2013年4月4日木曜日

読んだ本まとめ 2013年3月 Book memo (Mar. 2013)


20133月に読んだ本の一言感想とリンク、印象的な一節の記録(Twitter+追記)。11冊。

『部分と全体 私の生涯の偉大な出会いと対話』(WK・ハイゼンベルク 著)
『本にだって雄と雌があります』(小田雅久仁 著)
『もうひとつの街』(ミハル・アイヴァス 著)
『カメのきた道 甲羅に秘められた2億年の生命進化』(平山廉 著)
『フェッセンデンの宇宙』(エドモンド・ハミルトン 著)
『宇宙をプログラムする宇宙 いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?』(セス・ロイド 著)
『ヒッグス粒子の発見 理論的予測と探求の全記録』(イアン・サンプル 著)
『ラジオのこちら側で』(ピーター・バラカン 著)
『サイバラバード・デイズ』(イアン・マクドナルド 著)
『水中都市・デンドロカカリヤ』(安部公房 著)
『太陽系最後の日 ザ・ベスト・オブ・アーサー・C・クラーク①』(アーサー・C・クラーク 著)


1.      『部分と全体 私の生涯の偉大な出会いと対話』WK・ハイゼンベルク 著)を読了。Kさんが絶賛していたので貸してもらった。ハイゼンベルクの自伝と、様々な物理学者たちとの哲学的対話。20世紀前半の科学の巨人たちによる、物理学や科学、社会に関する思索が味わい深い。特にIII章の「現代物理学における“理解する”という概念」での、ヴォルフガング・パウリやニールス・ボーアらとの議論が楽しい。
 “そこで私はボーアに尋ねた。「もしも原子の内部の構造が直感的な記述では、そんなに近づきがたく、あなたが言われるように、そもそもそれについての言葉も持ち合わせていないのならば、いったいわれわれはいつの日に原子を理解できるようになるのでしょうか?」ボーアは一瞬、沈黙したがやがて言った。「いやいやどうして、そう悲観的でもないよ。われわれは、その時こそ“理解する”という言葉の意味もはじめて同時に学ぶでしょうよ。」”


2.      『本にだって雄と雌があります』(小田雅久仁 著)を読了。本と本が交わることで生まれて空を舞う幻書、ありとあらゆる書物が集まる幻想図書館。本好きにはたまらないマジックリアリズム。積ん読タワーに幻書が挟まってないかと読後はつい見てしまう。
 “そんなことを考えていると、無性に小説が読みたくなってきて、私は小説の棚の前に立った。ぎしぎしと身を寄せあい、壁を埋めつくす夥しい本、本、本の群れ。俺を読んでくれ、私を手にとってくれ、いや、僕を! そんな声なき声を夢想することもできたが、本とはそもそもどこまでも寡黙なものだ。誰かが手に取って開かないかぎり、そして読みはじめないかぎり、ぐっと息をひそめ、ひと言も語ろうとはしない。だからこそ本は老いてゆこうとしているのだし、だからこそ息絶えずにいるのだとも言える。”


3.      『もうひとつの街』(ミハル・アイヴァス 著)を読了。プラハの裏側・内側に広がる幻想的な異世界都市の危険な探索。第20章の図書館の中のジャングル、第15章のベッドの上の山脈の描写が特に鮮烈。目に見える現実への信頼感を揺るがす一冊。
 “「(…)その後、図書館員たちがどうなったかはわからん。書棚が続く無限の廊下をさまよっているのか、腹を空かせ喉を渇かせて死んでいるのか、あるいは図書館の奥地で見張っている動物に絞殺されたのか。それとも、あそこには野性の部族がいて、図書館員は捕まって食べられてしまっているのかもしれん。(…)その野性のひとたちもまた、帰り道を探り当てることができなかった図書館員の野性化した子孫なのかもしれん。それでもなお、あなたは図書館の奥に連れていくよう頼んでくるのかい?」”


4.      『カメのきた道 甲羅に秘められた2億年の生命進化』(平山廉 著)を読了。昔のカメ、大きなカメ、ヘンなカメ、すごいカメ。首が曲がる方向が横のカメ。甲羅が無いカメ。深海に潜るカメ。角の生えたカメ。人間に食べられて滅びたカメ。
 “二サイクルほどの酸処理が終わった時点で、頭の形からどうやらこれは曲頸類ではなく、南半球ではこれまで報告されたことのない潜頸類の仲間ではないかと気付いた。さらにクリーニングを進めると、前足の形がはっきり見えてきてウミガメの仲間らしいことがわかった。しかし、化石を産出したサンタナ層の時代は、これまでウミガメが見つかった一番古い時代より少なくとも一〇〇〇万年は古いのだ。「これはちょっとおもしろいことになったぞ」と興奮してしまった。”


5.      『フェッセンデンの宇宙』(エドモンド・ハミルトン 著)を読了。表題作や「向こうはどんなところだい?」「風の子供」あたりが味わい深く、特に「太陽の炎」が良い。自分たちが一番乗りでないことを知ったとき、人類はさらに前進できるのか。
 “「いや。われわれは爪先をぶつけた。宇宙の継承者は自分たちだけではなく、今後もそうでないことを思い知らされた。いいだろう、その事実を受けいれて先へ進もう。それでも、惑星はわれわれのものだ。そしていつか――」”


