2012年8月12日日曜日

特に気になった新着論文 2012年6月


6月は9本。宇宙線増加イベント、微生物電気共生、海氷下珪藻ブルーム、アーキアのクオラムセンシング、降水同位体組成変動ルール、バッタの“恐怖”とC/N比、海洋堆積物の電流生物地球化学、メタン発酵共生とアミノ酸、古生代の真菌リグニン分解酵素。

Fusa Miyake, Kentaro Nagaya, Kimiaki Masuda & Toshio Nakamura
Nature 486, 240–242 (14 June 2012) doi:10.1038/nature11123, Published online 03 June 2012.
→屋久杉年輪の1年ごと放射性炭素分析によると、西暦774-775年に急激な宇宙線量増加があったらしい。11年太陽活動周期による通常の宇宙線変動の約20倍に相当。ガクンと急激に上がってゆるゆると減少していく14C濃度変動曲線が、1960年頃のBomb peakに似ている。原因が、地球近傍の超新星爆発なのか、太陽のスーパーフレアなのか、他の何かなのかは分からないらしいけれども、どうせならスーパーフレアだと今後の展開が面白いところ。気候の応答も気になる。

Souichiro Kato, Kazuhito Hashimoto, and Kazuya Watanabe
PNAS, Published online before print June 4, 2012, doi: 10.1073/pnas.1117592109
→導電性鉱物を介した微生物種間の電子伝達が起きて、酸化還元代謝を共役させているらしい。従来は、化学物質(水素、ギ酸など)の拡散と、微生物細胞同士の結合(導電性ナノワイヤータンパクなど)が、種間電子伝達のメカニズムとして知られていた。どのくらいの空間スケールまでつながりうるのかが気になる。自然環境中の微生物同士の細胞レベルでのやり取りは今後も面白くなっていきそう。

Kevin R. Arrigo et al.
Science 15 June 2012: Vol. 336 no. 6087 p. 1408, DOI: 10.1126/science.1215065, Published Online June 7 2012
→北極の海氷(厚さ1mぐらい)の下で、大量の珪藻ブルームが発生しているらしい。北極域の生物生産見積もりは、従来は10倍ほど過小評価だった? 極域海洋の古海洋記録の一部も、解釈が変わってくるかも? 自然にはまだまだ知らない現象があるんだなぁと、感心&驚いた研究。

Guishan Zhang et al.
The ISME Journal (2012) 6, 1336–1344; doi:10.1038/ismej.2011.203; published online 12 January 2012
Acyl homoserine lactone (AHL) を介したクオラムセンシングはバクテリアでは広く知られていた現象だが、メタン生成アーキアでも今回確認。AHL関連の遺伝子の存在や発現、AHL分子そのものの同定など。細胞の形状や、炭素代謝フラックスを制御しているらしい。クオラムセンシングは原核生物では一般的に用いられている模様。これも微生物同士の細胞レベルでのやり取り。

Aggarwal, P. K., O. A. Alduchov, K. O. Froehlich, L. J. Araguas-Araguas, N. C. Sturchio, and N. Kurita
Geophys. Res. Lett., 39, L11705, doi:10.1029/2012GL051937. published 13 June 2012.
→降水の酸素同位体組成(d18O)の変動メカニズムには、Dansgaard (1964) 以来、温度効果とか雨量効果とか様々な効果が言われているけれど、「大気中水分の滞留時間」で全球降水d18Oの月~年変動がうまいこと統一的に説明ができそうらしい。しかも熱帯域のEl Nino時のd18O変動は、従来の想定と逆になりうるらしい。d18Oを使った古気候学にとってかなり重要になりそう。

Dror Hawlena, Michael S. Strickland, Mark A. Bradford, Oswald J. Schmitz
Science 15 June 2012: Vol. 336 no. 6087 pp. 1434-1438, DOI: 10.1126/science.1220097
→捕食者(クモ)の存在下では草食動物(バッタ)の体のC/N比が変化し、土壌の微生物群集を変化させ、土壌リターの分解が遅くなるらしい。現象自体は面白いし、生物地球化学的にも重要だと思うけど、そのメカニズムを「捕食の恐怖のせい」と言ってしまうのはどうなんだろう…?

