2012年3月2日金曜日

特に気になった新着論文 2012年2月

今回は7本をチョイス。熱水窒素循環、海洋メタゲノム、海洋溶存有機物、土壌アミノ酸、最終退氷期気候変動、微生物16S、後期原生代炭素循環。日付順です。

Bourbonnais, A., M. F. Lehmann, D. A. Butterfield, and S. K. Juniper
Geochem. Geophys. Geosyst., 13, Q02T01, doi:10.1029/2011GC003863. published 1 February 2012.
Juan de Fuca Ridge熱水域流体(高温&低温)中の硝酸の窒素・酸素同位体組成と、アンモニアの窒素同位体組成の分析。硝酸d15Nd18O1:1ラインからのズレが、微生物細胞数と相関しているのが興味深い。硝酸再生産のプロセスの可能性としては、「亜硝酸の再酸化」「熱水アンモニアの部分的な硝化」「海底下での窒素固定→無機化→硝化」がありえるらしい。Juan de Fuca Ridgeでは以前にDOCの放射性炭素濃度から、化学合成微生物による炭素固定が示唆されているので、炭素と窒素の関わりが見えてくると面白そう。

Vaughn Iverson, Robert M. Morris, Christian D. Frazar, Chris T. Berthiaume, Rhonda L. Morales, E. Virginia Armbrust
Science 3 February 2012: Vol. 335 no. 6068 pp. 587-590, DOI: 10.1126/science.1212665
→海洋メタゲノムデータから、Marine Group II Euryarchaeotaのゲノムをde novoアセンブリして復元。プロテオロドプシンを持っていたり、エステル結合脂肪酸の生合成酵素を持っていたり(通常のアーキアはエーテル結合脂質のみ使う)と、MGII自体の代謝ポテンシャル自体もかなり興味深いけれど、「ぐちゃぐちゃなメタゲノムデータから一つの種のゲノムを復元」ができるということに驚いた。シングルセルゲノミクス技術と合わせて、これから未培養微生物のゲノムがどんどん読まれていきそう。

Hansell, D. A., C. A. Carlson, and R. Schlitzer
Global Biogeochem. Cycles, 26, GB1016, doi:10.1029/2011GB004069. published 4 February 2012.
→海洋溶存有機炭素(DOC)の全球濃度分布と、水塊の“年代”(表層から隔離されていた期間)から、深海におけるDOCの無機化速度を推定。水塊が古くなるほど無機化速度が連続的に(?)遅くなっていく関係が見られる。堆積物有機物におけるMiddelburg power model(年代ログvs無機化速度ログが傾き-1の直線)とは違って、線形ではないとしている。反応性が異なる画分が元から混ざっていて順番に分解されていく結果なのか、一つの画分から始まって途中でどんどん変質していく結果なのか、それとも?

Paul W. Hill, Mark Farrell, Davey L. Jones
Soil Biology and Biochemistry, Volume 48, May 2012, Pages 106–112, Available online 10 February 2012.
→土壌微生物のアミノ酸取込実験。14Cラベルしたアラニンのモノマーとペプチド(二量体と三量体)それぞれのL体とD体について取込速度を測っている。L-ペプチドの方がモノマーよりも速く、D-モノマーの方がL-モノマーよりも少し速いという、意外な結果。環境中アミノ酸の動態がますます複雑な様相を示してきて、個人的にはやや頭が痛いけれど、海洋堆積物中のアミノ酸の同位体組成やD/L比を解釈する際にも参考になる情報。

Peter U. Clark et al.
PNAS, Published online before print February 13, 2012, doi: 10.1073/pnas.1116619109
→最終退氷期の全球古気候記録(高精度年代決定&高時間解像度なもの)をコンパイルして、EOF解析。温室効果ガスに関係する第1モードと、AMOC(大西洋子午面循環)に関係する第2モードの重ね合わせで、温度変動の78%を説明できるらしい。そうそうたるメンツの著者陣。第四紀古気候学の現在までの到達点の一つを示した、ランドマーク的な論文になりそう。

Verena Salman, Rudolf Amann, David A. Shub, and Heide N. Schulz-Vogta
PNAS, Published online before print February 27, 2012, doi: 10.1073/pnas.1120192109
→堆積物などに生息する硫黄バクテリアの16S rRNA遺伝子を調べてみたら、複数のイントロンが挿入されていて、最大で3.5kbにもなる(通常は約1.5kb)という報告。16S rRNA遺伝子は環境中の微生物群集組成解析などに最もよく使われるツールだけど、長さが異なるとPCRの際にバイアスを生じてしまうことも示した。もしイントロン挿入が多くの微生物で起きていたりすると、これまでの16S rRNA遺伝子による解析は見直しが必要になるかも? 今後の進展を見守りたい。

D.T. Johnston, F.A. Macdonald, B.C. Gill, P. F. Hoffman & D.P. Schrag
Nature (2012) Published online 29 February 2012, doi:10.1038/nature10854
→議論が紛糾している、後期原生代の大きな炭素同位体変動の原因について。モンゴルとカナダでは炭酸塩と有機物の炭素同位体組成がパラレルに変動しているので、「巨大な溶存有機物プールの酸化」説を否定。「炭酸塩の二次変質」説も否定。炭酸塩d13Cは表層炭素循環の変動を反映していて、メタンや堆積物有機物など“軽い”炭素の表層海洋への注入を記録しているという主張。ちょうど先週のOcean Science Meetingで発表されていた。ますます議論が紛糾していきそうで面白い。

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