2012年10月7日日曜日

特に気になった新着論文 2012年9月 New Papers (Sep. 2012)


9月は9本。真菌メタン生成、太古代有機硫黄同位体、18S rDNAの限界、2段階のマンガン還元代謝、珪藻ブルームと鉄と微生物、GDGT脂質レビュー、海洋N:P比と藻類多様性、UCYN-Aの共生相手、大気酸素分子clumped isotope。日付順。

Lenhart, K., Bunge, M., Ratering, S., Neu, T. R., Schüttmann, I., Greule, M., Kammann, C., et al. (2012)
Nature Communications, 3, 1046. doi:10.1038/ncomms2049. Published 04 September 2012.
→好気条件で培養した真菌がメタン生成したらしい。メタン生成アーキアが混入していないことは、FISHPCRなどで確認しているようだ。13Cラベル実験によると、メチオニン(!)の硫黄に結合しているメチル基が前駆体になっている可能性がある。にわかには信じがたい話だけど、もしこれが本当で、しかも環境中で量的にも重要だとしたら、生物地球化学の色んな話が変わってきそう。続報を待ちたい。炭素・水素同位体分別はどうなっているんだろう。

Bontognali, T. R. R., Sessions, A. L., Allwood, A. C., Fischer, W. W., Grotzinger, J. P., Summons, R. E., & Eiler, J. M. (2012)
PNAS. doi:10.1073/pnas.1207491109. Published online before print September 4, 2012.
→西オーストラリアの34.5億年前のストロマトライトの有機物(ケロジェン)の硫黄同位体組成(d34SD33S)を、SIMSで分析。D33Sは正の値を示し、d34Sは細かな空間スケールで数十‰もの変動を示した。微生物マットの硫黄代謝がマット間隙水の硫化水素の硫黄同位体組成を変え、それが有機物に取り込まれたという解釈を示している。が、一読した限りでは、いまいち納得できなかった。有機硫黄はもっと後の段階でも変わってしまいそうな気もするけど…?

Tang, C. Q., Leasi, F., Obertegger, U., Kieneke, A., Barraclough, T. G., & Fontaneto, D. (2012)
PNAS. doi:10.1073/pnas.1209160109. Published online before print September 17, 2012.
meiofauna1mm以下の微小な底生無脊椎動物)の生物多様性を調べる手法として、よく使われる18S rDNAは、形態分類よりも多様性を数分の1に過小評価してしまうらしい。COI (Cytochrome c oxidase subunit I mtDNA) を使うと、むしろ形態よりも解像度高く分かるのでオススメらしい。他の生物群ではどうなんだろう…?

Hui Lin, Nadia H. Szeinbaum, Thomas J. DiChristina, Martial Taillefert (2012)
Geochimica et Cosmochimica Acta, Available online 18 September 2012
→マンガンを還元して有機物を酸化する微生物代謝では、従来はMn (IV)Mn (II) の還元反応が一度に進むと考えられていたが、実際にはMn (IV)Mn (III)Mn (II) という二段階の反応になっている模様。しかも有機物を酸化して無機炭素を放出するのは後半のMn (III)Mn (II) 反応だけで、前半のMn (IV)Mn (III) 反応は、マンガンを溶解させて使いやすくするための反応らしい。海洋堆積物などでの有機物分解を考える上で重要。

Boyd, P. W., et al. (2012)
Geophys. Res. Lett., 39, L18601, doi:10.1029/2012GL053448. published 19 September 2012.
→遠洋珪藻ブルームでは、珪藻と微生物&微小植物プランクトンとの間の、溶存鉄をめぐる競争が重要らしい。2008年のニュージーランド沖の春季珪藻ブルームを観測したら、鉄制限によって終わったらしい。鉄をめぐる競争では、微生物はK戦略とr戦略の両方を用いる。従来のモデルでは固定した藻類Fe:C比を用いていたが、実際には同化Fe:C比が生物グループごとにダイナミックに変化する。

Stefan Schouten, Ellen C. Hopmans, Jaap S. Sinninghe Damsté
Organic Geochemistry, Available online 19 September 2012
→最近10年間で急速に研究が進んできた、GDGT (Glycerol dialkyl glycerol tetraether) 脂質の有機地球化学についてのレビュー。執筆者は、アーキアGDGTを使ったTEX86古水温計を2002年に提唱したNIOZの人たち。項目は、分析法、分子構造、生合成、微生物生態学的応用、古環境学的応用など。役立つ。

