6月は9本。宇宙線増加イベント、微生物電気共生、海氷下珪藻ブルーム、アーキアのクオラムセンシング、降水同位体組成変動ルール、バッタの“恐怖”とC/N比、海洋堆積物の電流生物地球化学、メタン発酵共生とアミノ酸、古生代の真菌リグニン分解酵素。
Fusa Miyake, Kentaro Nagaya, Kimiaki Masuda
& Toshio Nakamura
Nature
486, 240–242 (14 June 2012) doi:10.1038/nature11123, Published online 03 June
2012.
→屋久杉年輪の1年ごと放射性炭素分析によると、西暦774-775年に急激な宇宙線量増加があったらしい。11年太陽活動周期による通常の宇宙線変動の約20倍に相当。ガクンと急激に上がってゆるゆると減少していく14C濃度変動曲線が、1960年頃のBomb peakに似ている。原因が、地球近傍の超新星爆発なのか、太陽のスーパーフレアなのか、他の何かなのかは分からないらしいけれども、どうせならスーパーフレアだと今後の展開が面白いところ。気候の応答も気になる。
Souichiro Kato, Kazuhito Hashimoto, and
Kazuya Watanabe
PNAS,
Published online before print June 4, 2012, doi: 10.1073/pnas.1117592109
→導電性鉱物を介した微生物種間の電子伝達が起きて、酸化還元代謝を共役させているらしい。従来は、化学物質(水素、ギ酸など)の拡散と、微生物細胞同士の結合(導電性ナノワイヤータンパクなど)が、種間電子伝達のメカニズムとして知られていた。どのくらいの空間スケールまでつながりうるのかが気になる。自然環境中の微生物同士の細胞レベルでのやり取りは今後も面白くなっていきそう。
参考:JSTの記者発表資料
Kevin R. Arrigo et al.
Science
15 June 2012: Vol. 336 no. 6087 p. 1408, DOI: 10.1126/science.1215065,
Published Online June 7 2012
→北極の海氷(厚さ1mぐらい)の下で、大量の珪藻ブルームが発生しているらしい。北極域の生物生産見積もりは、従来は10倍ほど過小評価だった? 極域海洋の古海洋記録の一部も、解釈が変わってくるかも? 自然にはまだまだ知らない現象があるんだなぁと、感心&驚いた研究。
Guishan Zhang et al.
The
ISME Journal (2012) 6, 1336–1344; doi:10.1038/ismej.2011.203; published online
12 January 2012
→Acyl homoserine
lactone (AHL) を介したクオラムセンシングはバクテリアでは広く知られていた現象だが、メタン生成アーキアでも今回確認。AHL関連の遺伝子の存在や発現、AHL分子そのものの同定など。細胞の形状や、炭素代謝フラックスを制御しているらしい。クオラムセンシングは原核生物では一般的に用いられている模様。これも微生物同士の細胞レベルでのやり取り。
Aggarwal, P. K., O. A. Alduchov, K. O.
Froehlich, L. J. Araguas-Araguas, N. C. Sturchio, and N. Kurita
Geophys.
Res. Lett., 39, L11705, doi:10.1029/2012GL051937. published 13 June 2012.
→降水の酸素同位体組成(d18O)の変動メカニズムには、Dansgaard (1964) 以来、温度効果とか雨量効果とか様々な効果が言われているけれど、「大気中水分の滞留時間」で全球降水d18Oの月~年変動がうまいこと統一的に説明ができそうらしい。しかも熱帯域のEl Nino時のd18O変動は、従来の想定と逆になりうるらしい。d18Oを使った古気候学にとってかなり重要になりそう。
Dror Hawlena, Michael S. Strickland, Mark
A. Bradford, Oswald J. Schmitz
Science
15 June 2012: Vol. 336 no. 6087 pp. 1434-1438, DOI: 10.1126/science.1220097
→捕食者(クモ)の存在下では草食動物(バッタ)の体のC/N比が変化し、土壌の微生物群集を変化させ、土壌リターの分解が遅くなるらしい。現象自体は面白いし、生物地球化学的にも重要だと思うけど、そのメカニズムを「捕食の恐怖のせい」と言ってしまうのはどうなんだろう…?
Nils Risgaard-Petersen, André Revil,
Patrick Meister, Lars Peter Nielsen
Geochimica
et Cosmochimica Acta, Volume 92, 1 September 2012, Pages 1–13, Available online
20 June 2012.
→Nielsen
et al. (2010, Nature) の続きで、「海洋堆積物表層に流れる電流が、酸化層と還元層の生物地球化学反応を接続している」という説を、堆積物インキュベーション実験の詳細な分析・測定で検証。今回はちゃんと電場も測定している。堆積物-水境界の生物地球化学に重要な話。Suboxic zoneで炭酸カルシウム溶解が促進されるので、古環境記録にも影響が残るかも?
Christopher B Walker et al.
The
ISME Journal, advance online publication 28 June 2012; doi:
10.1038/ismej.2012.60
→メタン生成アーキアと硫酸還元バクテリアの共生系ケモスタット培養のトランスクリプトーム。色んなことが分かったようだけど、個人的に特筆すべきは、アミノ酸であるアラニンが種間電子伝達として微生物2種間でやりとりされているという発見。従来の種間電子伝達は水素とギ酸が知られていた。これも微生物同士の細胞レベルでのやり取り。
Dimitrios Floudas et al.
Science
29 June 2012: Vol. 336 no. 6089 pp. 1715-1719, DOI: 10.1126/science.1221748
→31の真菌ゲノムの比較解析によると、リグニン分解酵素の起源は石炭紀末期(~295Ma)らしい。「石炭紀末期に有機炭素埋没効率が急激に低下したのは、真菌がリグニン分解酵素を獲得して、樹木分解が促進されたから」という仮説と整合的。顕生代の大気O2濃度進化を考える上で重要。