2013年5月17日金曜日

集めた論文の覚書 [海洋環境のC:N:P比について] Literature Review [C:N:P ratio in marine environments]


海洋環境(海水&堆積物)のC:N:P比について、面白いなと最近思った論文のメモです。

Deutsch & Weber (2012, ARMS) より引用
海水の硝酸塩濃度とリン酸塩濃度のクロスプロット
黒実線がN:P比=16:1で、破線が14.5:1

なるほどなぁと思ったのは、海水の栄養塩のN:P比を決めている要因について(1-3番)。栄養塩のN:P比(14.3:1)は、藻類の平均N:P比(Redfield比:16:1)にかなり近いことはよく知られていますが、そのメカニズムは単純ではなく、背後には実は様々なプロセスが働いていることがわかってきました。

海水の有機物のC:N:Pも興味深いです(4-6番)。深海の溶存有機物はかなり高い値を示しますが、無機化される画分は比較的低めでRedfield比にわりと近い値です(4番)。懸濁態有機物は、緯度によって大きく変化するパターンを示すことが、つい最近分かってきました(5番)。低緯度・貧栄養な海域でC/P比とN/P比が高いのは、シアノバクテリアが高い値を示すから? 例えばリンを含まない脂質の合成・利用が、そのメカニズムとして考えられています(6番)。

海洋堆積物中の生物地球化学プロセスとstoichiometryの関係にはまだ謎が多いのですが、最近では、微生物細胞のC:N:P比が測定されたり(7番)、同位体トレーサーの1細胞レベルでの取込率の違いが測定されたり(8番)。土壌とかと比較してみると面白そう。海洋堆積物中の有機物のC:N:P比も気になるところですが、有機リンに関する論文については、また別の機会に紹介しようと思います。


<海洋の栄養塩のN:P比について>

Deutsch, C., Weber, T., 2012.
Annual Review of Marine Science 4, 113–141.
→海洋のN:P比についてのレビュー。勉強になる。

Quan, T.M., Falkowski, P.G., 2009.
Geobiology 7, 124–139.
→様々な海域や湖の栄養塩のN:P比の比較。湖では非常にバラつくけど、深海では驚くほど一定。湖底や海盆の表面積で分けると、大きいほどバラつきが小さくなる傾向にある。(ちなみに論文のメインの主張は、堆積物d15Nで過去の水塊の栄養塩N:P比が復元できるとかそういう話)

Weber, T., Deutsch, C., 2012.
Nature 489, 419–422.
1番で扱っている話の続き。生態系&生物地球化学を考慮したGCMを走らせると、「藻類N:P比の多様性」「異なるN:P比の海域が海洋循環で結合すること」の2点が全球の海洋栄養塩N:P比分布に重要らしいことが分かった。藻類N:P比一定のモデルだと、栄養塩N:P比がずっと低くなってしまう。じゃあ他の時代ではどうだったんだろうというのが気になるところ。


<海水有機物のC:N:P比>

Hopkinson, C.S., Vallino, J.J., 2005.
Nature 433, 142–145.
→海洋溶存有機物(DOM)のC:N:P比。易分解DOMでは平均199:20:1で、Redfield比よりは高いけど、難分解DOMの平均値(3511:202:1)よりはずっと低い。なので、移流によるDOMのエクスポートでは、窒素やリンに比べて炭素の方が効率よく深海に輸送されると。

Martiny, A.C., Pham, C.T.A., Primeau, F.W., Vrugt, J.A., Moore, J.K., Levin, S.A., Lomas, M.W., 2013.
Nature Geoscience 6, 279–283.
→様々な海域の海水懸濁態有機物(POM)のC:N:P比。全球平均すると、C/N比もC/P比も、Redfield比より2-3割高い値になった。しかも緯度方向にかなり大きな変化するパターンを見せた。概ね、低緯度・貧栄養で高く、高緯度・富栄養で低い。海水から藻類細胞をソーティングして元素組成分析すると、特に貧栄養海域のシアノバクテリアで非常に高いN/P比、C/P比だった。

Van Mooy, B.A.S., Fredricks, H.F., Pedler, B.E., Dyhrman, S.T., Karl, D.M., Koblízek, M., Lomas, M.W., Mincer, T.J., Moore, L.R., Moutin, T., Rappé, M.S., Webb, E.A., 2009.
Nature 458, 69–72.
→様々な海洋植物プランクトン(シアノバクテリア&真核藻類)は、リンを含まない脂質を合成・利用して細胞のC:P比を高くすることで、リンに枯渇した環境に適応できる。


<海洋堆積物微生物のstoichiometry

Steenbergh, A.K., Bodelier, P.L.E., Heldal, M., Slomp, C.P., Laanbroek, H.J., 2013.
Environmental Microbiology 15, 1572–1579.
→貧酸素な堆積物でリン無機化が促進されるのに、微生物のC/P比が高いことが効いている? バルト海堆積物中から微生物細胞を分離して、そのC:N:P比を蛍光X線微小分析。C/N比はRedfield比に近い値(6.4)だったけど、C/P比は400と高い値だった。核酸量が変わっているのか、脂質の組成を変えているのか。

Morono, Y., Terada, T., Nishizawa, M., Ito, M., Hillion, F., Takahata, N., Sano, Y., Inagaki, F., 2011.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 108, 18295–18300.
→海洋堆積物深部微生物の13C15Nを使った同位体トレーサー取込実験+NanoSIMSによる1細胞分析。アミノ酸以外の基質(炭素源はグルコース、酢酸、ピルビン酸など;窒素源はアンモニア)を加えた場合は、取込率はNC。アミノ酸を炭素&窒素源とした場合は、取込率はCN。高知のMさんら。