Thomas Weber & Curtis Deutsch
Nature 489, 419–422 (20 September 2012) doi:10.1038/nature11357
→海洋の栄養塩のN:P比(14.3)は、藻類の平均N:P比(Redfield比=16)にかなり近いけど、その制御要因は分かっていそうで実はよく分かっていなかった。生態系&生物地球化学を考慮したGCMを走らせると、「藻類N:P比の多様性」「異なるN:P比の海域が海洋循環で結合すること」の2点が重要らしいことが分かった。藻類N:P比一定のモデルだと、栄養塩N:P比がずっと低くなってしまう。南大洋を扱ったWeber & Deutsch (2010, Nature) の続きで全球版という感じか。藻類群集組成や海洋循環が現在とは違う時代にはどうだったんだろうというのが次に気になるところ。ふーむ。

Thompson, A. W., Foster, R. A., Krupke, A., Carter, B. J., Musat, N., Vaulot, D., Kuypers, M. M. M., Zehr, J. P. (2012)
Science, 337(6101), 1546–1550. doi:10.1126/science.1222700. 21 September 2012.
→謎の海洋単細胞窒素固定シアノバクテリアUCYN-Aに、ついに共生相手が見つかった。ゲノム中に光合成系IITCA回路、特定のアミノ酸生合成経路などを欠いていて、何かと共生して有機炭素を供給してもらっているのではないか?と以前から言われていた。海洋の炭素循環・窒素循環を考える上でかなり重要。しかもハプト藻。石灰質なり有機質なりの殻を持つハプト藻だと、古海洋学的にも面白くなる。オルガネラ進化のモデルケースとしても興味深い。

Yeung, L. Y., E. D. Young, and E. Schauble (2012)
J. Geophys. Res., doi:10.1029/2012JD017992, in press.
→対流圏大気の酸素分子のclumped isotope分析(希少同位体同士が結合した分子種:O2分子だと18O-18O17O-18O)。36Arが同重体で干渉するので、ArO2をガスクロで分離して分析。炭酸塩の13C-18O結合を用いた古温度計は最近研究が進んできたけど、ついに酸素分子。大気中の分布には、O(3P) + O2の同位体交換反応が重要らしい。アイスコア中の記録をたどると、過去の大気の循環とラジカル反応の変動を復元できるかも?

2012年9月1日土曜日

特に気になった新着論文 2012年8月 New Papers (Aug. 2012)


8月は9本。海底下深部ウイルス生態、海洋N2固定速度見直し、樹木中メタン生成、タイタン大気アミノ酸&核酸生成、海底下堆積物生命圏量見直し、北極海沿岸の古い有機物、新生代CCD変動、南極堆積物メタン、メチルホスホン酸生合成。日付順。

今月は個人的には豊作でこれら以外にも面白そうな論文が多かった。

Engelhardt, T., Sahlberg, M., Cypionka, H., & Engelen, B.
The ISME Journal , (2 August 2012) | doi:10.1038/ismej.2012.92
ODP Leg.201の海洋堆積物掘削コア中のバクテリア(Rhizobium radiobacter)とそのウイルス。ウイルス:バクテリア比は、100mbsf以浅では概ね1-10の範囲だけど、数百mbsfでは20ぐらいまで増えているので、海底下深部でウイルスが生産されている? 溶菌性ではなく、溶原性ウイルス(感染しても増殖して宿主を殺すことなく、宿主ゲノムに入り込むウイルス)が多いらしい。ふむ。オルデンブルクのEくん。

Großkopf, T., Mohr, W., Baustian, T., Schunck, H., Gill, D., Kuypers, M. M. M., Lavik, G., et al.
Nature, 488(7411), 361–364. doi:10.1038/nature11338. Published online 08 August 2012.
→海洋N2固定速度の見直し。15NラベルしたN2ガスを気泡として海水に加える従来手法では、N2ガスが溶けきらず、N2固定速度を過小評価してしまうらしい。15N2で飽和した海水を添加する新手法では、従来の1.7倍の速度が得られた。今回の大西洋の結果を全海洋に外挿すると、N2固定速度は約177 TgN/yrとなって、海洋窒素収支はバランスに近づくようだ(それでもまだN2固定の方がやや少ないか?)。ただやっかいなことに従来手法と新手法による速度推定はあまり相関していなくて、従来手法による見積を簡単には補正することができない。