Nils Risgaard-Petersen, André Revil, Patrick Meister, Lars Peter Nielsen
Geochimica et Cosmochimica Acta, Volume 92, 1 September 2012, Pages 1–13, Available online 20 June 2012.
Nielsen et al. (2010, Nature) の続きで、「海洋堆積物表層に流れる電流が、酸化層と還元層の生物地球化学反応を接続している」という説を、堆積物インキュベーション実験の詳細な分析・測定で検証。今回はちゃんと電場も測定している。堆積物-水境界の生物地球化学に重要な話。Suboxic zoneで炭酸カルシウム溶解が促進されるので、古環境記録にも影響が残るかも?

Christopher B Walker et al.
The ISME Journal, advance online publication 28 June 2012; doi: 10.1038/ismej.2012.60
→メタン生成アーキアと硫酸還元バクテリアの共生系ケモスタット培養のトランスクリプトーム。色んなことが分かったようだけど、個人的に特筆すべきは、アミノ酸であるアラニンが種間電子伝達として微生物2種間でやりとりされているという発見。従来の種間電子伝達は水素とギ酸が知られていた。これも微生物同士の細胞レベルでのやり取り。

Dimitrios Floudas et al.
Science 29 June 2012: Vol. 336 no. 6089 pp. 1715-1719, DOI: 10.1126/science.1221748
31の真菌ゲノムの比較解析によると、リグニン分解酵素の起源は石炭紀末期(~295Ma)らしい。「石炭紀末期に有機炭素埋没効率が急激に低下したのは、真菌がリグニン分解酵素を獲得して、樹木分解が促進されたから」という仮説と整合的。顕生代の大気O2濃度進化を考える上で重要。

2012年6月4日月曜日

特に気になった新着論文 2012年5月



5月は7本。海洋DON窒素同位体組成、DMS硫黄同位体組成、スーパーフレア、北太平洋環流域の好気的海底下生命圏、ジュラ紀メラニン色素、火星隕石有機物、紫外線照射による火星メタン生成。

Angela N. Knapp, Daniel M. Sigman, Adam B. Kustka, Sergio A. Sañudo-Wilhelmy, Douglas G. Capone
Marine Chemistry, Volumes 136–137, 20 June 2012, Pages 24–33. Available online 12 May 2012.
→海洋の低分子溶存態有機窒素(<1000Da)の窒素同位体組成を初めて測定。低分子+高分子が全体と合わないなど、分析に問題がある可能性もあるけれど、低分子DONが一貫して高分子DONより低い値の窒素同位体組成を示した。興味深い。低分子DONのソースは、高分子DONの分解か、懸濁体有機物の分解か? はたまた低分子と高分子でソースが全然違うのか?

Harry Oduro, Kathryn L. Van Alstyne, and James Farquhar
PNAS, Published online before print May 14, 2012, doi: 10.1073/pnas.1117691109
→エアロゾルのソースとして重要なDMSDMSPの四種硫黄同位体組成を、海藻や植物プランクトンから単離して分析。海水の硫酸よりもd34Sが低い値を示す。大気化学的な話はH君に任せるとして、個人的にはメチオニン代謝とのリンクが興味深い。メチオニンとシステインの硫黄同位体組成、何かに使えるだろうか?(そもそもまだちゃんと測れないけど)

Hiroyuki Maehara et al.
Nature (2012) doi:10.1038/nature11063, Published online 16 May 2012
83千個の太陽型恒星で120日間で365回のスーパーフレア(最大級の太陽フレアの100-1000倍の超巨大フレア)が発生していた。系外惑星探査衛星ケプラーのデータを解析。1000倍スーパーフレアは、平均すると5000年に1回の発生頻度らしい。ホットジュピターを持つことが必須条件とされていたけど、そうでもなさそう。となると、太陽でもスーパーフレアが今後起きる/過去に起きていたかも?

