2012年12月31日月曜日

読んだ本まとめ2012


記録のために、Twitterから抽出してまとめておきます。単行本は94冊(上下巻などはまとめて1冊としてカウント)。内訳は、小説が60冊、科学関連書が32冊、その他が2冊。去年よりは冊数増えたけれど、年間100冊はまだ達成できず。

小説と科学関連書でそれぞれ個人的Best 5を選ぶと(2012年に出版された本ではなく、山口が2012年に読んだ本の中で)

[小説]
1, 『最後にして最初の人類』(オラフ・ステープルドン 著)
2, 『かめくん』(北野勇作 著)
3, 『ブラッド・ミュージック』(グレッグ・ベア 著)
4, 『竜の卵』(ロバート・L・フォワード 著)
5, 『海を見る人』(小林泰三 著)

[科学書]
1, 『科学革命とは何か』(都城秋穂 著)
2, 『科学と仮説』(ポアンカレ 著)
3, 『数学をつくった人びと』(ET・ベル 著:I-III巻)
4, 『「知」の欺瞞 ポストモダン思想における科学の濫用』(アラン・ソーカル、ジャン・ブリクモン 著)
5, 『恐竜はなぜ鳥に進化したのか 絶滅も進化も酸素濃度が決めた』(ピーター・D・ウォード 著)

あたり。一言感想やリンクはそれぞれ下記に。


個人的「この論文がすごい!」2012 Personal “Breakthrough of the Year” 2012


主に有機物や微生物な生物地球化学分野で、「Breakthrough of the Year」だと個人的に思った2012年の新着論文1-10位を、記録も兼ねて紹介します。自分の研究に直結した論文というよりは、もうちょっと広い分野から選んでいます。

重要な論文、すごい論文はたくさん出ていたけれど、特に初見時に「おいおい、まじすか!?」と個人的に驚いたかどうかを重視して選出しました。

まずは10位から。

Großkopf, T., Mohr, W., Baustian, T., Schunck, H., Gill, D., Kuypers, M. M. M., Lavik, G., et al.
Nature, 488 (7411), 361–364. doi:10.1038/nature11338. Published online 08 August 2012.
→海洋N2固定速度の見直し。7月のALSOでも講演があって話題になっていた話。15Nで安定同位体ラベルしたN2ガスを気泡として海水に加える従来手法では、N2ガスが溶けきらず、N2固定速度を過小評価してしまうらしい。15N2で飽和した海水を添加する新手法では、従来の1.7倍の速度が得られた。今年はこの論文以外にも、グローバルな海洋窒素収支を扱う論文はけっこう見かけて、「バランスしている」という論調が多かった印象。N2固定に関しては、UCYN-Aの共生相手が見つかったというニュースもあった。それにつけてもグローバルな生物地球化学プロセスのフラックスを見積もることの難しさよ。

Philippe Lesot and Olivier Lafon
Anal. Chem., DOI: 10.1021/ac300667n, Publication Date (Web): April 16, 2012
1本くらいはマニアックな同位体分析化学の論文も入れたいので、今年はこれで。有機分子の2H-13C同位体置換立体異性体を、多核NMRを用いて天然存在度分析に初めて成功。いやもう単純に「すごいな!」と思いました。まだ現状では100mgスケールと大量の物質が分析に必要なものの、技術が進歩して感度が上がれば、将来的には天然の物質にも適用可能になるかも? どんな情報を持っているかは現時点ではよく分からないけど、有機分子同位体組成な地球化学・生理学の未来を感じさせる。

Mickael Vaïtilingom, Laurent Deguillaume, Virginie Vinatier, Martine Sancelme, Pierre Amato, Nadine Chaumerliac, and Anne-Marie Delort
PNAS 2012 ; published ahead of print December 21, 2012, doi:10.1073/pnas.1205743110
→雲中の微生物活動が大気化学に影響? 「活動的な大気生命圏」という、地球惑星科学の中での新しいコンセプトで、今後の展開が大いに期待される。実際の雲試料を採取してきて、紫外線の有無×微生物の有無によって、化学成分がどう変化するかをインキュベーション実験でモニタリング。微生物の活動が、H2O2や有機化合物(酢酸、ギ酸など)を減らすらしい。実際の環境中での役割の評価はこれからだろうけど、純粋に面白い。

Sanjoy M. Som, David C. Catling, Jelte P. Harnmeijer, Peter M. Polivka & Roger Buick
Nature (2012) doi:10.1038/nature10890, Published online 28 March 2012.
27億年前の雨の痕跡から大気圧を復元すると、現在の2倍よりは小さく、現在と同じくらい以下である可能性が高いらしい。そんな手があるのか!と驚いた研究。古環境復元研究で唯一ランクイン。大気窒素が2倍あれば、pressure broadeningによる温室効果増幅で「暗い太陽のパラドックス」も説明が可能と言われてきたけど、ちと厳しいか? 「海洋堆積物の窒素埋没によって大気窒素量は減ってきている」説が最近気になっていたので、ちょっと残念。

Souichiro Kato, Kazuhito Hashimoto, and Kazuya Watanabe
PNAS, Published online before print June 4, 2012, doi: 10.1073/pnas.1117592109
→導電性鉱物を介した微生物種間の電子伝達が起きて、酸化還元代謝を共役させているらしい。従来は、化学物質(水素、ギ酸など)の拡散と、微生物細胞同士の結合(導電性ナノワイヤータンパクなど)が、種間電子伝達のメカニズムとして知られていた。どのくらいの空間スケールまでつながりうるのかが気になる。自然環境中の微生物同士の細胞レベルでのやり取りは今後も面白くなっていきそう。

Scott N. Montross, Mark Skidmore, Martyn Tranter, Anna-Liisa Kivimäki, and R. John Parkes
Geology, G33572.1, first published on December 13, 2012, doi:10.1130/G33572.1
→底面が融解したタイプの氷床の下では、微生物活動が岩石の化学風化を最大8倍も促進させる? 「地球化学的に活動的な生命圏」のレンジを大きく広げるという意味で、かなり重要。氷床の底面が融解しているかどうかというのは、第四紀の氷期間氷期サイクルなどを考える上でも重要なトピックで(研究室の先輩も研究している)、微生物活動への効果もあるのは、言われてみれば当たり前な気もするけど、これまで気がつかなくて「あーなるほどー」と驚いて感心した。スノーボールアースなど地球史における気候変動との相互作用も気になってくる。

Lenhart, K., Bunge, M., Ratering, S., Neu, T. R., Schüttmann, I., Greule, M., Kammann, C., et al. (2012)
Nature Communications, 3, 1046. doi:10.1038/ncomms2049. Published 04 September 2012.
→好気条件で培養した真菌がメタン生成したらしい。メタン生成アーキアが混入していないことは、FISHPCRなどで確認しているようだ。13Cラベル実験によると、メチオニン(!)の硫黄に結合しているメチル基が前駆体になっている可能性がある。メタン生成代謝は専ら嫌気環境のアーキアだけが行うと昔から言われてきたので、もしこれが本当で、しかも環境中で量的にも重要だとしたら、生物地球化学の色んな話が変わってきそう。続報を待ちたい。今年はメタンに関しては、隕石や酸化的土壌の有機物にUV照射すると非生物的にメタン生成するという話も出ていたし、海洋メタン過飽和の謎も解けそうだし、嫌気的メタン酸化(ANME)にも想定外の代謝が見つかったし、色々と面白かった。ドイツの活躍が目立つ。