Covey, K. R., Wood, S. A., Warren, R. J., Lee, X., & Bradford, M. A.
Geophysical Research Letters, 39, L15705. doi:10.1029/2012GL052361, published 9 August 2012.
→樹木にメタン生成アーキアを含む微生物群集が感染して、樹木内部でメタンを生成しているかも? 樹木からのメタン放出についてはKeppler et al. (2006, Nature) から激しい議論が続いており、「土壌中生成メタンが樹木を通過して放出」「紫外線照射による無生物的メタン生成」などのメカニズムが注目されていたが、樹木内微生物の役割はあまり考えられてこなかったらしい。今後もまだまだ議論は続くのだろうけど、「植物の病気の生物地球化学的役割」という考え方が面白い。このトピックに関しては、今年1月にレビュー論文 Bruhn et al. (2012) が出ている。

Hörst, S. M., Yelle, R. V., Buch, A., Carrasco, N., Cernogora, G., Dutuit, O., Quirico, E., et al.
Astrobiology. doi:10.1089/ast.2011.0623. Online Ahead of Print: August 23, 2012
→タイタン模擬大気(N2/CH4/CO)の高周波放電実験で、アミノ酸と核酸塩基が生成されたらしい。シトシン、ウラシル、チミン、アデニン、ヒスチジンなど。一酸化炭素中の酸素原子が重要らしい。液体の水がなくてもOKで、上層大気環境での無生物的有機分子合成は初めてらしい。

Kallmeyer, J., Pockalny, R., Adhikari, R. R., Smith, D. C., & D’Hondt, S.
PNAS August 27, 2012, doi: 10.1073/pnas.1203849109
→堆積物海底下生命圏の微生物数・バイオマスの再評価。菌数カウントを遠洋域を含む様々な海域で行い、堆積速度や陸からの距離との関係から、全球分布を推定。Whitman et al. (1998, PNAS) Lipp et al. (2008, Nature) など従来推定(菌数:1030乗、バイオマス:60-300 PgC)に比べてだいぶ減ってしまった(菌数:1029乗、バイオマス:4 PgC)。話には聞いていたけど、ずいぶんな減りようだ。ポツダムのKさんたち。

Vonk, J. E., Sánchez-García, L., van Dongen, B. E., Alling, V., Kosmach, D., Charkin, A., Semiletov, I. P., et al.
Nature. doi:10.1038/nature11392. Published online 29 August 2012.
→北極海東シベリア沿岸のIce Complex deposits (ICD) 永久凍土では、侵食によって古い有機物が毎年約44 TgC解放され、3分の2は二酸化炭素として大気に放出され、残りは大陸棚に再堆積しているらしい。大陸棚表層堆積物の安定&放射性炭素同位体組成(d13CD14C)分析から、供給源を推定。有機物解放速度は従来推定より1桁多く、北極圏の温暖化をさらに加速させる要因になるかもしれない。

Pälike, H., Lyle, M. W., Nishi, H., Raffi, I., Ridgwell, A., Gamage, K., Klaus, A., et al.
Nature, 488(7413), 609–614. doi:10.1038/nature11360, Published online 29 August 2012.
→新生代の熱帯太平洋における炭酸塩補償深度(CCD)の変動を、2009年のIODP Exp.320-321 (PEAT) で掘削された堆積物コアから復元。Eocene/Oligocene境界では一気に1km近くも深くなっている。Eoceneには大きな振幅で振動しており、地球システムモデルによる解析からその原因として、「気候変動に伴う大陸風化の変動」と「堆積する有機物の質(易分解性有機物の割合)の変動」の可能性を仮説として挙げている。個人的には当然、後者が気になる。珪質プランクトンと炭酸塩プランクトンの割合の変動などが原因? 底層海水温の変動が堆積物微生物代謝に効くという話もある。日本人乗船研究者も数多く名を連ねている。

Wadham, J. L., Arndt, S., Tulaczyk, S., Stibal, M., Tranter, M., Telling, J., Lis, G. P., et al.
Nature, 488(7413), 633–637. doi:10.1038/nature11374, Published online 29 August 2012.
→南極氷床の下の堆積物に、大量の有機物(21,000 PgC)とメタンハイドレート(100-400 PgC)が眠っているという推計。様々な氷床下堆積物のインキュベーション実験や、1次元堆積物モデルによる計算。当然、微生物もたくさんいることになる。量が多いというだけでなく、氷床の変動とともに大きく変動しうるリザーバーという点で重要。氷床融解→メタン放出→温暖化という正フィードバックになるかも。いつか掘削できるだろうか?

