2012年8月14日火曜日

特に気になった新着論文 2012年7月


7月は8本。生物ポンプ隔離効率、グローバル海洋脱窒速度見直し、“ヒ素微生物”の否定×2、海洋溶存有機物中の謎の色素シグナル、顕生代硫黄循環の見直し×2、鉄還元アンモニア酸化。日付順です。

DeVries, T., F. Primeau, and C. Deutsch
Geophys. Res. Lett., 39, L13601, doi:10.1029/2012GL051963. published 3 July 2012.
→海洋生物ポンプの効率を示す指標として、有機物エクスポート率はイマイチなので(生物ポンプ効率が低下していてもエクスポート率が上昇する場合もある)、「隔離効率」を提案。有機物無機化で再生産された栄養塩や炭素が、海洋表層に戻る前に深海にどのくらいの期間貯めこまれているかの指標。様々な時間スケールについて全球マッピング。氷期間氷期スケールでの大気CO2濃度変動などを考える際に重要。

Tim DeVries, Curtis Deutsch, François Primeau, Bonnie Chang & Allan Devol
Nature Geoscience 5, 547–550 (2012) doi:10.1038/ngeo1515, Published online 08 July 2012
→海水中の過剰N2濃度データから推定した全球海水中脱窒速度は66±6TgN/yr。海水中脱窒と堆積物中脱窒の割合に、同位体マスバランスからの推定値を採用すると、海洋全体での脱窒速度は230±60TgN/yrになって、海洋窒素収支はバランスに近い状態? でもやはり、海水中脱窒と堆積物中脱窒の割合の不確定性が大きいのがネックなのだなという印象。

Tobias J. Erb, Patrick Kiefer, Bodo Hattendorf, Detlef Günther, Julia A. Vorholt
Science 27 July 2012: Vol. 337 no. 6093 pp. 467-470, DOI: 10.1126/science.1218455, Published Online July 8 2012

Marshall Louis Reaves, Sunita Sinha, Joshua D. Rabinowitz, Leonid Kruglyak, Rosemary J. Redfield
Science 27 July 2012: Vol. 337 no. 6093 pp. 470-473, DOI: 10.1126/science.1219861, Published Online July 8 2012
2本まとめて。2010年に報告されて物議をかもした“ヒ素微生物”(GFAJ-1)について、「ヒ素に耐えているだけで、リンが成長に必要で、ヒ素は核酸には取り込まれていない」という否定論文。元のWolfe-Simon et al. (2010) は、培地にリンが3uMほどコンタミで入ってしまっているのがやはり弱点か。ただちょっと面白いのは、Erb et al.では、ヒ酸が結合した六炭糖を検出していること。この論文では「無生物的に糖がヒ素と結合したもので、中央代謝には関係ない」と結論している(まあそうかなという気もする)けど、もしかしたらもう一展開あるかも?

Röttgers, R. and Koch, B. P.
Biogeosciences, 9, 2585-2596, doi:10.5194/bg-9-2585-2012, Published: 13 July 2012
→深海溶存有機物の吸収波長を調べると、415nm付近と650nm付近の吸収が同時に全球に広く分布している。深部クロロフィル極大層や酸素極小層で特によく見られる。吸収波長的には、クロロフィルaやその分解物ではない、何か別のポルフィリン色素が高濃度に存在している模様だけど、その正体や起源、行方、滞留時間などは全くの謎らしい。気になる。

Itay Halevy, Shanan E. Peters, Woodward W. Fischer
Science 20 July 2012: Vol. 337 no. 6092 pp. 331-334, DOI: 10.1126/science.1220224

Ulrich G. Wortmann, Adina Paytan
Science 20 July 2012: Vol. 337 no. 6092 pp. 334-336, DOI: 10.1126/science.1220656
→これも2本まとめて。顕生代の海洋硫黄循環の中で、蒸発岩形成/溶出による硫酸塩除去/流入の役割がかなり大きく、しかもかなり変動してきたらしい。すると、硫黄同位体マスバランスの計算が変わって、海水硫黄同位体組成(d34S)変動曲線の解釈が変わってきてしまう。従来は、d34S変動曲線をパイライト埋没効率などの変動として解釈するのが主流だったけど、実は海洋硫酸濃度の急激な変動を反映している?(白亜紀~Paleoceneではわずか5mMという計算に) そしてパイライト埋没が大気O2濃度変動に与える影響もかなり大きかった(有機物埋没と同じくらい?)ことになる。本当なら、それぞれかなり重要な話。

Wendy H. Yang, Karrie A. Weber & Whendee L. Silver
Nature Geoscience 5, 538–541 (2012) doi:10.1038/ngeo1530. Published online 29 July 2012
→土壌における15Nラベル実験から「鉄還元アンモニア酸化(Feammox)によるN2生成」の発見。好気的硝化や脱窒とコンパラぐらいの速度で起きているらしい。海洋や淡水環境では亜硝酸還元アンモニア酸化(いわゆるアナモックス)がN2生成に重要なのは知られているけど、陸域環境ではアナモックスは見つかっていなかった。Feammoxによる亜硝酸や硝酸生成もあるけど、N2生成が主要なプロセスらしい。陸域の窒素循環がまた複雑化してややこしくなりそう。詳しいメカニズムは不明な模様。海洋堆積物では、マンガンうんぬんはたまに聞くけど、鉄はどうなんだろう…?