Kevin R. Arrigo et al.
Science 15 June 2012: Vol. 336 no. 6087 p. 1408, DOI: 10.1126/science.1215065, Published Online June 7 2012
→北極の海氷(厚さ1mぐらい)の下で、大量の珪藻ブルームが発生しているらしい。北極域の生物生産見積もりは、従来は10倍ほど過小評価だった? 極域海洋の古海洋記録の一部も、解釈が変わってくるかも? 自然にはまだまだ知らない現象があるんだなぁと、純粋に驚いた研究。これもある意味、「地球化学的に活動的な生命圏」のレンジを広げる研究か。

Karine Lalonde, Alfonso Mucci, Alexandre Ouellet & Yves Gélina
Nature 483, 198–200 (08 March 2012) doi:10.1038/nature10855, Published online 07 March 2012.
→海洋堆積物中の有機物は2割前後が鉄と結合しているらしい。結合している有機物は比較的13Cと窒素に富んでいて、タンパク質(!)などかも? 海洋堆積物中で有機物が保存・埋没していくメカニズムやその制御要因は、いくつも説があって昔から謎が多かったが、鉄の役割がかなり大きそうということで、有機地球化学的に(&自分自身の研究にとっても)かなり重要な論文。土壌有機物の研究で使われていた鉄還元法を海洋堆積物に適用したことで分かった知見なので、陸域の研究と海洋の研究とをつなぐことの重要性も示している。土壌の勉強もちゃんとしないとなーということも思いました。

Kallmeyer, J., Pockalny, R., Adhikari, R. R., Smith, D. C., & D’Hondt, S.
PNAS August 27, 2012, doi: 10.1073/pnas.1203849109
1位にはこれを入れざるを得ない。堆積物海底下生命圏の微生物数・バイオマスの再評価。菌数カウントを遠洋域含めて様々な海域で行い、堆積速度や陸からの距離との関係から、全球分布を推定。Whitman et al. (1998) などの従来推定(菌数:1030乗、バイオマス:60-300 PgC)に比べてだいぶ減ってしまった(菌数:1029乗、バイオマス:4 PgC)。IODP航海の際に話には聞いていたし、まぁ減るんだろうなとは思っていたけど、予想を超えてずいぶんと減ってしまった。業界的には衝撃的で、けっこう盛り下がる話ではあるのだけど、やはり今後は「たくさんいます!すごいだろ!」ではなく、「物質循環にこんなに重要!」というのを示していく必要があるんだろう。有機物サイクル的に重要なのは間違いないので、その点ではいいんだけど。


各月の「特に気になった新着論文」まとめ:
合計で92本。「気になった新着論文」全体は、まだPDF落としてデータベースに入れていないものも多いので、未計数。

海洋メタプロテオミクス、マントル生命圏の痕跡?、同位体ラベルによる代謝速度変化、窒素固定シアノのクオラムセンシング、葉の非酸素発生型光合成バクテリア。

熱水窒素循環、海洋メタゲノム、海洋溶存有機物、土壌アミノ酸、最終退氷期気候変動、微生物16S、後期原生代炭素循環。

地殻内溶存有機物、安定同位体プロービング手法、堆積物有機物と鉄、堆積物バクテリアとDアミノ酸、黒の女王仮説、太古代の大気圧、海洋N*とリン無機化。

鉱物光触媒栄養生物、同位体立体異性体分析、化学合成共生メタプロテオミクス、アミノ酸分子レベル放射性炭素年代測定、陸域花崗岩生命圏。

海洋DON窒素同位体組成、DMS硫黄同位体組成、スーパーフレア、北太平洋環流域の好気的海底下生命圏、ジュラ紀メラニン色素、火星隕石有機物、紫外線照射による火星メタン生成。

宇宙線増加イベント、微生物電気共生、海氷下珪藻ブルーム、アーキアのクオラムセンシング、降水同位体組成変動ルール、バッタの“恐怖”とC/N比、海洋堆積物の電流生物地球化学、メタン発酵共生とアミノ酸、古生代の真菌リグニン分解酵素。

生物ポンプ隔離効率、グローバル海洋脱窒速度見直し、“ヒ素微生物”の否定×2、海洋溶存有機物中の謎の色素シグナル、顕生代硫黄循環の見直し×2、鉄還元アンモニア酸化。

海底下深部ウイルス生態、海洋N2固定速度見直し、樹木中メタン生成、タイタン大気アミノ酸&核酸生成、海底下堆積物生命圏量見直し、北極海沿岸の古い有機物、新生代CCD変動、南極堆積物メタン、メチルホスホン酸生合成。

真菌メタン生成、太古代有機硫黄同位体、18S rDNAの限界、2段階のマンガン還元代謝、珪藻ブルームと鉄と微生物、GDGT脂質レビュー、海洋N:P比と藻類多様性、UCYN-Aの共生相手、大気酸素分子clumped isotope

尿素アンモニア酸化、河川有機物のD14C分布、アイスコア中シアノ細胞、糖分子内d13C分別、土壌有機窒素化合物、海洋堆積物d15N変質、堆積物の微生物電流、完新世気候変動とガスハイドレート、藻類アミノ酸d15N

海洋沈降粒子バラスト仮説への疑問、ANMEの意外な代謝×2、ウイルス計数への疑問×2、植物有機物dD、堆積物微生物C:N:P比、シアノバクテリア中のケイ素、南極氷床湖の微生物生態系。

アナモックスレビュー、海底下機能遺伝子レビュー、氷床下生命圏の化学風化、微生物生態系の直接操作、N無機化の同位体分別、酸化的土壌メタン生成、雲中微生物代謝、海洋Zn濃度変遷。

特に気になった新着論文 2012年12月 New Papers (Dec. 2012)


12月は8本。アナモックスレビュー、海底下機能遺伝子レビュー、氷床下生命圏の化学風化、微生物生態系の直接操作、N無機化の同位体分別、酸化的土壌メタン生成、雲中微生物代謝、海洋Zn濃度変遷。日付順です。

Boran Kartal, Naomi M. Almeida, Wouter J. Maalcke, Huub J.M. Op den Camp, Mike S.M. Jetten, Jan T. Keltjens
FEMS Microbiology Reviews, DOI: 10.1111/1574-6976.12014, Accepted manuscript online: 4 DEC 2012.
→アナモックスバクテリアの代謝(異化&同化)についてレビュー。アンモニアや亜硝酸だけでなく、様々な種類の有機・無機化合物(ギ酸、プロピオン酸、メチルアミン、メタノール、二価鉄など)を代謝に使えることが分かってきたらしい。しかも、NOやヒドロキシルアミン、亜硝酸を不均化する代謝でエネルギーを得ている可能性もあるとか?? まだまだ謎がかなり多くて面白そう。

Mark Alexander Lever
FEMS Microbiology Ecology, DOI: 10.1111/1574-6941.12051, Accepted manuscript online: 10 DEC 2012
→海底下深部生命圏の機能遺伝子研究のレビュー。これまでにメタン代謝(mcrA)、硫酸還元(dsrAB)、酢酸生成(fhs)、脱ハロゲン呼吸(rdhA)が調べられてきたらしい。ただ、メタン代謝・硫酸還元代謝遺伝子を定量すると、その代謝を行っているのは微生物バイオマスの1%未満のみ? 現在の手法では多様性を引っ掛けられていない可能性もあるけれど。