Metcalf, W. W., Griffin, B. M., Cicchillo, R. M., Gao, J., Janga, S. C., Cooke, H. A., Circello, B. T., et al.
Science, 337(6098), 1104–1107. doi:10.1126/science.1219875. 31 August 2012.
→海洋微生物によるメチルホスホン酸の生合成代謝を同定し、生合成されることを確認。酸化的な海洋がメタンに過飽和になっているパラドックスについて、Karl et al. (2008, Nature Geosci) が「メチルホスホン酸分解によるリン獲得の際の副産物で好気的メタン生成」という仮説を提唱していたが、そもそもメチルホスホン酸が自然界で作られているかどうか不明だった。鍵遺伝子は海洋メタゲノムデータにも広く分布しており、パラドックス解決? でも微生物はメチルホスホン酸をなぜ作るんだろう?

2012年8月25日土曜日

集めた論文の覚書 [顕生代の硫黄循環2] Literature Review [Sulfur cycle during the Phanerozoic] #2


顕生代の硫黄循環の見直しを提唱したWortmann and Paytan (2012, Science) Halevy et al. (2012, Science) を読んで集めた論文たち、その2。その1では大気酸素濃度との関連に着目したが、今回は海洋化学組成(特に硫酸塩濃度)に着目して、海洋硫酸塩の硫黄同位体組成(d34S)、酸素同位体組成(d18O)の復元研究がメイン。やはり有機炭素埋没との関連を議論した論文が多い。論文はもっともっとあるはずだけど、キリがないのでとりあえず目についたもののみ。

Claypool, G. E., Holser, W. T., Kaplan, I. R., Sakai, H., & Zak, I. (1980)
Chemical Geology, 28, 199–260. doi:10.1016/0009-2541(80)90047-9
→蒸発岩から復元した、過去約9億年分の海洋硫酸塩の硫黄同位体組成(d34S)、酸素同位体組成(d18O)の経年曲線。1000件近く引用されていて、教科書等にもよく図が載っている。

Strauss, H. (1997)
Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 132(1-4), 97–118. doi:10.1016/S0031-0182(97)00067-9
→顕生代と後期原生代の堆積物d34Sの変動についてレビュー。Claypool-curveも更新されている。

Adina Paytan, Miriam Kastner, Douglas Campbell, Mark H. Thiemens (1998)
Science, 282(5393), 1459–1462. doi:10.1126/science.282.5393.1459
→バライト(重晶石)を用いて新生代の海洋硫酸塩d34S変動を100万年解像度で復元。溶存無機炭素d13Cの記録とは似ていないので、炭素循環と硫黄循環は同調していなかった?

Ohkouchi, N., Kawamura, K., Kajiwara, Y., Wada, E., Okada, M., Kanamatsu, T., & Taira, A. (1999)
Geology, 27(6), 535–538. doi:10.1130/0091-7613(1999)027<0535:siralb>2.3.CO;2
OAE-293.5Ma)の炭酸塩岩中硫酸塩のd34S

Lowenstein, T. K., Timofeeff, M. N., Brennan, S. T., Hardie, L. a, & Demicco, R. V. (2001)
Science, 294(5544), 1086–8. doi:10.1126/science.1064280
→蒸発岩ハライト中の流体包有物から、顕生代における海水組成変動を復元。主にMg/Ca比とカルサイト-アラゴナイトの変動について。

Horita, J., Zimmermann, H., & Holland, H. D. (2002)
Geochimica et Cosmochimica Acta, 66(21), 3733–3756. doi:10.1016/S0016-7037(01)00884-5
→蒸発岩ハライト中の流体包有物から、顕生代における海水組成変動を復元。硫酸塩濃度は、5-10mMから28mMぐらいの間で変動していて、Mg2+と同期?

Lowenstein, T. K., Hardie, L. a., Timofeeff, M. N., & Demicco, R. V. (2003)
Geology, 31(10), 857. doi:10.1130/G19728R.1
→顕生代の海洋硫酸塩濃度とCa2+濃度は、きれいに逆相関しながら大きく変動?

Kurtz, A. C., Kump, L. R., Arthur, M. A., Zachos, J. C., & Paytan, A. (2003)
Paleoceanography, 18(4), 1090. doi:10.1029/2003PA000908
→シンプルなボックスモデルで、新生代海洋の硫酸塩d34SDIC-d13C変動曲線から、有機炭素埋没量とパイライト埋没量を復元。前記新生代で両者が同調していないという議論。ただしモデル結果は、海水硫酸塩濃度の仮定に大きく依存する。

M.B. Goldhaber (2003)
Treatise on Geochemistry, 7, 257–288
→堆積物の硫黄の地球化学についてレビュー。パイライト形成メカニズムや硫黄同位体組成変動など。

Turchyn, A. V., & Schrag, D. P. (2004)
Science, 303(5666), 2004–7. doi:10.1126/science.1092296
→過去1000万年分のバライトの酸素同位体組成(d18O)。3Maから値が低くなるのは、氷期間氷期サイクルによる海水準変動が、大陸棚でのパイライト風化を促進した結果? 海水硫酸塩濃度も10-20%ほど増加した?