Hans Røy, Jens Kallmeyer, Rishi Ram Adhikari, Robert Pockalny, Bo Barker Jørgensen, Steven D'Hondt
Science 18 May 2012: Vol. 336 no. 6083 pp. 922-925, DOI: 10.1126/science.1219424
→北太平洋環流域の赤色粘土堆積物の酸素の深度プロファイル。「海底下30m8600万年前の堆積物中でも海底下生命圏による好気呼吸が起きている!」という論文、なのだけど。うーむ。

Keely Glass et al.
PNAS, Published online before print May 21, 2012, doi: 10.1073/pnas.1118448109
→ジュラ紀の頭足類化石から、メラニン色素を化学的に直接検出。素晴らしい。従来は器官の形状や微量金属など、間接的な方法でメラニン色素の存在を推定していた。アルカリ過酸化水素分解、熱分解GC、赤外分光、X線、固体NMRなどなど、多種多様な分析手法を駆使している。ToF-SIMSEocene魚の眼の化石にメラニン色素検出」という論文58日に出ていたけど、こちらの方がより年代が古いので採用。

A. Steele et al.
Science DOI: 10.1126/science.1220715, Published Online May 24 2012
→火星隕石11個をラマン分光イメージングすると、10個には非生物起源高分子有機炭素が検出されたらしい。多環式芳香族炭化水素も。マグマが結晶化するときに還元的炭素が沈着する? 炭素安定同位体組成は、約-20‰と地球生物起源有機物と似た値を示す。「鉱物の結晶内部に取り込まれている有機物はコンタミでなく火星起源」という論理は分かるけど、よく読むとバルク有機物の放射性炭素のデータ的には、地球有機物がそれなりにコンタミしている模様。「有機物の数十%は火星起源」と書いてあるけど、本当だろうか?

Frank Keppler et al.
Nature (2012) doi:10.1038/nature11203, Published online 30 May 2012
→マーチソン隕石に模擬火星表層環境で紫外線照射すると、けっこうな量のメタンが発生したらしい。火星最大の謎の一つである、大気中メタンの生成源として重要かも? 水素同位体組成は地球外物質的な高い値(+数百‰)を示すけれど、炭素安定同位体組成は-60~-30‰と地球生物起源メタンと似た値になってしまうらしいので、火星大気メタンの同位体組成を測定しても解釈には要注意とな。

2012年5月1日火曜日

特に気になった新着論文 2012年4月


4月は5本。鉱物光触媒栄養生物、同位体立体異性体分析、化学合成共生メタプロテオミクス、アミノ酸分子レベル放射性炭素年代測定、陸域花崗岩生命圏。

Anhuai Lu et al.
Nature Communications 3, Article number: 768 doi:10.1038/ncomms1768, Published 03 April 2012.
→太陽光が半導体鉱物(ルチル、スファレライト、ゲーサイトなど)に当たって化学エネルギーに変換され、非光栄養生物(化学合成独立栄養や従属栄養)の成長を促進するらしい。純粋培養と天然土壌微生物群集の両方で確認。新たなエネルギーの流れの可能性として興味深い。還元的な初期地球では硫化物が、酸化的大気では鉄/マンガン酸化物が使えた? 詳しい生化学的なメカニズムはまだ不明らしい。

Philippe Lesot and Olivier Lafon
Anal. Chem., DOI: 10.1021/ac300667n, Publication Date (Web): April 16, 2012
→有機分子の2H-13C同位体置換立体異性体を、多核NMRを用いて天然存在度レベル分析に初めて成功。まだ現状では100mgスケールと大量の物質が分析に必要なものの、技術が進歩して感度が上がれば、将来的には天然の物質にも適用可能になるかも? どんな情報を持っているんだろうな…。

Manuel Kleiner et al.
PNAS, Published online before print April 18, 2012, doi: 10.1073/pnas.1121198109
5種類の化学合成バクテリアを共生させる海洋堆積物ゴカイOlavius algarvensisのメタプロテオミクスとメタボロミクス。メタゲノムは2006年に読まれていたけど(Woyke et al. 2006)、謎が多かった。一酸化炭素酸化、水素酸化、ホスト廃棄物リサイクルなど、ゲノムでは見えなかった代謝経路がたくさん見えていて興味深い。

