たまに「有機地球化学の教科書でオススメを教えてほしい」的なことを聞かれるので、個人的にオススメな教科書(+α)をリスト化して、一言紹介やリンクを載せておきます。生物的な有機地球化学がメインです。有機物そのものの物質循環(特に海洋)に関するものが多いかもしれません。新しく見つけたり、思い出したりしたら、適宜追加します。
・地球化学講座4「有機地球化学」
・Chemical Biomarkers in Aquatic Ecosystems
・Geochemistry of Marine Sediments
・Marine Geochemistry
・Ocean Biogeochemical Dynamics
・Biogeochemistry of Marine Dissolved Organic Matter
・Photobiogeochemistry of Organic Matter
・The Biomarker Guide, 2nd edition
・Stable Isotopes in Ecology and Environmental Science, 2nd Edition
・Treatise on Geochemistry, 1st Edition
<1. 日本語 Japanese>
1-1. 地球化学講座4「有機地球化学」
石渡良志・山本正伸 編
培風館、290ページ、2004年
http://www.geochem.jp/qanda/textbook.html
→日本語では、やはりこれがまとまっていて使いやすい(というか今のところ他にあまり思いあたらない)。有機物の同位体組成に重要な、生物代謝による同位体分別に関しては、同シリーズの「生物地球化学」も参考になる。
<2. 英語 English>
2-1. Chemical Biomarkers in Aquatic Ecosystems
Thomas S. Bianchi, Elizabeth A. Canuel
Princeton University Press, 392 pp. (2011)
http://press.princeton.edu/titles/9501.html
→水圏の有機地球化学について、重要な情報がコンパクトにまとまっている。しかも2011年と新しい。糖、アミノ酸、核酸、脂肪酸、イソプレノイド脂質、炭化水素脂質、極性脂質、光合成色素、リグニン、人為起源有機分子と、有機分子グループごとの章立てが便利。
2-2. Geochemistry of Marine Sediments
David J. Burdige
Princeton University Press, 630 pp. (2006)
http://press.princeton.edu/titles/8339.html
→海洋堆積物の地球化学の教科書。7割くらいは有機物について書かれている。特に、海洋堆積物表層での初期続成が主なトピック。わりとマニアックな本だとは思うけれど、博士課程のときに海洋堆積物中アミノ酸の研究を進めていった中で、個人的に最もお世話になった教科書だと思う。
2-3. Marine Geochemistry
Schulz, Horst D., Zabel, Matthias (Eds.)
Springer, 574 pp. (2006)
http://www.springer.com/earth+sciences+and+geography/geochemistry/book/978-3-540-32143-9
→これも海洋堆積物の地球化学の教科書。有機物に関しての記述は2~3割ぐらいで、海洋堆積物深部も含まれ、上記『Geochemistry of Marine Sediments』よりも広い範囲を扱う。海洋堆積物の有機物(&地球化学一般)に関しては、この2冊を相補的に使うとバランスよく学べると思う。
2-4. Ocean Biogeochemical Dynamics
Jorge L. Sarmiento, Nicolas Gruber
Princeton University Press, 526 pp. (2006)
http://press.princeton.edu/titles/8223.html
→海洋生物地球化学の教科書で、4章(海洋表層での有機物生産)、5章(海水中での有機物の輸送・分解)、6章(堆積物中での有機物分解)が、特に有機物に関係が深い。「謎解きしていく構成」と「定量的な議論」の2点が、教科書として素晴らしい。詳しくは、2013年1月に書いた紹介を参照。
2-5. Biogeochemistry of Marine Dissolved Organic Matter
Dennis A. Hansell, Craig A. Carlson (Eds)
Elsevier, 774 pp. (2002)
http://www.sciencedirect.com/science/book/9780123238412
→海洋溶存態有機物(DOM)の教科書。僕もまだ読み終えていない章が多いけれど、分析法、化学&同位体組成、反応プロセスなど、海洋DOMの様々なトピックがまとまっている。
2-6. Photobiogeochemistry of Organic Matter
Khan M.G. Mostofa, Takahito Yoshioka, Abdul Mottaleb, Davide Vione (Eds)
Springer, 917 pp. (2013)
http://link.springer.com/book/10.1007/978-3-642-32223-5/page/1
→主に水圏のDOMの光化学反応や微生物プロセスについて、膨大な情報がまとめられている。しかも2013年と新しい。僕もまだ全然読んでいないけれど、1章(水圏DOMの概論)だけでも137ページあり、かなり勉強になりそう。
2-7. The Biomarker Guide, 2nd edition
K. E. Peters, C. C. Walters, J. M. Moldowan
Cambridge University Press, Volume 1-2 (2004)
http://ebooks.cambridge.org/ebook.jsf?bid=CBO9780511524868
http://ebooks.cambridge.org/ebook.jsf?bid=CBO9781107326040
→主に脂質バイオマーカー、特に石油関連の有機地球化学の記述が詳しい。1巻は、バイオマーカーと石油の基礎、および環境汚染研究と考古学におけるバイオマーカーについて。2巻は、石油探査と地球史研究におけるバイオマーカーについて。個人的には辞書的に使っている。
2-8. Stable Isotopes in Ecology and Environmental Science, 2nd Edition
Robert Michener, Kate Lajtha (Eds)
Wiley-Blackwell, 594 pp. (2007)
→有機地球化学というより、同位体生態学・環境科学の教科書。植物や動物など生物の安定同位体組成について詳しい解説があり、有機物の安定同位体組成を理解する上で勉強になる。化合物レベル同位体組成分析の章(14章)もある。
2-9. Treatise on Geochemistry, 1st Edition
Heinrich D. Holland, Karl K. Turekian (Eds)
Elsevier, Volume 1-9 (2003)
http://www.sciencedirect.com/science/book/9780080437514
→地球化学のぶ厚いレビュー論文集(全9巻!)。有機地球化学に関連する章としては、1-10(隕石有機物)、4-03(メタン生物地球化学)、5-10(淡水溶存態有機物)、6-04(海洋生物ポンプ)、6-06(現世海洋有機物)、6-15(アルケノン古水温計)、7-02(堆積物有機物分解)、7-08(石炭)、7-09(石油&ガス)、8-03(炭化水素バイオマーカー)、8-05(海洋一次生産)、8-06(陸域一次生産)、8-07(陸域有機物分解)、8-09(炭素循環の地球史)、8-10(現世の炭素循環)、9-12(揮発性炭化水素汚染)、9-13(高分子&熱分解炭化水素汚染)、9-14(ハロゲン化炭化水素)、など。
ちなみにもうすぐ(2013年末?)、全16巻に増量した2nd Editionが出版される。新たに「Organic Geochemistry」の巻が新設され、OさんTさんCさんらも執筆している。
<おまけ>
力石嘉人・大場康弘 編
日本有機地球化学会、2010年&2011年
http://www.ogeochem.jp/publication_sp.html
→教科書ではなく、和文学会誌の特集号だけど、有機分子の化合物レベル同位体組成分析に関して、役立つ総説が数多く載っている。PDFが公開されており、ダウンロードできる。
・オススメ論文紹介(有機分子プロキシ)
あと2012年には、当時所属していた横山研のBlogの方に、「有機分子プロキシに基づいた古環境復元について」と題して、オススメ論文(主にレビュー論文)も挙げておいたので、そのリンクも貼っておきます。
http://lams-yokoyama.blogspot.com/2012/04/organic-molecular-proxies-2012417.html