Kampschulte, A, & Strauss, H. (2004)
Chemical Geology, 204(3-4), 255–286. doi:10.1016/j.chemgeo.2003.11.013
→炭酸塩岩中硫酸塩のd34S分析による、顕生代における海水硫酸塩d34Sの復元。

Adina Paytan, Miriam Kastner, Douglas Campbell, Mark H. Thiemens (2004)
Science, 304(5677), 1663–5. doi:10.1126/science.1095258
→バライトを用いて白亜紀の海洋硫酸塩d34S変動を復元。Payton et al. (1998) の続き。やはりd13Cと同調しない期間があって、有機炭素埋没とパイライト埋没の関係を議論している。

Bottrell, S. H., & Newton, R. J. (2006)
Earth-Science Reviews, 75(1-4), 59–83. doi:10.1016/j.earscirev.2005.10.004
→顕生代や原生代の海洋硫酸塩のd34Sd18Oから硫黄循環を復元する研究のレビュー。

Turchyn, A. V., & Schrag, D. P. (2006)
Earth and Planetary Science Letters, 241(3-4), 763–779. doi:10.1016/j.epsl.2005.11.007
→新生代における海洋硫酸塩d18O変動をバライトから復元。3, 15, 30, 55Mad18Oが高いピークを示し、d34Sとは同調していない。高濃度の有機炭素を含む大陸縁辺堆積場の面積が重要?

Hay, W. W., Migdisov, A., Balukhovsky, A. N., Wold, C. N., Flögel, S., & Söding, E. (2006)
Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 240(1-2), 3–46. doi:10.1016/j.palaeo.2006.03.044
→蒸発岩形成量コンパイルから、顕生代における海水塩分濃度変動を復元。変動しながら徐々に減少しているトレンドらしい。高塩分(40‰以上)だと、温度変化に対する海水の密度変化の仕方が違って、熱塩循環の様式が違ったかも。海洋生物にも影響?

Wortmann, U. G., & Chernyavsky, B. M. (2007)
Nature, 446(7136), 654–6. doi:10.1038/nature05693
→前期白亜紀で海洋硫酸塩d34SDIC-d13Cが逆相関を示していて謎だったけど、南大西洋海盆での蒸発岩形成で硫酸塩濃度が減少したと考えると、うまく説明できるらしい。パイライト埋没が減少する一方で、堆積物中での有機物無機化は減少して有機炭素埋没は増加する。堆積物海底下生命圏の重要性。

Gill, B. C., Lyons, T. W., & Saltzman, M. R. (2007)
Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 256(3-4), 156–173. doi:10.1016/j.palaeo.2007.02.030
→古生代における、海洋硫酸塩d34SDIC-d13Cの変動の関係性について。前期古生代では同調して変動していて、中後期では同調しなくなるのは、硫酸塩濃度の増加を反映している?

Canfield, D. E., & Farquhar, J. (2009)
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 106(20), 8123–7. doi:10.1073/pnas.0902037106
→前期古生代以降に動物が進化して堆積物を生物擾乱するようになって、硫化物の再酸化が促進されて、海洋硫酸塩濃度が増加したという議論。

Turchyn, A. V., Schrag, D. P., Coccioni, R., & Montanari, A. (2009)
Earth and Planetary Science Letters, 285(1-2), 115–123. doi:10.1016/j.epsl.2009.06.002
→白亜紀における海洋硫酸塩のd34Sd18O変動をバライトとCAS(炭酸塩岩中硫酸塩)から復元。バライトd18Oの大きな変動は、OAEでの海洋酸化還元状態変動に対応?

Adams, D. D., Hurtgen, M. T., & Sageman, B. B. (2010)
Nature Geoscience, 3(3), 201–204. doi:10.1038/ngeo743
OAE-2では、火山噴火→海洋硫酸塩濃度が増加→硫酸還元による堆積物有機物分解が促進→海洋に栄養塩が供給→生物生産増加→貧酸素海洋、という一連のプロセスが起きていた? パイライトとCASd34S比較。そしてこの海域(Western Interior Seaway)の硫酸塩濃度は、OAE-2の前はわずか1.4mM以下だった?