6.      『宇宙をプログラムする宇宙 いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?』(セス・ロイド 著)を読了。量子力学+情報理論。宇宙は原子一個一個が量子ビットな超巨大な量子コンピュータだという大胆な仮説。なかなか刺激的。
 “本書は、宇宙とビットの物語である。宇宙は最大の存在で、ビットは情報の最小の塊だ。宇宙はビットからできている。すべての分子、原子、素粒子が、ビットという情報を記録している。そして、これら宇宙の構成要素間のすべての相互作用が、ビットを変化させることでその情報を処理している。要するに宇宙は計算をしているのだが、宇宙は量子力学の法則に支配されているので、宇宙は本質的に量子力学的なやり方で計算していて、そのビットは量子ビットである。結果的に、宇宙の歴史は、今も続けられている巨大な量子計算ということになる。宇宙は量子コンピュータなのだ。”


7.      『ヒッグス粒子の発見 理論的予測と探求の全記録』(イアン・サンプル 著)を読了。LHCによる去年の“発見”までの半世紀のドキュメント。SSCの挫折や、LEPやテバトロンのエピソードが面白い。数千人の人生をかけた探求。
 “最初は、ある学術誌に掲載されたはっきりしない論文だったが、その理論は、数十億ドル規模の装置を使用して長い年月をかけた探索を正当化する重要性をもたらし、何千という科学者や技術者たちのキャリアと夢と人生そのものになった。これは、彼らの成功だった。ヒッグスがこぼした涙は、彼自身が貢献したことのためではなく、その貢献が他の人たちのものになったためだった。”


8.      『ラジオのこちら側で』(ピーター・バラカン 著)を読了。InterFMなどのDJな著者の、ラジオと音楽と歩んだ日本での40年間。ラジオというメディアには個人的にも愛着があるので(実家にはテレビがなかった)、今後も残ってほしいなぁ。
 “ぼくたちの世代は子どものころから、自分が生まれる前の過去のいい音楽がラジオから流れてくるのを聞いて、ごく自然に自分たちの文化として受け止めてきました。しかし今、その環境がないことに危機感を持ちます。たしかに様々なものがデータ化され、ネットから検索することができるようになったけれど、そもそもどんなものがあるのかを知らなければ探し出すこともできない。何を観ればいいのか、聴けばいいのか、その手がかりになる名画座のような存在。そういうメディアが必要です。”


9.      『サイバラバード・デイズ』(イアン・マクドナルド 著)を読了。科学技術と宗教とモンスーンがせめぎあう近未来インドが舞台の連作SF短編集。分離戦争、水戦争、人工知能、遺伝子工学。特に「ヴィシュヌと猫のサーカス」が秀逸。
 “おれは、時代遅れだった。ママジとダダジがおれのために買ってくれたあらゆる才能と技術は、誰もがつながり、全開にされたユニヴァーサル・コンピューターに誰もがアクセスでき、個性というものが水のように展成し、液状化する世界では、意味がない。青年から中年、そして老齢へと、ゆっくりとおれは成長してゆくのだろう。おれの周囲でこの新しい世界が、新しい人類たちが、さらに加速度的に進化してゆく中で。(…)おれたちのように遺伝子的に高められたブラーミンとは、最後の人間ではないのか。”


10.   『水中都市・デンドロカカリヤ』(安部公房 著)を読了。初期短編集。魚への変身シーンの気色悪さが絶品な「水中都市」の幻想的な眩暈感、「闖入者」のやるせない不条理感がすごい。「手」「飢えた皮膚」も面白い。
 “ショウチュウを飲みすぎると、人間は必ず魚類に変化するんだ。現におれのおやじも、おれの見ている前で魚になった。”


11.   『太陽系最後の日 ザ・ベスト・オブ・アーサー・C・クラーク①』(アーサー・C・クラーク 著)を読了。短篇ベストその1。表題作や「海にいたる道」の、遠未来の地球における無人の都市遺跡の探索が印象的。乗員過剰な宇宙船内のサバイバルを描く「破断の限界」の緊張感も秀逸。マントル中の生命・文明が出てくる「地中の火」のアイディアも面白い。
 “見わたすかぎり、道路も、その両側の土地も、数知れぬ小蜘蛛の糸でおおわれているのだった。(…)午前ちゅうずっと、その風に運ばれる蜘蛛の群れは、幾百万ともしれず大空から降ってきていたのにちがいない。そしていま、その抜けるように青い空を見上げたブラントは、いまなお、群れに遅れた旅人たちがそこを飛び、それにつれて、陽光がその浮遊する絹の糸に当たって、ちらちらと光るのを見てとることができた。いずこへと旅してゆくとも知らず、この小さな生きものたちは、やがて彼が地球に訣別するときに直面するだろうどんな深淵よりも孤独な、また測り知れぬ深淵へむかって、大胆に突き進んできた。この教訓を、彼はこれからの数週間、数ヶ月のあいだ、たえず心に銘記しておくだろう。”