Scott N. Montross, Mark Skidmore, Martyn Tranter, Anna-Liisa Kivimäki, and R. John Parkes
Geology, G33572.1, first published on December 13, 2012, doi:10.1130/G33572.1
→底面が融解したタイプの氷床の下では、微生物活動が岩石の化学風化を最大8倍も促進させる? 氷河の水と堆積物を使った長期(最長300日間)のインキュベーション実験。氷床の底面が融解しているかどうかというのは、第四紀の氷期間氷期サイクルなどを考える上でも重要なトピックで(研究室の先輩も研究している)、微生物活動への効果もあるのは、言われてみれば当たり前な気もするけど、これまで気がつかなかったな。スノーボールアース的な話を考える際にも面白い。

Heather E Reed and Jennifer BH Martiny
The ISME Journal, advance online publication, 13 December 2012; doi:10.1038/ismej.2012.154
→微生物の移動を防ぐ“檻”を使って、環境中の微生物群集組成を直接操作してやって、生物地球化学プロセスへの影響を調べてやるというアプローチ。おお、そんなことができるのかと驚いた。エスチュアリー堆積物で、1週間or7週間の実験。影響するらしい。

Jürgen Möbius
Geochimica et Cosmochimica Acta, Available online 19 December 2012, doi:10.1016/j.gca.2012.11.048.
→東地中海の堆積物コアで、バルク窒素同位体組成とバルク窒素量の関係(けっこうきれいな逆相関)を使って、窒素無機化(アンモニア生成)における動的窒素同位体分別係数を推定。分別係数は-1.4~-2.3‰くらいで、残りの有機窒素が重くなる? バルクな話ではあるけど、いい仕事するなぁ。

A. Jugold, F. Althoff, M. Hurkuck, M. Greule, K. Lenhart, J. Lelieveld, and F. Keppler
Biogeosciences, 9, 5291-5301, 2012, Published: 20 December 2012
→酸化的な土壌での非微生物的なメタン生成? 温度変化、紫外線照射や乾湿サイクルなどで、有機物が分解されて出てくるらしい。安定炭素同位体組成(d13C)は、-35.5~-69‰とかなりバラつく。ふーむ。フラックスは、気候変動による影響も受けやすい?

Mickael Vaïtilingom, Laurent Deguillaume, Virginie Vinatier, Martine Sancelme, Pierre Amato, Nadine Chaumerliac, and Anne-Marie Delort
PNAS 2012 ; published ahead of print December 21, 2012, doi:10.1073/pnas.1205743110
→雲中の微生物活動が大気化学に影響? 実際の雲試料を採取してきて、紫外線の有無×微生物の有無によって、化学成分がどう変化するかをインキュベーション実験でモニタリング。微生物の活動が、H2O2や有機化合物(酢酸、ギ酸など)を減らすらしい。活動的な大気生命圏。実際の環境中での役割の評価はこれからだろうけど、面白いなー。

Clint Scott, Noah J. Planavsky, Chris L. Dupont, Brian Kendall, Benjamin C. Gill, Leslie J. Robbins, Kathryn F. Husband, Gail L. Arnold, Boswell A. Wing, Simon W. Poulton, Andrey Bekker, Ariel D. Anbar, Kurt O. Konhauser & Timothy W. Lyons
Nature Geoscience (2012) doi:10.1038/ngeo1679, Published online 23 December 2012
→過去27億年間の海洋中の亜鉛濃度を、黒色頁岩の亜鉛濃度データのコンパイルから復元。原生代の亜鉛濃度は、現在の海洋と同じくらいあって、やはり硫化物リッチというよりは嫌気的鉄リッチな深海が広がっていたらしい。熱水噴出孔からのフラックスが大きく効いていた? 「海洋亜鉛濃度の増大が真核生物の進化を促した」説は支持しない。

2012年12月30日日曜日

特に気になった新着論文 2012年11月 New Papers (Nov. 2012)


11月も9本。海洋沈降粒子バラスト仮説への疑問、ANMEの意外な代謝×2、ウイルス計数への疑問×2、植物有機物dD、堆積物微生物C:N:P比、シアノバクテリア中のケイ素、南極氷床湖の微生物生態系。日付順です。

Wilson, J. D., S. Barker, and A. Ridgwell
Global Biogeochem. Cycles, 26, GB4011, doi:10.1029/2012GB004398. published 2 November 2012.
→海洋の沈降粒子の有機物と炭酸塩などの生物源鉱物の関係を、全球まとめてではなく海域ごとに分けて解析(Geographically Weighted Regression)。海域ごとに両者の関係は異なっていて、生物源鉱物が粒子沈降速度を加速させて有機物フラックスを増やすという「バラスト仮説」のメカニズムは単純ではなく、海洋表層生態系に大きく影響を受ける? 海洋炭素循環を考える上で重要。

Matthias Y. Kellermann, Gunter Wegener, Marcus Elvert, Marcos Yukio Yoshinaga, Yu-Shih Lin, Thomas Holler, Xavier Prieto Mollar, Katrin Knittel, and Kai-Uwe Hinrichs
PNAS 2012 ; published ahead of print November 5, 2012, doi:10.1073/pnas.1208795109
Guaymas Basinの熱水域堆積物の嫌気的メタン酸化微生物群集(ANME-1/SRB)で、炭素&水素の安定同位体ラベル脂質取込実験。ANME-1アーキアは、メタンを酸化しているけれど、メタンを炭素源としているわけではなく、無機炭素を取り込んで炭素固定しているらしい。従来、やたらと13Cに乏しいANMEアーキア脂質(-100‰とか)は「13Cに乏しいメタンを同化していたから」と考えられてきたけど、見直しが必要かもしれない。ふーむ。でも、脂質リサイクル的な話を考えると、どうなるんだろう?? BremenにいたKさん。

Jana Milucka, Timothy G. Ferdelman, Lubos Polerecky, Daniela Franzke, Gunter Wegener, Markus Schmid, Ingo Lieberwirth, Michael Wagner, Friedrich Widdel & Marcel M. M. Kuypers
Nature (2012) doi:10.1038/nature11656, Published online 07 November 2012
→嫌気的メタン酸化に、続けて驚きのニュース。ANME/SRB共生系ではなく、アーキアが単独でも嫌気的メタン酸化を行うことを発見。硫酸を還元してゼロ価の硫黄を生成する代謝。そのゼロ価硫黄はデルタプロテオバクテリアによって不均化されるらしい。話がさらにややこしくなってきて、海洋堆積物の炭素・硫黄循環の描像をまた考え直す必要があるかもしれない。

Patrick Forterre, Nicolas Soler, Mart Krupovic, Evelyne Marguet, Hans-W. Ackermann
Trends in Microbiology, Available online 7 November 2012
→環境中のウイルスの研究として、SYBR Greenなどの蛍光試薬で染めて蛍光顕微鏡で数を数える手法がよく用いられてきたけど、過大評価している危険性があるのでは?という指摘。微生物が放出した小胞(membrane-derived vesicles: MVs)やgene transfer agents (GTAs) 、細胞の破片などをウイルス粒子と誤認してしまっているかもしれない。

Nicole DeBond, Marilyn L. Fogel, Penny L. Morrill, Ronald Benner, Roxane Bowden, Susan Ziegler
Geochimica et Cosmochimica Acta, Available online 7 November 2012, ISSN 0016-7037, 10.1016/j.gca.2012.10.043.
6種類の植物のセルロース、ヘミセルロース、リグニンの水素同位体組成(dD)を分析。リグニンはバルクより50‰ほど軽く、セルロースより100‰ほど軽い。土壌や堆積物のバルク有機物の水素同位体組成を、有機物の選択的分解の指標にできるかも?