Warren, J. K. (2010)
Earth-Science Reviews, 98(3-4), 217–268. doi:10.1016/j.earscirev.2009.11.004
→地質時代を通しての蒸発岩についてのレビュー。

Cárdenas, A. L., & Harries, P. J. (2010)
Nature Geoscience, 3(6), 430–434. doi:10.1038/ngeo869
→顕生代における海洋生物の新種発生率が、海洋の87Sr/86Srや硫酸塩d34Sの変動と良い相関を示した。87Sr/86Srが大陸風化の指標というのはいいけど、d34Sがリンリサイクルの指標としているのはどうなんだろう??

Wu, N., Farquhar, J., Strauss, H., Kim, S.-T., & Canfield, D. E. (2010)
Geochimica et Cosmochimica Acta, 74(7), 2053–2071. doi:10.1016/j.gca.2009.12.012
→顕生代における、硫酸塩-パイライト間のd34S分別と、D33S(から求めたラムダ)の変動。両者は似た変動を示す。硫化物再酸化の度合いを反映?

Luo, G., Kump, L. R., Wang, Y., Tong, J., Arthur, M. a., Yang, H., Huang, J., et al. (2010)
Earth and Planetary Science Letters, 300(1-2), 101–111. doi:10.1016/j.epsl.2010.09.041
→南中国のP/T境界で、CASによる硫酸塩d34S復元と、炭酸塩によるDIC-d13C復元。両者が同調して、しかも大きなd34S変動があるので、海洋硫酸塩濃度は現在の15%未満とかなり低かった?

Bots, P., Benning, L. G., Rickaby, R. E. M., & Shaw, S. (2011)
Geology, 39(4), 331–334. doi:10.1130/G31619.1
→顕生代の「カルサイトの海」と「アラゴナイトの海」の入れ替わりには、Mg/Ca比だけではなく硫酸塩濃度の変動も重要だった? 海水組成を変えた炭酸塩無機沈殿実験。

Gill, B. C., Lyons, T. W., & Jenkyns, H. C. (2011)
Earth and Planetary Science Letters, 312(3-4), 484–496. doi:10.1016/j.epsl.2011.10.030
→ジュラ紀Toarcian OAEの海洋硫酸塩d34S変動を3地域でCASで復元。d13Cの正エクスカーションと同調。パイライト埋没の増加を反映? 硫酸塩濃度は4-8mMぐらいだったらしい。

Gill, B. C., Lyons, T. W., Young, S. a, Kump, L. R., Knoll, A. H., & Saltzman, M. R. (2011)
Nature, 469(7328), 80–3. doi:10.1038/nature09700
→後期カンブリア紀(499Ma)の6地域の海洋硫酸塩d34S変動をCASで復元。DIC-d13Cの急激な正エクスカーション(SPICE)と同調した変動。Euxinicな海洋での有機炭素埋没とパイライト埋没の増加を反映?

Ratti, S., Knoll, A H., & Giordano, M. (2011)
Geobiology, 9(4), 301–12. doi:10.1111/j.1472-4669.2011.00284.x
→中生代に渦鞭毛藻、円石藻、珪藻が主要な海洋一次生産者になったのには、海洋硫酸塩濃度の変動が効いていたかも? 硫酸塩濃度を振って、様々な藻類を培養実験。


メモ:
多くの論文が、硫酸塩d34Sをパイライト埋没の指標として考えて、ボックスモデル計算などをしている。炭酸塩から復元した海洋溶存無機炭素の炭素同位体組成(DIC -d13C)と比較し、同調していたか否かから、海洋硫黄循環と有機炭素埋没との関連を議論する論文が多い。

最近10年間で、顕生代において海洋硫酸塩濃度は大きく変動してきたという認識が広がってきている模様。多くの時代で、現在(28mM)よりも低い濃度だったようだ。海水Mg/Ca比などとの関連も興味深い。

最近は、高時間解像度での復元が可能特にCAS(炭酸塩岩中硫酸塩)の同位体組成分析が流行っているようだ。

2012年8月20日月曜日

集めた論文の覚書 [顕生代の硫黄循環1] Literature Review [Sulfur cycle during the Phanerozoic] #1


顕生代の硫黄循環の見直しを提唱したWortmann and Paytan (2012, Science) Halevy et al. (2012, Science) を読んで、これは重要そうだと感じたので、背景知識獲得のためにいくつか論文を集めてみた。まずは顕生代における硫黄循環と大気酸素(O2)濃度との関係について、特に炭素&硫黄同位体マスバランスを用いたモデリングを中心に。モデルは色々あるようだけど、よく引用されているBernerのモデル(GEOCARBSULFなど)の系列を主に追った。

Berner, R. A.
American Journal of Science, 268(1), 1–23. (1970) doi:10.2475/ajs.268.1.1
→堆積物中パイライト形成のメカニズムと制限因子について。1000件近く引用されている。

