2012年9月1日土曜日

特に気になった新着論文 2012年8月 New Papers (Aug. 2012)


8月は9本。海底下深部ウイルス生態、海洋N2固定速度見直し、樹木中メタン生成、タイタン大気アミノ酸&核酸生成、海底下堆積物生命圏量見直し、北極海沿岸の古い有機物、新生代CCD変動、南極堆積物メタン、メチルホスホン酸生合成。日付順。

今月は個人的には豊作でこれら以外にも面白そうな論文が多かった。

Engelhardt, T., Sahlberg, M., Cypionka, H., & Engelen, B.
The ISME Journal , (2 August 2012) | doi:10.1038/ismej.2012.92
ODP Leg.201の海洋堆積物掘削コア中のバクテリア(Rhizobium radiobacter)とそのウイルス。ウイルス:バクテリア比は、100mbsf以浅では概ね1-10の範囲だけど、数百mbsfでは20ぐらいまで増えているので、海底下深部でウイルスが生産されている? 溶菌性ではなく、溶原性ウイルス(感染しても増殖して宿主を殺すことなく、宿主ゲノムに入り込むウイルス)が多いらしい。ふむ。オルデンブルクのEくん。

Großkopf, T., Mohr, W., Baustian, T., Schunck, H., Gill, D., Kuypers, M. M. M., Lavik, G., et al.
Nature, 488(7411), 361–364. doi:10.1038/nature11338. Published online 08 August 2012.
→海洋N2固定速度の見直し。15NラベルしたN2ガスを気泡として海水に加える従来手法では、N2ガスが溶けきらず、N2固定速度を過小評価してしまうらしい。15N2で飽和した海水を添加する新手法では、従来の1.7倍の速度が得られた。今回の大西洋の結果を全海洋に外挿すると、N2固定速度は約177 TgN/yrとなって、海洋窒素収支はバランスに近づくようだ(それでもまだN2固定の方がやや少ないか?)。ただやっかいなことに従来手法と新手法による速度推定はあまり相関していなくて、従来手法による見積を簡単には補正することができない。

Covey, K. R., Wood, S. A., Warren, R. J., Lee, X., & Bradford, M. A.
Geophysical Research Letters, 39, L15705. doi:10.1029/2012GL052361, published 9 August 2012.
→樹木にメタン生成アーキアを含む微生物群集が感染して、樹木内部でメタンを生成しているかも? 樹木からのメタン放出についてはKeppler et al. (2006, Nature) から激しい議論が続いており、「土壌中生成メタンが樹木を通過して放出」「紫外線照射による無生物的メタン生成」などのメカニズムが注目されていたが、樹木内微生物の役割はあまり考えられてこなかったらしい。今後もまだまだ議論は続くのだろうけど、「植物の病気の生物地球化学的役割」という考え方が面白い。このトピックに関しては、今年1月にレビュー論文 Bruhn et al. (2012) が出ている。

Hörst, S. M., Yelle, R. V., Buch, A., Carrasco, N., Cernogora, G., Dutuit, O., Quirico, E., et al.
Astrobiology. doi:10.1089/ast.2011.0623. Online Ahead of Print: August 23, 2012
→タイタン模擬大気(N2/CH4/CO)の高周波放電実験で、アミノ酸と核酸塩基が生成されたらしい。シトシン、ウラシル、チミン、アデニン、ヒスチジンなど。一酸化炭素中の酸素原子が重要らしい。液体の水がなくてもOKで、上層大気環境での無生物的有機分子合成は初めてらしい。

Kallmeyer, J., Pockalny, R., Adhikari, R. R., Smith, D. C., & D’Hondt, S.
PNAS August 27, 2012, doi: 10.1073/pnas.1203849109
→堆積物海底下生命圏の微生物数・バイオマスの再評価。菌数カウントを遠洋域を含む様々な海域で行い、堆積速度や陸からの距離との関係から、全球分布を推定。Whitman et al. (1998, PNAS) Lipp et al. (2008, Nature) など従来推定(菌数:1030乗、バイオマス:60-300 PgC)に比べてだいぶ減ってしまった(菌数:1029乗、バイオマス:4 PgC)。話には聞いていたけど、ずいぶんな減りようだ。ポツダムのKさんたち。

Vonk, J. E., Sánchez-García, L., van Dongen, B. E., Alling, V., Kosmach, D., Charkin, A., Semiletov, I. P., et al.
Nature. doi:10.1038/nature11392. Published online 29 August 2012.
→北極海東シベリア沿岸のIce Complex deposits (ICD) 永久凍土では、侵食によって古い有機物が毎年約44 TgC解放され、3分の2は二酸化炭素として大気に放出され、残りは大陸棚に再堆積しているらしい。大陸棚表層堆積物の安定&放射性炭素同位体組成(d13CD14C)分析から、供給源を推定。有機物解放速度は従来推定より1桁多く、北極圏の温暖化をさらに加速させる要因になるかもしれない。

Pälike, H., Lyle, M. W., Nishi, H., Raffi, I., Ridgwell, A., Gamage, K., Klaus, A., et al.
Nature, 488(7413), 609–614. doi:10.1038/nature11360, Published online 29 August 2012.
→新生代の熱帯太平洋における炭酸塩補償深度(CCD)の変動を、2009年のIODP Exp.320-321 (PEAT) で掘削された堆積物コアから復元。Eocene/Oligocene境界では一気に1km近くも深くなっている。Eoceneには大きな振幅で振動しており、地球システムモデルによる解析からその原因として、「気候変動に伴う大陸風化の変動」と「堆積する有機物の質(易分解性有機物の割合)の変動」の可能性を仮説として挙げている。個人的には当然、後者が気になる。珪質プランクトンと炭酸塩プランクトンの割合の変動などが原因? 底層海水温の変動が堆積物微生物代謝に効くという話もある。日本人乗船研究者も数多く名を連ねている。

Wadham, J. L., Arndt, S., Tulaczyk, S., Stibal, M., Tranter, M., Telling, J., Lis, G. P., et al.
Nature, 488(7413), 633–637. doi:10.1038/nature11374, Published online 29 August 2012.
→南極氷床の下の堆積物に、大量の有機物(21,000 PgC)とメタンハイドレート(100-400 PgC)が眠っているという推計。様々な氷床下堆積物のインキュベーション実験や、1次元堆積物モデルによる計算。当然、微生物もたくさんいることになる。量が多いというだけでなく、氷床の変動とともに大きく変動しうるリザーバーという点で重要。氷床融解→メタン放出→温暖化という正フィードバックになるかも。いつか掘削できるだろうか?

Metcalf, W. W., Griffin, B. M., Cicchillo, R. M., Gao, J., Janga, S. C., Cooke, H. A., Circello, B. T., et al.
Science, 337(6098), 1104–1107. doi:10.1126/science.1219875. 31 August 2012.
→海洋微生物によるメチルホスホン酸の生合成代謝を同定し、生合成されることを確認。酸化的な海洋がメタンに過飽和になっているパラドックスについて、Karl et al. (2008, Nature Geosci) が「メチルホスホン酸分解によるリン獲得の際の副産物で好気的メタン生成」という仮説を提唱していたが、そもそもメチルホスホン酸が自然界で作られているかどうか不明だった。鍵遺伝子は海洋メタゲノムデータにも広く分布しており、パラドックス解決? でも微生物はメチルホスホン酸をなぜ作るんだろう?

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