A.K. Steenbergh, P.L.E. Bodelier, M. Heldal, C.P. Slomp, H.J. Laanbroek
Environmental Microbiology, Accepted manuscript online: 12 NOV 2012
→貧酸素な堆積物でリン無機化が促進されるのに、微生物のC/P比が高いことが効いている? バルト海堆積物中から微生物細胞を分離して、そのC:N:P比を蛍光X線微小分析。C/N比はRedfield比に近い値(6.4)だったけど、C/P比は400と高い値だった。核酸量が変わっているのか、脂質の組成を変えているのか。白亜紀などの海洋無酸素事変(OAE)とか考える上でも面白い。海底下深部堆積物の微生物のC:N:P比とかも測れるのだろうか。

Grieg F Steward, Alexander I Culley, Jaclyn A Mueller, Elisha M Wood-Charlson, Mahdi Belcaid & Guylaine Poisson
The ISME Journal, advance online publication 15 November 2012;          doi: 10.1038/ismej.2012.121
4番の論文では「ウイルス数を過大評価」という話だったけど、こちらは「ウイルス数を過小評価しているのでは?」という話。ハワイ沿岸の海水で、RNAウイルスとDNAウイルスの数を比較したら、RNAウイルスが多い場合もあった。現在の蛍光顕微鏡によるカウントでは二本鎖DNAウイルスしか計数していないので、もし今回の結果が一般的だとすると、ウイルスの量や生産量の見積もりがやはり要見直し。

Stephen B. Baines, Benjamin S. Twining, Mark A. Brzezinski, Jeffrey W. Krause, Stefan Vogt, Dylan Assael & Hannah McDaniel
Nature Geoscience (2012) doi:10.1038/ngeo1641, Published online 18 November 2012
→海洋のケイ素の生物地球化学には、珪藻がもっとも重要な生物と考えられてきたけど、実はピコシアノバクテリアも(特に貧栄養海域で)かなり重要かも? Synechococcusの細胞をシンクロトロンX線蛍光顕微鏡で化学組成分析したら、Si:S比やSi:P比が珪藻と近い値だった。ケイ素循環は海洋炭素循環とも関わりが深いけど(特に第四紀の氷期間氷期サイクルでは注目されている)、色々と見直しが必要かもしれない。なぜシアノがケイ素を貯めこむのかも気になる。

Alison E. Murray, Fabien Kenig, Christian H. Fritsen, Christopher P. McKay, Kaelin M. Cawley, et al.
PNAS 2012 ; published ahead of print November 26, 2012, doi:10.1073/pnas.1208607109
→南極の氷に閉ざされた、水温マイナス13度(!)の塩湖Lake Vidaに微生物が見つかった。1mL105乗ぐらいと、けっこうたくさんいる。H2N2OFeMnなどの濃度が高く、溶存有機物濃度もかなり高いなど(~50 mM)、地球化学的にも色々と気になる。同位体分析からソースの議論も色々としている。湖が隔離されて3000年近く経っているのに、硝酸や硫酸がまだ存在するのは、非生物的な塩水-岩石反応が電子受容体を供給しているから?

2012年11月18日日曜日

特に気になった新着論文 2012年10月 New Papers (Oct. 2012)


10月は9本。今月も豊作。尿素アンモニア酸化、河川有機物のD14C分布、アイスコア中シアノ細胞、糖分子内d13C分別、土壌有機窒素化合物、海洋堆積物d15N変質、堆積物の微生物電流、完新世気候変動とガスハイドレート、藻類アミノ酸d15N

Laura Alonso-Sáez, Alison S. Waller, Daniel R. Mende, Kevin Bakker, Hanna Farnelid, et al.
PNAS, Published online before print October 1, 2012, doi: 10.1073/pnas.1201914109
→北極海の深海アーキアは、アンモニア酸化に尿素を使っているらしい。尿素を分解して生じたアンモニアを酸化して、そのエネルギーを使って、同じく尿素分解由来の二酸化炭素を固定しているらしい。メタゲノム解析と尿素取込実験。アミノ酸や重炭酸イオンの取込を使った従属栄養活性や独立栄養活性の見積もりが低くてこれまで謎だった。有機物を取り込んで、細胞内では独立栄養代謝を行うという、面白い代謝。

Rosenheim, B. E. and V. Galy (2012)
Geophys. Res. Lett., 39, L19703, doi:10.1029/2012GL052883. published 3 October 2012.
→ガンジス川の懸濁態有機物について、段階熱分解で放射性炭素濃度の分布を測定。若い有機炭素と古い有機炭素がバイモーダルな分布を示した。ミシシッピ川の結果(GBCに投稿中らしい)はまた異なる分布を示し、河川システムによって異なる? 環境中有機物の放射性炭素濃度は通常はバルクで測定するので平均値が分かるだけだし、化合物レベル測定も未同定有機物は扱えなかったので、なるほどその手があったかと感心した研究。有機物動態を探る上で重要な情報になっていきそう。知らなかったけど、分析手法自体は2008年の論文で出ていた。

Price, P. B. and Bay, R. C.
Biogeosciences, 9, 3799-3815, doi:10.5194/bg-9-3799-2012, Published: 5 October 2012.
→北極や南極のアイスコア中に、100-3乗個/cm3のピコシアノバクテリア細胞が含まれているらしい。風で海洋から運ばれてきた? フローサイトメトリーで調べたり、クロロフィルやトリプトファンの蛍光成分で定量したり。散乱光を使えば、鉱物粒子などとは区別可能らしい。DNAも読めそうなので、70万年間分のアイスコアを使えば、3億世代分の進化を追うことが可能? 日本の国立極地研などと共同で、ドームふじアイスコアを使った研究が進行中らしい。

Alexis Gilbert, Richard J. Robins, Gérald S. Remaud, and Guillaume G. B. Tcherkez
PNAS 2012 ; published ahead of print October 16, 2012, doi:10.1073/pnas.1211149109
C3植物の六炭糖の炭素同位体組成の分子内分布を13C-NMRで測定。イソメラーゼ反応(グルコース←→フルクトースの変換)とインヴァターゼ反応(スクロース→グルコース+フルクトースの開裂)による、炭素部位ごとの炭素同位体分別係数。糖代謝モデルを用いた計算でもうまく再現できるらしい。糖を分解して生じる二酸化炭素や、他の有機化合物(脂質、アミノ酸など)の炭素同位体組成を理解するのに重要。現東工大のGさん。

Charles R. Warren
Soil Biology and Biochemistry, Available online 18 October 2012
→土壌水中の低分子有機窒素化合物(<250Da)を、キャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)で分析、同定。いわゆる“メタメタボロミクス”。100個ぐらいのピークのうち、58個は同定できたらしい。タンパク性アミノ酸が濃度の半分ほどを占めるが、四級アンモニウム化合物や非タンパク性アミノ酸がけっこう入っていて、意外と多様。海洋堆積物ではどうなんだろうというのが当然気になる。CE-MSかー。