Garrels, R M, & Lerman, A.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 78(8), 4652–6. (1981)
→炭素と硫黄に関するボックスモデルを構築し、顕生代の海水硫酸硫黄同位体組成(d34S)曲線から、各リザーバー間のフラックスの変動を復元。海水の炭素量、硫黄量はそれぞれ顕生代で一定という仮定。

Berner, R. A., & Raiswell, R.
Geochimica et Cosmochimica Acta, 47(5), 855–862. (1983) doi:10.1016/0016-7037(83)90151-5
→上記Garrels and Lerman (1981) モデルの計算から得られた、顕生代の有機炭素埋没とパイライト埋没の比率(C/S比)の変動について考察。主要な有機炭素埋没の場所が淡水環境やeuxinicな環境に変わることで、パイライト埋没量が変わり、C/S比が変化する?

Berner, R. A.
Geochimica et Cosmochimica Acta, 48(4), 605–615. (1984) doi:10.1016/0016-7037(84)90089-9
→上記Berner (1970) をアップデート。堆積物中パイライト形成の、環境ごとの制限因子や、顕生代における変動についてレビュー。これも1000件近く引用されている。

Garrels, R. M., & Lerman, A.
American Journal of Science, 284(9), 989–1007. (1984) doi:10.2475/ajs.284.9.989
→上記Garrels and Lerman (1981) モデルの改良。

Berner, R. A.
American Journal of Science, 287(3), 177–196. (1987) doi:10.2475/ajs.287.3.177
→上記Garrels and Lerman (1984) モデルをさらに改良。堆積物の各リザーバーを、若い(再利用が速い)サブリサーバーと、古いサブリザーバーとに分割。

Berner, R. A.
Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 75(1-2), 97–122. (1989) doi:10.1016/0031-0182(89)90186-7
→現世の海洋堆積物における有機炭素とパイライトの埋没、および顕生代におけるその変動が大気O2濃度変動に与えた影響についてレビュー。

Berner, R. A., & Canfield, D. E.
American Journal of Science, 289(4), 333–361. (1989) doi:10.2475/ajs.289.4.333
→大気O2濃度安定化のための負フィードバックとして、炭素と硫黄の「速い再利用」(埋没した堆積物がすぐに風化される)をモデルに組み込んだ。同位体マスバランスではなく、堆積岩中の炭素&硫黄濃度データを大気O2濃度復元に使用している。

Canfield, D. E., & Teske, A.
Nature, 382(6587), 127–32. (1996) doi:10.1038/382127a0
→この論文は後期原生代に関するものだけど、「O2濃度増加→硫黄酸化リサイクル増加→硫黄同位体分別増加」というプロセスは、後に下記Berner et al. (2000) 以降のモデルに組み込まれ、GEOCARBSULFにも仮定として入っている。

Berner, R. A.
Proceedings of the National Academy of Sciences, 96(20), 10955–10957. (1999) doi:10.1073/pnas.96.20.10955
→顕生代の炭素循環と硫黄循環と大気O2濃度についてレビュー。

Berner, R. A., Petsch, S., Lake, J., Beerling, D., Popp, B., Lane, R., Laws, E., et al.
Science, 287(5458), 1630–1633. (2000) doi:10.1126/science.287.5458.1630
→炭素・硫黄同位体分別の大気O2濃度に依存した生理学的変動をモデルに組み込んだら、推定された顕生代大気O2濃度変動が安定して、堆積岩中炭素&硫黄濃度による推定と概ね一致するようになった。

Berner, R. A.
Geochimica et Cosmochimica Acta, 65(5), 685–694. (2001) doi:10.1016/S0016-7037(00)00572-X
→上記Berner et al. (2000) の拡張版。感度実験を色々と行っている。

Berner, R. A., Beerling, D. J., Dudley, R., Robinson, J. M., & Wildman, R. A.
Annual Review of Earth and Planetary Sciences, 31(1), 105–134. (2003) doi:10.1146/annurev.earth.31.100901.141329
→顕生代の大気O2濃度変動についてレビュー。

Bergman, N. M., Lenton, T. M., & Watson, A. J.
American Journal of Science, 304(5), 397–437. (2004) doi:10.2475/ajs.304.5.397
→下記GEOCARBSULFの結果とよく比較される論文。O2-海洋栄養塩フィードバックなモデルやGEOCARBモデル、硫黄循環モデルなどを結合した、共進化生物地球化学モデル。同位体マスバランスはモデリングには使われていない。ちなみに下記Berner (2006) は、このモデルについて「風化速度と大気O2濃度の関係の仮定が妥当でない」「堆積速度と埋没の関係を考慮していない」と批判している。

Berner, R. A.
Geochimica et Cosmochimica Acta, 69(13), 3211–3217. (2005) doi:10.1016/j.gca.2005.03.021
Berner (2001) モデルを用いて、中期ペルム紀~中期三畳紀(270-240Ma)に絞って、海水のd13Cd34Sデータから、有機炭素埋没、パイライト埋没、大気O2濃度の変動を推定。P/T境界をまたいで、約2000万年間で大気O2濃度が30%13%と大きく減少? (陸源?)有機炭素埋没は大きく減少した一方で、パイライト埋没は増加したらしい?