Anat Marom et al.
PNAS, Published online before print April 18, 2012, doi: 10.1073/pnas.1116328109
→人骨化石中コラーゲンからアミノ酸(ヒドロキシプロリン)を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で単離して、放射性炭素年代測定。ロシアの化石人骨に適用したら、バルク(4-16ka)よりもかなり古い値(33ka)になった。他のアミノ酸でも分析できるようになると、海洋などへの生物地球化学的応用も楽しみになるけど、さて。

Karsten Pedersen
FEMS Microbiology Ecology, Article first published online: 19 APR 2012, DOI: 10.1111/j.1574-6941.2012.01370.x
→スウェーデンの地下450mの花崗岩中地下水の微生物を、現場圧力を保持したまま、水素や酢酸を添加した時の応答を調べた。「生態系全体の代謝速度は遅いけど、微生物細胞あたりの代謝ポテンシャルはかなり高い」という一見矛盾した結果に対して、ウイルスによる微生物の死滅が原因という仮説を議論している。実際にこのサイトでは、微生物細胞数より一桁多いウイルス数が報告されているので(Kyle et al. 2008)、どうも確からしい気がする。

特に気になった新着論文 2012年3月


3月は7本をチョイス。更新を忘れていたので4月と同時にup。地殻内溶存有機物、安定同位体プロービング手法、堆積物有機物と鉄、堆積物バクテリアとDアミノ酸、黒の女王仮説、太古代の大気圧、海洋N*とリン無機化。日付順です。

Huei-Ting Lin, James P. Cowen, Eric J. Olson, Jan P. Amend, Marvin D. Lilley
Geochimica et Cosmochimica Acta, Available online 5 March 2012
Juan de Fuca RidgeCORK 1301Aで採取された海洋地殻流体の地球化学。新しいシステムで、コンタミ少なく採取できたらしい。硫酸、硫化水素、水素、メタン、DOCなど。熱力学的平衡になってない。リン酸塩が炭素窒素に比べて少なくて、リン制限になっている? DOC濃度は低くて、海洋地殻は海洋DOCのシンクになっている?

P. J. Maxfield, N. Dildar, E. R. C. Hornibrook, A. W. Stott, R. P. Evershed
Rapid Communications in Mass Spectrometry, Volume 26, Issue 8, pages 997–1004, 30 April 2012, Article first published online: 7 MAR 2012.
→「Stable isotope switching」法の提唱。重い同位体の基質の連続投与で生態系のラベルが完了した後に、同位体天然存在度な基質を与えて、各種バイオマーカーの同位体ラベル具合の時系列を追っていくことで、取込・回転・分解がまとめて見られる。なるほどなぁと感心。

Karine Lalonde, Alfonso Mucci, Alexandre Ouellet & Yves Gélina
Nature 483, 198–200 (08 March 2012) doi:10.1038/nature10855, Published online 07 March 2012.
→土壌有機物の研究で使われていた鉄還元法を海洋堆積物に適用したら、海洋堆積物中の有機物は2割前後が鉄と結合していることがわかった。結合している有機物は比較的13Cと窒素に富んでいて、タンパク質などかも? 海洋堆積物中で有機物が保存・埋没していくメカニズムやその制御要因は、いくつも説があって昔から謎が多かったが、鉄の役割がかなり大きそうということで、有機地球化学的にかなり重要な論文。陸域の研究と海洋の研究とをつなぐことの重要性も示している。

Bente Aa. Lomstein, Alice T. Langerhuus, Steven D’Hondt, Bo B. Jørgensen & Arthur J. Spivack
Nature 484, 101–104 (05 April 2012) doi:10.1038/nature10905, Published online 18 March 2012.
ODP Leg.201で掘削されたペルー沖堆積物のアミノ酸D/L比などから、堆積物中微生物の代謝速度や回転時間を見積もり。が、アミノ酸D/Lモデルに使っている、アミノ酸のラセミ化速度定数や微生物中アミノ酸D/L比などの仮定には「ホントか?」と首を傾げてしまう。