Robinson, R.S., Kienast, M., Luiza Albuquerque, A., Altabet, M., Contreras, S., et al.
Paleoceanography, 27, PA4203, doi:10.1029/2012PA002321. published 23 October 2012.
→海洋堆積物におけるバルク窒素同位体組成の変質について、コンパイル&レビュー。特に、セディメントトラップと堆積物表層の窒素同位体組成の差のデータを100地点以上コンパイルしたのが重要。堆積物表層での変質は、水深とそこそこ相関があるので、酸素接触時間(OET)が重要? でも結局メカニズムはよく分からないようだ(だからこそアミノ酸分析!というのもあるけど)。URIRさんをはじめ、業界関係者がたくさん名を連ねている。あと論文の主題とあまり関係ないけど、本文中に「アナモックス代謝の窒素同位体分別」(論文準備中)という記述があるのが気になる。

Christian Pfeffer, Steffen Larsen, Jie Song, Mingdong Dong, Flemming Besenbacher, et al.
Nature (2012) doi:10.1038/nature11586, Published online 24 October 2012
→海洋堆積物中のバクテリアのフィラメントを介して、cmスケールで電気が流れているという直接証拠が、ついに得られたらしい。間接的証拠から推察していたNielsen et al. (2010, Nature) の続き。堆積物表層での酸素消費代謝と、酸素がない堆積物深層での硫化物酸化代謝とを、空間的につなぐ役割。2010年に論文出たときは、種間電子伝達でつながっているかなと思っていたけど、1種類の微生物でつなぐというのがけっこう驚き。海洋堆積物の生物地球化学を考える上で超重要。色々と妄想が広がる。

Benjamin J. Phrampus & Matthew J. Hornbach
Nature 490, 527–530 (25 October 2012) doi:10.1038/nature11528
→完新世におけるメキシコ湾流の変化が、北米大陸縁辺部の海底温度を最大8℃上昇させ、2.5GtCのガスハイドレートを不安定化させ、大量のメタンを放出させている? 地震波構造探査とハイドレート安定域のモデリング。気候変動と海洋堆積物生物地球化学の関係という点で興味深い。海底の温度って、意外と短い時間スケールで大きく変わりうるんだな。今回は北大西洋西岸の話だけど、南海トラフとか黒潮とか北太平洋西岸はどうなんだろう?

Matthew D. McCarthy, Jennifer Lehman, Raphael Kudela
Geochimica et Cosmochimica Acta, Available online 31 October 2012
→海洋藻類(真核&原核)のアミノ酸窒素同位体組成。たくさんの種を培養して、複数のアミノ酸の分析結果を統計解析すると、真核藻類と原核藻類(シアノバクテリア)を区別可能らしい。学会等で1年以上から内容は知っていたけど、一応入れておく。UCSCMさんら。

2012年10月7日日曜日

特に気になった新着論文 2012年9月 New Papers (Sep. 2012)


9月は9本。真菌メタン生成、太古代有機硫黄同位体、18S rDNAの限界、2段階のマンガン還元代謝、珪藻ブルームと鉄と微生物、GDGT脂質レビュー、海洋N:P比と藻類多様性、UCYN-Aの共生相手、大気酸素分子clumped isotope。日付順。

Lenhart, K., Bunge, M., Ratering, S., Neu, T. R., Schüttmann, I., Greule, M., Kammann, C., et al. (2012)
Nature Communications, 3, 1046. doi:10.1038/ncomms2049. Published 04 September 2012.
→好気条件で培養した真菌がメタン生成したらしい。メタン生成アーキアが混入していないことは、FISHPCRなどで確認しているようだ。13Cラベル実験によると、メチオニン(!)の硫黄に結合しているメチル基が前駆体になっている可能性がある。にわかには信じがたい話だけど、もしこれが本当で、しかも環境中で量的にも重要だとしたら、生物地球化学の色んな話が変わってきそう。続報を待ちたい。炭素・水素同位体分別はどうなっているんだろう。

Bontognali, T. R. R., Sessions, A. L., Allwood, A. C., Fischer, W. W., Grotzinger, J. P., Summons, R. E., & Eiler, J. M. (2012)
PNAS. doi:10.1073/pnas.1207491109. Published online before print September 4, 2012.
→西オーストラリアの34.5億年前のストロマトライトの有機物(ケロジェン)の硫黄同位体組成(d34SD33S)を、SIMSで分析。D33Sは正の値を示し、d34Sは細かな空間スケールで数十‰もの変動を示した。微生物マットの硫黄代謝がマット間隙水の硫化水素の硫黄同位体組成を変え、それが有機物に取り込まれたという解釈を示している。が、一読した限りでは、いまいち納得できなかった。有機硫黄はもっと後の段階でも変わってしまいそうな気もするけど…?

Tang, C. Q., Leasi, F., Obertegger, U., Kieneke, A., Barraclough, T. G., & Fontaneto, D. (2012)
PNAS. doi:10.1073/pnas.1209160109. Published online before print September 17, 2012.
meiofauna1mm以下の微小な底生無脊椎動物)の生物多様性を調べる手法として、よく使われる18S rDNAは、形態分類よりも多様性を数分の1に過小評価してしまうらしい。COI (Cytochrome c oxidase subunit I mtDNA) を使うと、むしろ形態よりも解像度高く分かるのでオススメらしい。他の生物群ではどうなんだろう…?

Hui Lin, Nadia H. Szeinbaum, Thomas J. DiChristina, Martial Taillefert (2012)
Geochimica et Cosmochimica Acta, Available online 18 September 2012
→マンガンを還元して有機物を酸化する微生物代謝では、従来はMn (IV)Mn (II) の還元反応が一度に進むと考えられていたが、実際にはMn (IV)Mn (III)Mn (II) という二段階の反応になっている模様。しかも有機物を酸化して無機炭素を放出するのは後半のMn (III)Mn (II) 反応だけで、前半のMn (IV)Mn (III) 反応は、マンガンを溶解させて使いやすくするための反応らしい。海洋堆積物などでの有機物分解を考える上で重要。

Boyd, P. W., et al. (2012)
Geophys. Res. Lett., 39, L18601, doi:10.1029/2012GL053448. published 19 September 2012.
→遠洋珪藻ブルームでは、珪藻と微生物&微小植物プランクトンとの間の、溶存鉄をめぐる競争が重要らしい。2008年のニュージーランド沖の春季珪藻ブルームを観測したら、鉄制限によって終わったらしい。鉄をめぐる競争では、微生物はK戦略とr戦略の両方を用いる。従来のモデルでは固定した藻類Fe:C比を用いていたが、実際には同化Fe:C比が生物グループごとにダイナミックに変化する。

Stefan Schouten, Ellen C. Hopmans, Jaap S. Sinninghe Damsté
Organic Geochemistry, Available online 19 September 2012
→最近10年間で急速に研究が進んできた、GDGT (Glycerol dialkyl glycerol tetraether) 脂質の有機地球化学についてのレビュー。執筆者は、アーキアGDGTを使ったTEX86古水温計を2002年に提唱したNIOZの人たち。項目は、分析法、分子構造、生合成、微生物生態学的応用、古環境学的応用など。役立つ。