Falkowski, P. G., Katz, M. E., Milligan, A. J., Fennel, K., Cramer, B. S., Aubry, M. P., Berner, R. a, et al.
Science, 309(5744), 2202–4. (2005) doi:10.1126/science.1116047
Berner (2001) モデルに、ジュラ紀以降のd13Cデータも新たに与えて、過去205Myrの 大気O2濃度変動を推定。大西洋が開いて大陸縁辺部の堆積場が増加した結果、大気O2濃度はこの期間で約2倍に増加して(10%21%)、哺乳類進化に重要だった?

Berner, R.
Geochimica et Cosmochimica Acta, 70(23), 5653–5664. (2006) doi:10.1016/j.gca.2005.11.032
CO2用のGEOCARB IIIモデル(Berner and Kothavala 2001)とO2用の同位体マスバランスモデル(Berner 2001)を結合して、GEOCARBSULFモデルを構築。顕生代の海洋d34Sd13Cから、大気O2濃度、CO2濃度の変動を復元。よく引用されている。

Berner, R. A.
American Journal of Science, 309(7), 603–606. (2009) doi:10.2475/07.2009.03
Berner (2006) GEOCARBSULFモデルの改良(主に炭素に関して)。この論文以前にもこまごまとした変更は行われている。Bernerのモデルはこれが最新?? 顕生代の大気O2濃度は常に15%を超えている結果になった。

Sim, M. S., Bosak, T., & Ono, S.
Science, 333(6038), 74–7. (2011) doi:10.1126/science.1205103
→硫酸還元だけで66 permil34Sを分別できる硫酸還元菌の発見。硫黄酸化リサイクルがなくても、硫酸-パイライト間の硫黄同位体分別が説明できてしまう。これも主に原生代を標的にした話だけど、GEOCARBSULFでも硫黄同位体分別に関して、Canfield and Teske (1996) の「O2濃度増加→硫黄酸化リサイクル増加→硫黄同位体分別増加」を仮定しているようなので、影響あるかも?


メモ:
大気O2濃度の変動というと、太古代~原生代における増加イベントが注目されることが多いけれど、顕生代(約54千万年前から現在にかけての時代)も同様に興味深い。15-35%ぐらいの間で変動していたと考えられているけれど、逆に言うとそのぐらいの範囲に収まっていて、現在の2倍以上や半分以下にはならなかったようだ。

そしてその顕生代大気O2濃度の変動や安定性を考えるのに最重要なプロセスが、堆積物における有機炭素とパイライト(黄鉄鉱)の埋没。大気を酸化的に保つには、還元的な物質を地下に隔離することが必要不可欠になる。(なので、自分自身が海洋堆積物中有機物の研究をしていることもあり、以前から大気O2濃度変動や海洋硫黄循環にも隣接トピックとして興味を持っていた)

で、古海洋の溶存無機炭素の炭素同位体組成(d13C)、硫酸塩の硫黄同位体組成(d34S)から、同位体マスバランスを用いて有機炭素埋没量とパイライト埋没量を推定して、大気O2濃度を推定しようという研究は昔からあって、GEOCARBSULFなどのモデルの開発につながっていった。

が、先月のScience論文×2によると、顕生代の海水硫酸塩d34S変動の解釈が変わってきて、その結果、パイライト埋没量は従来推定よりもずっと大きかったり、海水硫酸塩濃度が急激に変動していたりという結論が導かれている。大気O2濃度推定にも影響があるはずなので、具体的にどういう影響がありうるのかを、(まだ頭の中が整理できていないので)今度じっくり考えてみよう。


おまけ:顕生代の大気N2
Berner, R. A.
Geology, 34(5), 413. (2006) doi:10.1130/G22470.1
→硫黄は関係ないけど、ついでに見つけた論文。有機炭素のモデリングと、堆積物有機物の平均N/C比を使って、顕生代の大気N2濃度の変動を見積もった。O2と違い、濃度変動は1%未満とのこと。