかというのは、第四紀の氷期間氷期サイクルなどを考える上でも重要なトピックで(研究室の先輩も研究している)、微生物活動への効果もあるのは、言われてみれば当たり前な気もするけど、これまで気がつかなかったな。スノーボールアース的な話を考える際にも面白い。

Heather E Reed and Jennifer BH Martiny
The ISME Journal, advance online publication, 13 December 2012; doi:10.1038/ismej.2012.154
→微生物の移動を防ぐ“檻”を使って、環境中の微生物群集組成を直接操作してやって、生物地球化学プロセスへの影響を調べてやるというアプローチ。おお、そんなことができるのかと驚いた。エスチュアリー堆積物で、1週間or7週間の実験。影響するらしい。

Jürgen Möbius
Geochimica et Cosmochimica Acta, Available online 19 December 2012, doi:10.1016/j.gca.2012.11.048.
→東地中海の堆積物コアで、バルク窒素同位体組成とバルク窒素量の関係(けっこうきれいな逆相関)を使って、窒素無機化(アンモニア生成)における動的窒素同位体分別係数を推定。分別係数は-1.4~-2.3‰くらいで、残りの有機窒素が重くなる? バルクな話ではあるけど、いい仕事するなぁ。

A. Jugold, F. Althoff, M. Hurkuck, M. Greule, K. Lenhart, J. Lelieveld, and F. Keppler
Biogeosciences, 9, 5291-5301, 2012, Published: 20 December 2012
→酸化的な土壌での非微生物的なメタン生成? 温度変化、紫外線照射や乾湿サイクルなどで、有機物が分解されて出てくるらしい。安定炭素同位体組成(d13C)は、-35.5~-69‰とかなりバラつく。ふーむ。フラックスは、気候変動による影響も受けやすい?

Mickael Vaïtilingom, Laurent Deguillaume, Virginie Vinatier, Martine Sancelme, Pierre Amato, Nadine Chaumerliac, and Anne-Marie Delort
PNAS 2012 ; published ahead of print December 21, 2012, doi:10.1073/pnas.1205743110
→雲中の微生物活動が大気化学に影響? 実際の雲試料を採取してきて、紫外線の有無×微生物の有無によって、化学成分がどう変化するかをインキュベーション実験でモニタリング。微生物の活動が、H2O2や有機化合物(酢酸、ギ酸など)を減らすらしい。活動的な大気生命圏。実際の環境中での役割の評価はこれからだろうけど、面白いなー。

Clint Scott, Noah J. Planavsky, Chris L. Dupont, Brian Kendall, Benjamin C. Gill, Leslie J. Robbins, Kathryn F. Husband, Gail L. Arnold, Boswell A. Wing, Simon W. Poulton, Andrey Bekker, Ariel D. Anbar, Kurt O. Konhauser & Timothy W. Lyons
Nature Geoscience (2012) doi:10.1038/ngeo1679, Published online 23 December 2012
→過去27億年間の海洋中の亜鉛濃度を、黒色頁岩の亜鉛濃度データのコンパイルから復元。原生代の亜鉛濃度は、現在の海洋と同じくらいあって、やはり硫化物リッチというよりは嫌気的鉄リッチな深海が広がっていたらしい。熱水噴出孔からのフラックスが大きく効いていた? 「海洋亜鉛濃度の増大が真核生物の進化を促した」説は支持しない。