Thomas Weber & Curtis Deutsch
Nature 489, 419–422 (20 September 2012) doi:10.1038/nature11357
→海洋の栄養塩のN:P比(14.3)は、藻類の平均N:P比(Redfield比=16)にかなり近いけど、その制御要因は分かっていそうで実はよく分かっていなかった。生態系&生物地球化学を考慮したGCMを走らせると、「藻類N:P比の多様性」「異なるN:P比の海域が海洋循環で結合すること」の2点が重要らしいことが分かった。藻類N:P比一定のモデルだと、栄養塩N:P比がずっと低くなってしまう。南大洋を扱ったWeber & Deutsch (2010, Nature) の続きで全球版という感じか。藻類群集組成や海洋循環が現在とは違う時代にはどうだったんだろうというのが次に気になるところ。ふーむ。

Thompson, A. W., Foster, R. A., Krupke, A., Carter, B. J., Musat, N., Vaulot, D., Kuypers, M. M. M., Zehr, J. P. (2012)
Science, 337(6101), 1546–1550. doi:10.1126/science.1222700. 21 September 2012.
→謎の海洋単細胞窒素固定シアノバクテリアUCYN-Aに、ついに共生相手が見つかった。ゲノム中に光合成系IITCA回路、特定のアミノ酸生合成経路などを欠いていて、何かと共生して有機炭素を供給してもらっているのではないか?と以前から言われていた。海洋の炭素循環・窒素循環を考える上でかなり重要。しかもハプト藻。石灰質なり有機質なりの殻を持つハプト藻だと、古海洋学的にも面白くなる。オルガネラ進化のモデルケースとしても興味深い。

Yeung, L. Y., E. D. Young, and E. Schauble (2012)
J. Geophys. Res., doi:10.1029/2012JD017992, in press.
→対流圏大気の酸素分子のclumped isotope分析(希少同位体同士が結合した分子種:O2分子だと18O-18O17O-18O)。36Arが同重体で干渉するので、ArO2をガスクロで分離して分析。炭酸塩の13C-18O結合を用いた古温度計は最近研究が進んできたけど、ついに酸素分子。大気中の分布には、O(3P) + O2の同位体交換反応が重要らしい。アイスコア中の記録をたどると、過去の大気の循環とラジカル反応の変動を復元できるかも?

2012年9月1日土曜日

特に気になった新着論文 2012年8月 New Papers (Aug. 2012)


8月は9本。海底下深部ウイルス生態、海洋N2固定速度見直し、樹木中メタン生成、タイタン大気アミノ酸&核酸生成、海底下堆積物生命圏量見直し、北極海沿岸の古い有機物、新生代CCD変動、南極堆積物メタン、メチルホスホン酸生合成。日付順。

今月は個人的には豊作でこれら以外にも面白そうな論文が多かった。

Engelhardt, T., Sahlberg, M., Cypionka, H., & Engelen, B.
The ISME Journal , (2 August 2012) | doi:10.1038/ismej.2012.92
ODP Leg.201の海洋堆積物掘削コア中のバクテリア(Rhizobium radiobacter)とそのウイルス。ウイルス:バクテリア比は、100mbsf以浅では概ね1-10の範囲だけど、数百mbsfでは20ぐらいまで増えているので、海底下深部でウイルスが生産されている? 溶菌性ではなく、溶原性ウイルス(感染しても増殖して宿主を殺すことなく、宿主ゲノムに入り込むウイルス)が多いらしい。ふむ。オルデンブルクのEくん。

Großkopf, T., Mohr, W., Baustian, T., Schunck, H., Gill, D., Kuypers, M. M. M., Lavik, G., et al.
Nature, 488(7411), 361–364. doi:10.1038/nature11338. Published online 08 August 2012.
→海洋N2固定速度の見直し。15NラベルしたN2ガスを気泡として海水に加える従来手法では、N2ガスが溶けきらず、N2固定速度を過小評価してしまうらしい。15N2で飽和した海水を添加する新手法では、従来の1.7倍の速度が得られた。今回の大西洋の結果を全海洋に外挿すると、N2固定速度は約177 TgN/yrとなって、海洋窒素収支はバランスに近づくようだ(それでもまだN2固定の方がやや少ないか?)。ただやっかいなことに従来手法と新手法による速度推定はあまり相関していなくて、従来手法による見積を簡単には補正することができない。

Covey, K. R., Wood, S. A., Warren, R. J., Lee, X., & Bradford, M. A.
Geophysical Research Letters, 39, L15705. doi:10.1029/2012GL052361, published 9 August 2012.
→樹木にメタン生成アーキアを含む微生物群集が感染して、樹木内部でメタンを生成しているかも? 樹木からのメタン放出についてはKeppler et al. (2006, Nature) から激しい議論が続いており、「土壌中生成メタンが樹木を通過して放出」「紫外線照射による無生物的メタン生成」などのメカニズムが注目されていたが、樹木内微生物の役割はあまり考えられてこなかったらしい。今後もまだまだ議論は続くのだろうけど、「植物の病気の生物地球化学的役割」という考え方が面白い。このトピックに関しては、今年1月にレビュー論文 Bruhn et al. (2012) が出ている。

Hörst, S. M., Yelle, R. V., Buch, A., Carrasco, N., Cernogora, G., Dutuit, O., Quirico, E., et al.
Astrobiology. doi:10.1089/ast.2011.0623. Online Ahead of Print: August 23, 2012
→タイタン模擬大気(N2/CH4/CO)の高周波放電実験で、アミノ酸と核酸塩基が生成されたらしい。シトシン、ウラシル、チミン、アデニン、ヒスチジンなど。一酸化炭素中の酸素原子が重要らしい。液体の水がなくてもOKで、上層大気環境での無生物的有機分子合成は初めてらしい。

Kallmeyer, J., Pockalny, R., Adhikari, R. R., Smith, D. C., & D’Hondt, S.
PNAS August 27, 2012, doi: 10.1073/pnas.1203849109
→堆積物海底下生命圏の微生物数・バイオマスの再評価。菌数カウントを遠洋域を含む様々な海域で行い、堆積速度や陸からの距離との関係から、全球分布を推定。Whitman et al. (1998, PNAS) Lipp et al. (2008, Nature) など従来推定(菌数:1030乗、バイオマス:60-300 PgC)に比べてだいぶ減ってしまった(菌数:1029乗、バイオマス:4 PgC)。話には聞いていたけど、ずいぶんな減りようだ。ポツダムのKさんたち。

Vonk, J. E., Sánchez-García, L., van Dongen, B. E., Alling, V., Kosmach, D., Charkin, A., Semiletov, I. P., et al.
Nature. doi:10.1038/nature11392. Published online 29 August 2012.
→北極海東シベリア沿岸のIce Complex deposits (ICD) 永久凍土では、侵食によって古い有機物が毎年約44 TgC解放され、3分の2は二酸化炭素として大気に放出され、残りは大陸棚に再堆積しているらしい。大陸棚表層堆積物の安定&放射性炭素同位体組成(d13CD14C)分析から、供給源を推定。有機物解放速度は従来推定より1桁多く、北極圏の温暖化をさらに加速させる要因になるかもしれない。