J. Jeffrey Morris, Richard E. Lenski, and Erik R. Zinser
23 March 2012 mBio vol. 3 no. 2 e00036-12, doi: 10.1128/mBio.00036-12
→海洋の微生物プランクトン(ProchlorococcusPelagibacterなどの優占種を含む)でゲノムが縮小している現象の説明として、「黒の女王仮説」を提唱。コストのかかる代謝機能の遺伝子を失い、他の微生物に押し付けることが進化の上で有利になる? 名前がかっこいい(トランプゲームのHeartsに由来するとのこと)。

Sanjoy M. Som, David C. Catling, Jelte P. Harnmeijer, Peter M. Polivka & Roger Buick
Nature (2012) doi:10.1038/nature10890, Published online 28 March 2012.
27億年前の雨の痕跡から大気圧を復元すると、現在の2倍よりは小さく、現在と同じくらい以下である可能性が高いらしい。大気窒素が2倍あれば、pressure broadeningによる温室効果増幅で「暗い太陽のパラドックス」も説明が可能だけど、ちと厳しいか? 「海洋堆積物の窒素埋没によって大気窒素量は減ってきている」説(Goldblatt et al. 2009)が最近気になっていたので、ちょっと残念。高濃度の二酸化炭素による高温な気候の可能性も否定される。

Monteiro, F. M. and M. J. Follows
Geophys. Res. Lett., 39, L06607, published 30 March 2012, doi:10.1029/2012GL050897.
→北大西洋N*(硝酸塩とリン酸塩のレッドフィールド比からのズレ)の分布に、有機リンの優先的な無機化がかなり効いている可能性。もしそうなら、N*による窒素固定速度推定は3倍ほど過小評価かも?

2012年3月2日金曜日

特に気になった新着論文 2012年2月

今回は7本をチョイス。熱水窒素循環、海洋メタゲノム、海洋溶存有機物、土壌アミノ酸、最終退氷期気候変動、微生物16S、後期原生代炭素循環。日付順です。

Bourbonnais, A., M. F. Lehmann, D. A. Butterfield, and S. K. Juniper
Geochem. Geophys. Geosyst., 13, Q02T01, doi:10.1029/2011GC003863. published 1 February 2012.
Juan de Fuca Ridge熱水域流体(高温&低温)中の硝酸の窒素・酸素同位体組成と、アンモニアの窒素同位体組成の分析。硝酸d15Nd18O1:1ラインからのズレが、微生物細胞数と相関しているのが興味深い。硝酸再生産のプロセスの可能性としては、「亜硝酸の再酸化」「熱水アンモニアの部分的な硝化」「海底下での窒素固定→無機化→硝化」がありえるらしい。Juan de Fuca Ridgeでは以前にDOCの放射性炭素濃度から、化学合成微生物による炭素固定が示唆されているので、炭素と窒素の関わりが見えてくると面白そう。

Vaughn Iverson, Robert M. Morris, Christian D. Frazar, Chris T. Berthiaume, Rhonda L. Morales, E. Virginia Armbrust
Science 3 February 2012: Vol. 335 no. 6068 pp. 587-590, DOI: 10.1126/science.1212665
→海洋メタゲノムデータから、Marine Group II Euryarchaeotaのゲノムをde novoアセンブリして復元。プロテオロドプシンを持っていたり、エステル結合脂肪酸の生合成酵素を持っていたり(通常のアーキアはエーテル結合脂質のみ使う)と、MGII自体の代謝ポテンシャル自体もかなり興味深いけれど、「ぐちゃぐちゃなメタゲノムデータから一つの種のゲノムを復元」ができるということに驚いた。シングルセルゲノミクス技術と合わせて、これから未培養微生物のゲノムがどんどん読まれていきそう。

Hansell, D. A., C. A. Carlson, and R. Schlitzer
Global Biogeochem. Cycles, 26, GB1016, doi:10.1029/2011GB004069. published 4 February 2012.
→海洋溶存有機炭素(DOC)の全球濃度分布と、水塊の“年代”(表層から隔離されていた期間)から、深海におけるDOCの無機化速度を推定。水塊が古くなるほど無機化速度が連続的に(?)遅くなっていく関係が見られる。堆積物有機物におけるMiddelburg power model(年代ログvs無機化速度ログが傾き-1の直線)とは違って、線形ではないとしている。反応性が異なる画分が元から混ざっていて順番に分解されていく結果なのか、一つの画分から始まって途中でどんどん変質していく結果なのか、それとも?

