2012年5月1日火曜日

特に気になった新着論文 2012年4月


4月は5本。鉱物光触媒栄養生物、同位体立体異性体分析、化学合成共生メタプロテオミクス、アミノ酸分子レベル放射性炭素年代測定、陸域花崗岩生命圏。

Anhuai Lu et al.
Nature Communications 3, Article number: 768 doi:10.1038/ncomms1768, Published 03 April 2012.
→太陽光が半導体鉱物(ルチル、スファレライト、ゲーサイトなど)に当たって化学エネルギーに変換され、非光栄養生物(化学合成独立栄養や従属栄養)の成長を促進するらしい。純粋培養と天然土壌微生物群集の両方で確認。新たなエネルギーの流れの可能性として興味深い。還元的な初期地球では硫化物が、酸化的大気では鉄/マンガン酸化物が使えた? 詳しい生化学的なメカニズムはまだ不明らしい。

Philippe Lesot and Olivier Lafon
Anal. Chem., DOI: 10.1021/ac300667n, Publication Date (Web): April 16, 2012
→有機分子の2H-13C同位体置換立体異性体を、多核NMRを用いて天然存在度レベル分析に初めて成功。まだ現状では100mgスケールと大量の物質が分析に必要なものの、技術が進歩して感度が上がれば、将来的には天然の物質にも適用可能になるかも? どんな情報を持っているんだろうな…。

Manuel Kleiner et al.
PNAS, Published online before print April 18, 2012, doi: 10.1073/pnas.1121198109
5種類の化学合成バクテリアを共生させる海洋堆積物ゴカイOlavius algarvensisのメタプロテオミクスとメタボロミクス。メタゲノムは2006年に読まれていたけど(Woyke et al. 2006)、謎が多かった。一酸化炭素酸化、水素酸化、ホスト廃棄物リサイクルなど、ゲノムでは見えなかった代謝経路がたくさん見えていて興味深い。

Anat Marom et al.
PNAS, Published online before print April 18, 2012, doi: 10.1073/pnas.1116328109
→人骨化石中コラーゲンからアミノ酸(ヒドロキシプロリン)を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で単離して、放射性炭素年代測定。ロシアの化石人骨に適用したら、バルク(4-16ka)よりもかなり古い値(33ka)になった。他のアミノ酸でも分析できるようになると、海洋などへの生物地球化学的応用も楽しみになるけど、さて。

Karsten Pedersen
FEMS Microbiology Ecology, Article first published online: 19 APR 2012, DOI: 10.1111/j.1574-6941.2012.01370.x
→スウェーデンの地下450mの花崗岩中地下水の微生物を、現場圧力を保持したまま、水素や酢酸を添加した時の応答を調べた。「生態系全体の代謝速度は遅いけど、微生物細胞あたりの代謝ポテンシャルはかなり高い」という一見矛盾した結果に対して、ウイルスによる微生物の死滅が原因という仮説を議論している。実際にこのサイトでは、微生物細胞数より一桁多いウイルス数が報告されているので(Kyle et al. 2008)、どうも確からしい気がする。

特に気になった新着論文 2012年3月


3月は7本をチョイス。更新を忘れていたので4月と同時にup。地殻内溶存有機物、安定同位体プロービング手法、堆積物有機物と鉄、堆積物バクテリアとDアミノ酸、黒の女王仮説、太古代の大気圧、海洋N*とリン無機化。日付順です。

Huei-Ting Lin, James P. Cowen, Eric J. Olson, Jan P. Amend, Marvin D. Lilley
Geochimica et Cosmochimica Acta, Available online 5 March 2012
Juan de Fuca RidgeCORK 1301Aで採取された海洋地殻流体の地球化学。新しいシステムで、コンタミ少なく採取できたらしい。硫酸、硫化水素、水素、メタン、DOCなど。熱力学的平衡になってない。リン酸塩が炭素窒素に比べて少なくて、リン制限になっている? DOC濃度は低くて、海洋地殻は海洋DOCのシンクになっている?

P. J. Maxfield, N. Dildar, E. R. C. Hornibrook, A. W. Stott, R. P. Evershed
Rapid Communications in Mass Spectrometry, Volume 26, Issue 8, pages 997–1004, 30 April 2012, Article first published online: 7 MAR 2012.
→「Stable isotope switching」法の提唱。重い同位体の基質の連続投与で生態系のラベルが完了した後に、同位体天然存在度な基質を与えて、各種バイオマーカーの同位体ラベル具合の時系列を追っていくことで、取込・回転・分解がまとめて見られる。なるほどなぁと感心。

Karine Lalonde, Alfonso Mucci, Alexandre Ouellet & Yves Gélina
Nature 483, 198–200 (08 March 2012) doi:10.1038/nature10855, Published online 07 March 2012.
→土壌有機物の研究で使われていた鉄還元法を海洋堆積物に適用したら、海洋堆積物中の有機物は2割前後が鉄と結合していることがわかった。結合している有機物は比較的13Cと窒素に富んでいて、タンパク質などかも? 海洋堆積物中で有機物が保存・埋没していくメカニズムやその制御要因は、いくつも説があって昔から謎が多かったが、鉄の役割がかなり大きそうということで、有機地球化学的にかなり重要な論文。陸域の研究と海洋の研究とをつなぐことの重要性も示している。

Bente Aa. Lomstein, Alice T. Langerhuus, Steven D’Hondt, Bo B. Jørgensen & Arthur J. Spivack
Nature 484, 101–104 (05 April 2012) doi:10.1038/nature10905, Published online 18 March 2012.
ODP Leg.201で掘削されたペルー沖堆積物のアミノ酸D/L比などから、堆積物中微生物の代謝速度や回転時間を見積もり。が、アミノ酸D/Lモデルに使っている、アミノ酸のラセミ化速度定数や微生物中アミノ酸D/L比などの仮定には「ホントか?」と首を傾げてしまう。

J. Jeffrey Morris, Richard E. Lenski, and Erik R. Zinser
23 March 2012 mBio vol. 3 no. 2 e00036-12, doi: 10.1128/mBio.00036-12
→海洋の微生物プランクトン(ProchlorococcusPelagibacterなどの優占種を含む)でゲノムが縮小している現象の説明として、「黒の女王仮説」を提唱。コストのかかる代謝機能の遺伝子を失い、他の微生物に押し付けることが進化の上で有利になる? 名前がかっこいい(トランプゲームのHeartsに由来するとのこと)。

Sanjoy M. Som, David C. Catling, Jelte P. Harnmeijer, Peter M. Polivka & Roger Buick
Nature (2012) doi:10.1038/nature10890, Published online 28 March 2012.
27億年前の雨の痕跡から大気圧を復元すると、現在の2倍よりは小さく、現在と同じくらい以下である可能性が高いらしい。大気窒素が2倍あれば、pressure broadeningによる温室効果増幅で「暗い太陽のパラドックス」も説明が可能だけど、ちと厳しいか? 「海洋堆積物の窒素埋没によって大気窒素量は減ってきている」説(Goldblatt et al. 2009)が最近気になっていたので、ちょっと残念。高濃度の二酸化炭素による高温な気候の可能性も否定される。

Monteiro, F. M. and M. J. Follows
Geophys. Res. Lett., 39, L06607, published 30 March 2012, doi:10.1029/2012GL050897.
→北大西洋N*(硝酸塩とリン酸塩のレッドフィールド比からのズレ)の分布に、有機リンの優先的な無機化がかなり効いている可能性。もしそうなら、N*による窒素固定速度推定は3倍ほど過小評価かも?