Pälike, H., Lyle, M. W., Nishi, H., Raffi, I., Ridgwell, A., Gamage, K., Klaus, A., et al.
Nature, 488(7413), 609–614. doi:10.1038/nature11360, Published online 29 August 2012.
→新生代の熱帯太平洋における炭酸塩補償深度(CCD)の変動を、2009年のIODP Exp.320-321 (PEAT) で掘削された堆積物コアから復元。Eocene/Oligocene境界では一気に1km近くも深くなっている。Eoceneには大きな振幅で振動しており、地球システムモデルによる解析からその原因として、「気候変動に伴う大陸風化の変動」と「堆積する有機物の質(易分解性有機物の割合)の変動」の可能性を仮説として挙げている。個人的には当然、後者が気になる。珪質プランクトンと炭酸塩プランクトンの割合の変動などが原因? 底層海水温の変動が堆積物微生物代謝に効くという話もある。日本人乗船研究者も数多く名を連ねている。

Wadham, J. L., Arndt, S., Tulaczyk, S., Stibal, M., Tranter, M., Telling, J., Lis, G. P., et al.
Nature, 488(7413), 633–637. doi:10.1038/nature11374, Published online 29 August 2012.
→南極氷床の下の堆積物に、大量の有機物(21,000 PgC)とメタンハイドレート(100-400 PgC)が眠っているという推計。様々な氷床下堆積物のインキュベーション実験や、1次元堆積物モデルによる計算。当然、微生物もたくさんいることになる。量が多いというだけでなく、氷床の変動とともに大きく変動しうるリザーバーという点で重要。氷床融解→メタン放出→温暖化という正フィードバックになるかも。いつか掘削できるだろうか?

Metcalf, W. W., Griffin, B. M., Cicchillo, R. M., Gao, J., Janga, S. C., Cooke, H. A., Circello, B. T., et al.
Science, 337(6098), 1104–1107. doi:10.1126/science.1219875. 31 August 2012.
→海洋微生物によるメチルホスホン酸の生合成代謝を同定し、生合成されることを確認。酸化的な海洋がメタンに過飽和になっているパラドックスについて、Karl et al. (2008, Nature Geosci) が「メチルホスホン酸分解によるリン獲得の際の副産物で好気的メタン生成」という仮説を提唱していたが、そもそもメチルホスホン酸が自然界で作られているかどうか不明だった。鍵遺伝子は海洋メタゲノムデータにも広く分布しており、パラドックス解決? でも微生物はメチルホスホン酸をなぜ作るんだろう?

2012年8月25日土曜日

集めた論文の覚書 [顕生代の硫黄循環2] Literature Review [Sulfur cycle during the Phanerozoic] #2


顕生代の硫黄循環の見直しを提唱したWortmann and Paytan (2012, Science) Halevy et al. (2012, Science) を読んで集めた論文たち、その2。その1では大気酸素濃度との関連に着目したが、今回は海洋化学組成(特に硫酸塩濃度)に着目して、海洋硫酸塩の硫黄同位体組成(d34S)、酸素同位体組成(d18O)の復元研究がメイン。やはり有機炭素埋没との関連を議論した論文が多い。論文はもっともっとあるはずだけど、キリがないのでとりあえず目についたもののみ。

Claypool, G. E., Holser, W. T., Kaplan, I. R., Sakai, H., & Zak, I. (1980)
Chemical Geology, 28, 199–260. doi:10.1016/0009-2541(80)90047-9
→蒸発岩から復元した、過去約9億年分の海洋硫酸塩の硫黄同位体組成(d34S)、酸素同位体組成(d18O)の経年曲線。1000件近く引用されていて、教科書等にもよく図が載っている。

Strauss, H. (1997)
Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 132(1-4), 97–118. doi:10.1016/S0031-0182(97)00067-9
→顕生代と後期原生代の堆積物d34Sの変動についてレビュー。Claypool-curveも更新されている。

Adina Paytan, Miriam Kastner, Douglas Campbell, Mark H. Thiemens (1998)
Science, 282(5393), 1459–1462. doi:10.1126/science.282.5393.1459
→バライト(重晶石)を用いて新生代の海洋硫酸塩d34S変動を100万年解像度で復元。溶存無機炭素d13Cの記録とは似ていないので、炭素循環と硫黄循環は同調していなかった?

Ohkouchi, N., Kawamura, K., Kajiwara, Y., Wada, E., Okada, M., Kanamatsu, T., & Taira, A. (1999)
Geology, 27(6), 535–538. doi:10.1130/0091-7613(1999)027<0535:siralb>2.3.CO;2
OAE-293.5Ma)の炭酸塩岩中硫酸塩のd34S

Lowenstein, T. K., Timofeeff, M. N., Brennan, S. T., Hardie, L. a, & Demicco, R. V. (2001)
Science, 294(5544), 1086–8. doi:10.1126/science.1064280
→蒸発岩ハライト中の流体包有物から、顕生代における海水組成変動を復元。主にMg/Ca比とカルサイト-アラゴナイトの変動について。

Horita, J., Zimmermann, H., & Holland, H. D. (2002)
Geochimica et Cosmochimica Acta, 66(21), 3733–3756. doi:10.1016/S0016-7037(01)00884-5
→蒸発岩ハライト中の流体包有物から、顕生代における海水組成変動を復元。硫酸塩濃度は、5-10mMから28mMぐらいの間で変動していて、Mg2+と同期?

Lowenstein, T. K., Hardie, L. a., Timofeeff, M. N., & Demicco, R. V. (2003)
Geology, 31(10), 857. doi:10.1130/G19728R.1
→顕生代の海洋硫酸塩濃度とCa2+濃度は、きれいに逆相関しながら大きく変動?

Kurtz, A. C., Kump, L. R., Arthur, M. A., Zachos, J. C., & Paytan, A. (2003)
Paleoceanography, 18(4), 1090. doi:10.1029/2003PA000908
→シンプルなボックスモデルで、新生代海洋の硫酸塩d34SDIC-d13C変動曲線から、有機炭素埋没量とパイライト埋没量を復元。前記新生代で両者が同調していないという議論。ただしモデル結果は、海水硫酸塩濃度の仮定に大きく依存する。

M.B. Goldhaber (2003)
Treatise on Geochemistry, 7, 257–288
→堆積物の硫黄の地球化学についてレビュー。パイライト形成メカニズムや硫黄同位体組成変動など。

Turchyn, A. V., & Schrag, D. P. (2004)
Science, 303(5666), 2004–7. doi:10.1126/science.1092296
→過去1000万年分のバライトの酸素同位体組成(d18O)。3Maから値が低くなるのは、氷期間氷期サイクルによる海水準変動が、大陸棚でのパイライト風化を促進した結果? 海水硫酸塩濃度も10-20%ほど増加した?

Kampschulte, A, & Strauss, H. (2004)
Chemical Geology, 204(3-4), 255–286. doi:10.1016/j.chemgeo.2003.11.013
→炭酸塩岩中硫酸塩のd34S分析による、顕生代における海水硫酸塩d34Sの復元。

Adina Paytan, Miriam Kastner, Douglas Campbell, Mark H. Thiemens (2004)
Science, 304(5677), 1663–5. doi:10.1126/science.1095258
→バライトを用いて白亜紀の海洋硫酸塩d34S変動を復元。Payton et al. (1998) の続き。やはりd13Cと同調しない期間があって、有機炭素埋没とパイライト埋没の関係を議論している。

Bottrell, S. H., & Newton, R. J. (2006)
Earth-Science Reviews, 75(1-4), 59–83. doi:10.1016/j.earscirev.2005.10.004
→顕生代や原生代の海洋硫酸塩のd34Sd18Oから硫黄循環を復元する研究のレビュー。

Turchyn, A. V., & Schrag, D. P. (2006)
Earth and Planetary Science Letters, 241(3-4), 763–779. doi:10.1016/j.epsl.2005.11.007
→新生代における海洋硫酸塩d18O変動をバライトから復元。3, 15, 30, 55Mad18Oが高いピークを示し、d34Sとは同調していない。高濃度の有機炭素を含む大陸縁辺堆積場の面積が重要?