Paul W. Hill, Mark Farrell, Davey L. Jones
Soil Biology and Biochemistry, Volume 48, May 2012, Pages 106–112, Available online 10 February 2012.
→土壌微生物のアミノ酸取込実験。14Cラベルしたアラニンのモノマーとペプチド(二量体と三量体)それぞれのL体とD体について取込速度を測っている。L-ペプチドの方がモノマーよりも速く、D-モノマーの方がL-モノマーよりも少し速いという、意外な結果。環境中アミノ酸の動態がますます複雑な様相を示してきて、個人的にはやや頭が痛いけれど、海洋堆積物中のアミノ酸の同位体組成やD/L比を解釈する際にも参考になる情報。

Peter U. Clark et al.
PNAS, Published online before print February 13, 2012, doi: 10.1073/pnas.1116619109
→最終退氷期の全球古気候記録(高精度年代決定&高時間解像度なもの)をコンパイルして、EOF解析。温室効果ガスに関係する第1モードと、AMOC(大西洋子午面循環)に関係する第2モードの重ね合わせで、温度変動の78%を説明できるらしい。そうそうたるメンツの著者陣。第四紀古気候学の現在までの到達点の一つを示した、ランドマーク的な論文になりそう。

Verena Salman, Rudolf Amann, David A. Shub, and Heide N. Schulz-Vogta
PNAS, Published online before print February 27, 2012, doi: 10.1073/pnas.1120192109
→堆積物などに生息する硫黄バクテリアの16S rRNA遺伝子を調べてみたら、複数のイントロンが挿入されていて、最大で3.5kbにもなる(通常は約1.5kb)という報告。16S rRNA遺伝子は環境中の微生物群集組成解析などに最もよく使われるツールだけど、長さが異なるとPCRの際にバイアスを生じてしまうことも示した。もしイントロン挿入が多くの微生物で起きていたりすると、これまでの16S rRNA遺伝子による解析は見直しが必要になるかも? 今後の進展を見守りたい。

D.T. Johnston, F.A. Macdonald, B.C. Gill, P. F. Hoffman & D.P. Schrag
Nature (2012) Published online 29 February 2012, doi:10.1038/nature10854
→議論が紛糾している、後期原生代の大きな炭素同位体変動の原因について。モンゴルとカナダでは炭酸塩と有機物の炭素同位体組成がパラレルに変動しているので、「巨大な溶存有機物プールの酸化」説を否定。「炭酸塩の二次変質」説も否定。炭酸塩d13Cは表層炭素循環の変動を反映していて、メタンや堆積物有機物など“軽い”炭素の表層海洋への注入を記録しているという主張。ちょうど先週のOcean Science Meetingで発表されていた。ますます議論が紛糾していきそうで面白い。

その他の気になった新着論文・ニュースは、GoogleリーダーからGoogle+のページに載せています。2月には新着論文が約100本。

2012年2月25日土曜日

Ocean Science Meeting 2012 (2012/2/24, Fri)


金曜日で気になった発表のメモと要旨へのリンク。海洋窒素循環なセッション×3で、「まじか!」という発表が多数ありました。特に従属栄養窒素固定は面白くなりそう。


Oral










Oral









Oral





Ocean Science Meeting 2012 (2012/2/23, Thu)


木曜日で気になった発表のメモと要旨へのリンク。今回の目的であるアミノ酸同位体セッションがメイン。ポスター発表もしてきました。

→アミノ酸同位体セッション。アミノ酸同位体関係者が一堂に会するのはおそらく初めてで、重要&有意義な会合でした。ポスター発表は、生態学系の人は概ね「へー」くらいの反応で、地球化学系の人には好評でした。

Oral






Poster







→極域海洋の微生物生態学。

Oral




→東部赤道太平洋OMZ(酸素極小層)の生物地球化学。

Poster






→(ETSP以外の?)OMZの微生物学・生物地球化学。

Poster









Poster