2012年8月17日金曜日

集めた論文の覚書 [マンガンと窒素循環] Literature Review [Manganese & nitrogen cycle]


先日に土壌中の鉄還元アンモニア酸化N2生成を報告したYang et al. (2012, Nature Geoscience) を読んで、海洋堆積物ではどうなんだろう?と、ふと気になり、鉄の代わりにマンガン酸化還元反応と窒素循環プロセスの関係を論じた論文をいくつか集めてみた(発行年順)。調べていたら次から次へと出てきたので、もっとありそう。

マンガン還元アンモニア酸化がどういうプロセスなのか、そもそも起きているのかどうかは、論文によって意見が分かれていて、結局よく分かっていないようだ…。最初の(?)Luther et al. (1997, GCA) では大陸縁辺海洋堆積物でのN2生成の90%をも占めうるとしているので、本当なら非常に重要なのだけど。最近になって溶存Mn(III)の重要性が明らかになって、また描像が変わってきた模様。そして鉄還元アンモニア酸化が起きるには低いpHが熱力学的に必要らしく、海洋堆積物では起きにくいらしい(鉄の鉱物の種類による?)。

窒素だけでなく有機物の動態に関しても重要そうなので、鉄やマンガンについては、また時間ある時に勉強してみよう。

Luther, G. W., Sundby, B., Lewis, B. L., Brendel, P. J., & Silverberg, N.
Geochimica et Cosmochimica Acta, 61(19), 4043–4052. (1997) doi:10.1016/S0016-7037(97)00239-1
→大陸縁辺海洋堆積物において、好気条件下でマンガン酸化物がアンモニアや有機窒素を酸化してN2を生成すると提唱。

Aller, R. C., Hall, P. O. J., Rude, P. D., & Aller, J. Y.
Deep Sea Research Part I: Oceanographic Research Papers, 45(1), 133–165. (1998) doi:10.1016/S0967-0637(97)00049-6
→パナマ海盆の深海堆積物において、底生生物による生物擾乱がマンガン還元アンモニア酸化や硝酸還元マンガン酸化を促進している?

Hulth, S., Aller, R. C., & Gilbert, F.
Geochimica et Cosmochimica Acta, 63(1), 49–66. (1999) doi:10.1016/S0016-7037(98)00285-3
→アメリカLong Island Soundの堆積物のインキュベーション実験。マンガン還元アンモニア酸化による硝酸生成?

Anschutz, P., Sundby, B., Lefrançois, L., Luther, G. W., & Mucci, A.
Geochimica et Cosmochimica Acta, 64(16), 2751–2763. (2000) doi:10.1016/S0016-7037(00)00400-2
→海洋堆積物中のマンガン酸化物、鉄酸化物が、窒素とヨウ素の動態に与える影響。深いところの硝酸+亜硝酸の濃度ピークは、マンガン還元アンモニア酸化によるN2生成でうまく説明できる?

Thamdrup, B., & Dalsgaard, T.
Geochimica et Cosmochimica Acta, 64(24), 4157–4164. (2000) doi:10.1016/S0016-7037(00)00496-8
Skagerrak海峡のマンガン酸化物リッチな堆積物で、15Nアンモニアを添加したが、N2や硝酸はほとんど生成せず。マンガン還元は有機物酸化には重要だが、アンモニア酸化にはほとんど効いていない?

Mortimer, R., Krom, M., Harris, S., Hayes, P., Davies, I., Davison, W., & Zhang, H.
Marine Ecology Progress Series, 236, 31–35. (2002) doi:10.3354/meps236031
→スコットランドフィヨルド堆積物で、鉄還元帯と硫酸還元帯の境界層に硝酸の鋭い濃度ピーク。マンガンによる窒素リサイクルで説明できる??

Mortimer, R., Harris, S., Krom, M., Freitag, T., Prosser, J., Barnes, J., Anschutz, P., et al.
Marine Ecology Progress Series, 276, 37–52. (2004) doi:10.3354/meps276037
→還元的堆積物での硝酸ピークの生成プロセスを特定しようと、アンモニア酸化バクテリアの遺伝子や、15Nトレーサー実験。アンモニア酸化のための電子受容体が何かは結局分からないらしいが、マンガンっぽいとしている。微生物プロセス?

Anschutz, P., Dedieu, K., Desmazes, F., & Chaillou, G.
Chemical Geology, 218(3-4), 265–279. (2005) doi:10.1016/j.chemgeo.2005.01.008
→海洋堆積物中の固相マンガンの化学種(酸化数)分析。Mn(IV)ではなくMn(III) oxyhydroxidesが、マンガン還元アンモニア酸化による硝酸生成に重要らしい。

Tebo, B. M., Johnson, H. a, McCarthy, J. K., & Templeton, A. S.
Trends in microbiology, 13(9), 421–8. (2005) doi:10.1016/j.tim.2005.07.009
→マンガン酸化微生物のレビュー。アモルファスな生物起源マンガン酸化物の構造や化学状態が面白いようだ。

Trouwborst, R. E., Clement, B. G., Tebo, B. M., Glazer, B. T., & Luther, G. W.
Science, 313(5795), 1955–7. (2006) doi:10.1126/science.1132876
→海水や海洋堆積物の酸化還元境界では、溶存Mn(III)がマイクロモーラーのオーダーで存在して、溶存Mnの大部分を占めていることが判明。何か有機リガンドで安定化されているらしい。解説では「マンガンの水圏地球化学のパラダイムを変える」とまで言われている。

Bartlett, R., Mortimer, R. J. G., & Morris, K. M.
Continental Shelf Research, 27(10-11), 1501–1509. (2007) doi:10.1016/j.csr.2007.01.027
→スコットランドLoch Fyneのマンガンリッチな堆積物の間隙水分析とインキュベーション実験。嫌気的な(マンガン還元?)アンモニア酸化が起きているような、起きていないような、微妙な結果。

Bartlett, R., Mortimer, R. J. G., & Morris, K.
Chemical Geology, 250(1-4), 29–39. (2008) doi:10.1016/j.chemgeo.2008.02.001
→イギリスHumber Estuaryの堆積物で、マンガン酸化物を添加したインキュベーション実験。熱で殺菌すると反応が起きないので、微生物によるマンガン還元アンモニア酸化が起きている? マンガン還元アンモニア酸化が起きる度合いは、堆積物がかき混ぜられる頻度・強度に依存するらしい。場所によって起きたり起きなかったりすることが説明可能?

Lam, P., & Kuypers, M. M. M.
Annual Review of Marine Science, 3(1), 317–345. (2011) doi:10.1146/annurev-marine-120709-142814
→海洋酸素極小層の窒素循環プロセスについてのレビュー。最後にマンガンや鉄、ヨウ素の酸化還元との関連についても少し扱っている。

Pearson, L. K., Hendy, C. H., Hamilton, D. P., & Silvester, W. B.
Aquatic Geochemistry, 18(1), 1–19. (2012) doi:10.1007/s10498-011-9143-2
→ニュージーランドNgapouri湖の堆積物-水境界付近のN2ガスの窒素同位体組成が、底層無酸素の時期に高い値を示すことについて、「マンガンor鉄還元アンモニア酸化による硝酸生成→すぐに脱窒でN2生成」という一連のプロセスが理由だと考察している。