Hay, W. W., Migdisov, A., Balukhovsky, A. N., Wold, C. N., Flögel, S., & Söding, E. (2006)
Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 240(1-2), 3–46. doi:10.1016/j.palaeo.2006.03.044
→蒸発岩形成量コンパイルから、顕生代における海水塩分濃度変動を復元。変動しながら徐々に減少しているトレンドらしい。高塩分(40‰以上)だと、温度変化に対する海水の密度変化の仕方が違って、熱塩循環の様式が違ったかも。海洋生物にも影響?

Wortmann, U. G., & Chernyavsky, B. M. (2007)
Nature, 446(7136), 654–6. doi:10.1038/nature05693
→前期白亜紀で海洋硫酸塩d34SDIC-d13Cが逆相関を示していて謎だったけど、南大西洋海盆での蒸発岩形成で硫酸塩濃度が減少したと考えると、うまく説明できるらしい。パイライト埋没が減少する一方で、堆積物中での有機物無機化は減少して有機炭素埋没は増加する。堆積物海底下生命圏の重要性。

Gill, B. C., Lyons, T. W., & Saltzman, M. R. (2007)
Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 256(3-4), 156–173. doi:10.1016/j.palaeo.2007.02.030
→古生代における、海洋硫酸塩d34SDIC-d13Cの変動の関係性について。前期古生代では同調して変動していて、中後期では同調しなくなるのは、硫酸塩濃度の増加を反映している?

Canfield, D. E., & Farquhar, J. (2009)
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 106(20), 8123–7. doi:10.1073/pnas.0902037106
→前期古生代以降に動物が進化して堆積物を生物擾乱するようになって、硫化物の再酸化が促進されて、海洋硫酸塩濃度が増加したという議論。

Turchyn, A. V., Schrag, D. P., Coccioni, R., & Montanari, A. (2009)
Earth and Planetary Science Letters, 285(1-2), 115–123. doi:10.1016/j.epsl.2009.06.002
→白亜紀における海洋硫酸塩のd34Sd18O変動をバライトとCAS(炭酸塩岩中硫酸塩)から復元。バライトd18Oの大きな変動は、OAEでの海洋酸化還元状態変動に対応?

Adams, D. D., Hurtgen, M. T., & Sageman, B. B. (2010)
Nature Geoscience, 3(3), 201–204. doi:10.1038/ngeo743
OAE-2では、火山噴火→海洋硫酸塩濃度が増加→硫酸還元による堆積物有機物分解が促進→海洋に栄養塩が供給→生物生産増加→貧酸素海洋、という一連のプロセスが起きていた? パイライトとCASd34S比較。そしてこの海域(Western Interior Seaway)の硫酸塩濃度は、OAE-2の前はわずか1.4mM以下だった?

Warren, J. K. (2010)
Earth-Science Reviews, 98(3-4), 217–268. doi:10.1016/j.earscirev.2009.11.004
→地質時代を通しての蒸発岩についてのレビュー。

Cárdenas, A. L., & Harries, P. J. (2010)
Nature Geoscience, 3(6), 430–434. doi:10.1038/ngeo869
→顕生代における海洋生物の新種発生率が、海洋の87Sr/86Srや硫酸塩d34Sの変動と良い相関を示した。87Sr/86Srが大陸風化の指標というのはいいけど、d34Sがリンリサイクルの指標としているのはどうなんだろう??

Wu, N., Farquhar, J., Strauss, H., Kim, S.-T., & Canfield, D. E. (2010)
Geochimica et Cosmochimica Acta, 74(7), 2053–2071. doi:10.1016/j.gca.2009.12.012
→顕生代における、硫酸塩-パイライト間のd34S分別と、D33S(から求めたラムダ)の変動。両者は似た変動を示す。硫化物再酸化の度合いを反映?

Luo, G., Kump, L. R., Wang, Y., Tong, J., Arthur, M. a., Yang, H., Huang, J., et al. (2010)
Earth and Planetary Science Letters, 300(1-2), 101–111. doi:10.1016/j.epsl.2010.09.041
→南中国のP/T境界で、CASによる硫酸塩d34S復元と、炭酸塩によるDIC-d13C復元。両者が同調して、しかも大きなd34S変動があるので、海洋硫酸塩濃度は現在の15%未満とかなり低かった?

Bots, P., Benning, L. G., Rickaby, R. E. M., & Shaw, S. (2011)
Geology, 39(4), 331–334. doi:10.1130/G31619.1
→顕生代の「カルサイトの海」と「アラゴナイトの海」の入れ替わりには、Mg/Ca比だけではなく硫酸塩濃度の変動も重要だった? 海水組成を変えた炭酸塩無機沈殿実験。

Gill, B. C., Lyons, T. W., & Jenkyns, H. C. (2011)
Earth and Planetary Science Letters, 312(3-4), 484–496. doi:10.1016/j.epsl.2011.10.030
→ジュラ紀Toarcian OAEの海洋硫酸塩d34S変動を3地域でCASで復元。d13Cの正エクスカーションと同調。パイライト埋没の増加を反映? 硫酸塩濃度は4-8mMぐらいだったらしい。

Gill, B. C., Lyons, T. W., Young, S. a, Kump, L. R., Knoll, A. H., & Saltzman, M. R. (2011)
Nature, 469(7328), 80–3. doi:10.1038/nature09700
→後期カンブリア紀(499Ma)の6地域の海洋硫酸塩d34S変動をCASで復元。DIC-d13Cの急激な正エクスカーション(SPICE)と同調した変動。Euxinicな海洋での有機炭素埋没とパイライト埋没の増加を反映?

Ratti, S., Knoll, A H., & Giordano, M. (2011)
Geobiology, 9(4), 301–12. doi:10.1111/j.1472-4669.2011.00284.x
→中生代に渦鞭毛藻、円石藻、珪藻が主要な海洋一次生産者になったのには、海洋硫酸塩濃度の変動が効いていたかも? 硫酸塩濃度を振って、様々な藻類を培養実験。


メモ:
多くの論文が、硫酸塩d34Sをパイライト埋没の指標として考えて、ボックスモデル計算などをしている。炭酸塩から復元した海洋溶存無機炭素の炭素同位体組成(DIC -d13C)と比較し、同調していたか否かから、海洋硫黄循環と有機炭素埋没との関連を議論する論文が多い。

最近10年間で、顕生代において海洋硫酸塩濃度は大きく変動してきたという認識が広がってきている模様。多くの時代で、現在(28mM)よりも低い濃度だったようだ。海水Mg/Ca比などとの関連も興味深い。

最近は、高時間解像度での復元が可能特にCAS(炭酸塩岩中硫酸塩)の同位体組成分析が流行っているようだ。